第17話「サムデイインザ少年少女」その⑦
「ど、どうしてそう思うんだ」
「だってそうでしょう? お姉ちゃんのこと気になってるんでしょう? 逆に、嫌いな子と二人でカラオケとか行きます?」
「いや……行かない」
「大体、今日だって私という美少女が一緒にいるにも関わらず、全然浮かれてもなかったじゃないですか。それってお姉ちゃんのことで頭がいっぱいで私のことなんか眼中になかったからですよねっ! だとしたら納得です」
金糸雀は一人でうんうんと頷く。
いや待て、僕は本当に雪月が好きなのか?
休み時間になると無意識のうちに雪月が読書している姿を目で追っている―――。
コンビニでも咄嗟に雪月のことを助けた――。
次の日雪月に話しかけてもらえなくてショックだった――けどコンビニで会えてハッピーだった――。
相合傘で帰ってカラオケ行って図書館行って雪月のためにカード作ってあげた――って。
好きじゃん。
僕、雪月のことめっちゃ好きじゃん。
うわ恥ずかしー。今まで僕自分のことクールで爽やか系な男子だと思ってたけど、全然そんなことなかったわ。
穴があったら入ったまま埋まり死にたい。
だが、仮にそうだったとしても。
僕が雪月をどう思っていようと、雪月が僕をどう思っているのかは分からないのだ。
それに中学生の頃のこともあるし……。
「金糸雀」
「はい?」
「お前が僕を雪月に相応しいと言ってくれたことは嬉しいよ。これは本当にそう思う。でも悪いけど、付き合うとなると自信が」
「あららー、どうしたんですか朝日さん、急に弱気になっちゃってぇ? 可愛いところもあるんですねぇ、くすくす」
金糸雀が僕を小馬鹿にしたような笑い声をあげる。
このガキが……!
しかし付き合っている相手がいるのを知らずに告白してフラれたという情けない理由だけに、強くは言い返せない。
「……笑うなよ、僕には僕で色々あるんだよ」
「もしかして過去の失恋を引きずってるとか?」
「!?」
「あ、当たりですか? 分かりやすい反応でしたね」
「お前には関係ないだろ……」
「関係ありますよ! 将来は私のお兄ちゃんになるかもしれない人のことですからねっ!」
お兄ちゃん!?
僕に金髪ツインテールの妹もとい義妹が出来るってこと!?
それはそれでなかなか魅力的な――ってそんなこと考えてる場合じゃないだろ。
「とにかく、今は恋愛とかそういうの、考えたくないんだよ」
「でも好きなんですよね、お姉ちゃんのこと」
「そ、それはまあ……そうだけど」
「じゃあ良いじゃないですか。需要と供給の一致じゃないですか」
「でも雪月が僕のことどう思ってるか分からないだろ」
「そんなの分かるわけないじゃないですか!」
「逆ギレするなよ……」
「ほんとチキンですねー、カーネルおじさんに調理してもらったらどうですか?」
「香ばしい朝日紫苑が誕生するだけだぞ」
「なんか嫌ですね、それ。ですが需要と供給が一致していることは分かりました」
「フライドチキンの?」
「違いますよ、お姉ちゃんのことです! 安心してください朝日さん、私がちゃんとサポートしてあげますからっ!」
金糸雀が胸を張る。
ささやかなサイズの胸だな……。
「別に無理やり僕と雪月を付き合わせようとしなくていいからな」
「分かってますよ。そのあたりは私も心得てますから」
「本当かよ……」
「当たり前じゃないですか! こう見えて私、恋愛経験は豊富なんですからねっ!」
それは確かに否定できないかも……。
「とりあえずお前に任せるよ……」
「なんですかそのやる気の無さは! でも、まあ、良いです。許してあげます。代わりに誕生日教えてください」
「え? なんで誕生日? ……11月21日だけど」
「へー、もうすぐじゃないですか。赤木博士と同じ誕生日ですね」
「誰だよ、それ」
「エヴァンゲリオン知らないんですか? おっくれてるぅ~」
「平成ひとケタ代の話を常識みたいに語るなよ……」
遅れてるのはどっちだよ。
いやむしろ逆走してるのか?
「おっと、そういえばお別れをするところでしたね。それじゃあ『8181』です、朝日さん」
「ああ、バイバイ……」
金糸雀は淀みない足取りで歩き始めたが、あっ、と呟いて立ち止るとこちらを振り向いた。
「朝日さん」
「なんだよ」
「もしお姉ちゃんがダメだったら、私と付き合います?」
「……は?」
「アメリカンジョークですよ。それじゃっ!」
金糸雀は悪戯っぽく笑った後でツインテールを翻し、軽いステップで雑踏の中へ消えていった。
その後ろ姿を見つめながら、家まで送ってやれば良かったな、と今更ながら思いついた。
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