第22話「史上最大の作戦」その②


 モールや折り紙、トナカイの被り物等々を買いそろえた僕らは、次にプレゼントを求めて店を転々と回っていた。


「どんなものが好きなんだ、雪月って」

「そうですねー、やっぱあれじゃないですか? あのブランドもののバッグ。ピンク色で超かわいいですよっ!」

「……お前が欲しいだけじゃないのか、それ」

「な、なんでバレたんですかっ!?」

「欲しいって顔に書いてあったから……」

「ええっ、本当ですか!?」


 そう言って金糸雀はスマホで自分の顔を確認する。


 やれやれ、ベタなギャグを……。


 なんて内心ツッコミを入れながら再び前を見た瞬間、僕らの前方で立ち止る銀髪美少女を発見した。


 美少女はまっすぐにこちらを見つめ、言った。


「朝日くんと金糸雀……? 奇遇ね、何をしているの、こんなところで」


 雪月だった。


 パーカーとフレアスカートの、完全にオフって感じの服装だ。


 まさかの遭遇だ――。


「あ、ええとだな、これは……」


 突然の出来事に言いよどむ僕。


 ちょっと待て。このタイミングでそんなリアクションしたら、まるでいかがわしいことをしているみたいじゃないか。断じてそんなつもりはない。


 だが、焦れば焦るほどいうべき言葉は見つからなかった。


 ピンチに弱い脳みそだな、おい……っ!


「朝日さんにはお買い物に付き合ってもらってたんですよ、お姉ちゃん」


 ナイスタイミングだ金糸雀!


 そのままうまく切り抜けてくれ!


「ああ、買い物ね。その袋に入っているのが、そうなのかしら?」

「は、はい。そうなんです」

「パーティモールなんか、何に使うの?」

「え、ええと……」あたふたと落ち着きなく視線を彷徨わせる金糸雀。「ああ、そうそう、朝日さんがドラッグパーティしたいって」

「なわけあるかっっ‼ 誤解だッ‼」

「だ、だってしょうがないじゃないですか! ここでお姉ちゃんにバレたらサプライズにならないじゃないですかっ!」

「バレるより大変なことになるだろうが! 違法だ違法!」

「ええと……話を整理させて。あなたたちは何かしらの催しものをしようとして、買い物に来ているというわけね?」

「ああ、うん……そうなんだよ」

「何の催し物なの?」

「そ、それはだな……」


 僕は金糸雀の顔を見た。


 金糸雀は、諦めたように俯いていた。


 こうなったら仕方ないか。まさかこんなところで雪月に会うとも思ってなかったし。


「実はクリスマスパーティをしようと思ってるんだ。12月の24日。金曜日だし、ちょうどいいだろ?」

「12月24日……」


 雪月はそう呟くと、困ったように眉根を寄せた。


 あ――あれ?


 なんか思ってた反応と違う。


「本当は雪月を驚かせようって金糸雀と計画してたんだけど」

「そうね。気持ちは嬉しいのだけれど……」

「……え?」

「ごめんなさい。その日はきっと、予定が入ると思うの」

「よ、予定?」

「ええ」

「よ―――予定っスか!?」

「そう、予定よ」


 な、なんだって……!?


 クリスマスの日、雪月に予定があるなんて予定は僕の中にはなかったけど!?


「え、ええと……」

「だからごめんなさい。もしパーティをするのなら、金糸雀と二人で楽しんで頂戴ね」


 いやいやいやいやそうじゃないんだって。


 別に金糸雀とクリスマスパーティをしたいわけじゃないんだって。


 いったい何がどうなって――どういうことなんだ!?


「あ、あの、朝日さん? おおい、朝日さん、どうしちゃったんですか? 目の焦点が合ってないですよ……?」


 気づけば雪月はどこかへ行ってしまっていた。


 僕は茫然と突っ立ったまま、一瞬意識を失っていたらしい。


「か――金糸雀、話が違うみたいなんだけど」

「私も予想外でした。まさかお姉ちゃんにクリスマスの予定があったなんて」

「雪月が熱心なクリスチャンって話はないだろうな? それで、教会に行くから忙しいみたいなオチじゃ……」

「いえ、お姉ちゃんは教会になんか行ったことないと思います。長年一緒にいる私が言うんだから間違いありません」


 じゃあガチのマジでクリスマスに予定があるってことじゃん。


 っていうか、クリスマスに予定って―――――男じゃん。男と予定があるってことじゃん。


「なんてことなんだ……」

「どうします、朝日さん。プレゼントなんですけど……」

「ごめん金糸雀、僕今そんな気分じゃない」

「で、ですよね……。私の方こそごめんなさい。リサーチが甘かったかもです」

「とりあえず、帰る?」

「そうですね。帰りましょうか」


 僕と金糸雀はそのまま生ける屍のようになりながら、帰りのバスに乗ったのだった。





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