第16話「サムデイインザ少年少女」その⑥
※
ちょうど金糸雀が僕を待っていた場所に、彼女のイヤホンケースは落ちていた。
中身も無事そうだ。
「金糸雀、これじゃないか?」
「そうです、それですっ!」
金糸雀は僕からイヤホンケースを受け取ると、大切そうにバッグへしまった。
「今度はもう落とすなよ」
「私が二度同じ間違いをするとでも?」
「同じ攻撃が通用しないボスキャラみたいな言い方だな……」
「とにかく、この件に関しては素直に感謝です。ありがとうございます、朝日さん」
そう言って頭を下げる金糸雀。
「すぐに見つかって良かったよ。これで心置きなく家に帰れるな。それじゃあな、金糸雀」
「あ、あのっ!」
僕が金糸雀に背を向けたとき、背後から服の袖を掴まれた。
思わず立ち止って振り返ると、金糸雀が上目遣いでこちらを見つめていた。
「どうした? 他にも何か無くしたのか?」
「いえ、違います。実は朝日さんに伝えたいことが……」
……ん?
この感じ、まさか。
現在僕が置かれている状況を冷静に分析してみよう。
女の子と二人きりで遊んだ後。
別れ際。
突然呼び止められ、伝えたいことがあると言われている。
それも何だか意味ありげな表情で。
これってあれじゃん。
告白じゃん。
ダメだって、それは。
確かに金糸雀は二次元チックな美少女ではある。それは認める。でも中学生だし、そもそも僕は金髪ツインテールが好きというわけでもない。
が、まだそうと決まったわけじゃない。
僕は心の中で深呼吸をして、言った。
「……なんだよ?」
「お付き合いして欲しいんです」
で、出た!
マジか!
しかし金糸雀には悪いが、僕はお前をそういう目で見ることはできない。
僕の豊富な(失恋の)経験から言えば、こういうのは有耶無耶にせずはっきりと言った方がお互いのためだ。
「あー、金糸雀、悪いんだけど」
「お姉ちゃんと」
「……え?」
「お姉ちゃんと、お付き合いして欲しいんです」
お姉ちゃんとお付き合いして欲しいんです?
えっ、ちょっと待ってそれどういう意味?
「何を言ってるんだお前は……!?」
「あれ、『お姉ちゃんと付き合ってほしい』って日本語ですよね? 私うっかり英語喋ってます?」
「いや日本語だけど、意味が分からなくて……。っていうかなんだそのバイリンガルアピール、いちいちムカつくなあ」
「いやー、ときどき日本語話してるつもりで英語喋ってるときあるんですよね。失敬失敬」
「話を戻そうか」
「はい」
「お姉ちゃんって、雪月のことだよな?」
「ええ、雪月華蓮のことです」
「付き合ってほしいっていうのは、どこかに行く場合の付き添いをして欲しいってこと?」
僕が言うと、金糸雀は不機嫌そうに唇を尖らせた。
「違いますよっ! 恋人になって欲しいって意味です!」
「な――なんで僕なんだよ」
「だって今までお姉ちゃん、誰とも付き合ったことないんですよ! あんなに美人なのに!」
「いやまあ、美人なのは認めるけど」
「そんなお姉ちゃんが男の人と出かけたのは朝日さんが初めてなんですっ! あなたはお姉ちゃんの初めての人なんですよっ!」
「姉妹揃ってそういう言い方はやめろ、反応に困るだろ!」
「……姉妹揃って?」
「いや、何でもない」
確か雪月と連絡先を交換したときも似たようなことを言われた気がする。
初めてにこだわるタイプの人たちなんだろうか、雪月家の人たちは。ユニコーンか?
「とにかくですね、今日は朝日さんのオーディションだったわけです」
「……雪月の彼氏に相応しいかどうか?」
「ええ。その結果、見事にあなたは私の審査を突破しました! おめでとうございますっ! これは栄誉なことですよっ!」
「あ、そう……。そりゃどうも」
「なんですかその微妙な反応は!? 嬉しくないんですか!? 私はてっきり、朝日さんは嬉しさのあまり火を噴いてコンテンポラリーダンスを始めると思ってましたよ?」
「お前は僕を何だと思ってるんだ」
「……で、どうなんですか。お姉ちゃんと付き合う気はないんですか」
「付き合うっていうか……いやそんなつもりは」
「はあ!? 何言ってるんですかぁ!? あんたそれでもチ〇チ〇ついてるんですかぁ!?」
「やめろ人前だッ! 中学生の女の子がそんなこと言っちゃいけません!」
「あんなに美人で優しくて儚げでミステリアスで魅力的なお姉ちゃんと付き合わせてあげるって言ってるんですよッ!? 私の大大大好きなお姉ちゃんとっ!」
「いや重い重い、お前の愛が重い!」
「じゃああれですか、別に付き合う気もないのに一緒に帰ったりカラオケ行ったりしてるんですか!?」
「別にそういうわけじゃ……」
「じゃあどういうわけなんですかっ!」
だんだん金糸雀がヒートアップしてきた。
「まあ、落ち着けよ。僕だって雪月のことをなんとも思ってないわけじゃない」
「と言いますと?」
「すげえ美人だと思ってるし、喋ったら意外と面白いし、この間のコンビニでも、困ってる雪月見てたらつい助けちゃったし……」
「雨の日は相合傘でお姉ちゃんをお家まで送ってくださいましたし」
「ああ、そうそう、そんなこともあったな。なんか気になっちゃうんだよな、雪月のこと」
はあーっ、と金糸雀が長い溜息をつく。
「世間では一般的に、それを何と言うかご存じですか?」
「……何て言うんだ?」
「好きって言うんですよ」
なん……だと……!?
僕は――雪月が好きだったのか!?
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