夕陽
宵闇の中
行く当てのなく
人ごみにまぎれて
静かに自分の影を見つめた
ああ
俺は何をなくしたんだろう
それをずっと考えていた
秋の日の木漏れ日にも
冬の街角で凍る石にも
春の草の緑の中にも
夏の白く照り返すアスファルトにも
見つからない
振り返っても
誰もいなかった
ゆっくりとそして
何かに盗まれるように
足元から
俺の過去は色あせて行ったのだ
とどまることのない
つかの間の恋の映像に任せて
ところがささやかな記憶の中で
一人の少女が呼び交わす
凍りついた心の窓の向こうで
どこで
呼んでいたのだろう
見もしない夢の中で
一人で自分の墓を掘ろうとしていた
この俺を
ある日
灰色の空を見上げて
そして足元の冷たい道の向こうに
俺は見たのだ
その姿を
雨の中で
雫がこぼす光のように
移ろいやすいものでないよう祈りながら
その声に耳を傾けた
俺は朽ち果てそうになる
この手のひらの中の
小さなあの遠い声を握り締めた
お願いだ
あの時に失ったものがどこにあるのかを
俺に教えてくれと
いつから君はそこにいたのか
俺のことなど忘れたふりをして
残酷な時の流れを手のひらからこぼしながら
俺の中の
沈まない夕陽
それはただ
静かに
陽炎をあげて
燃えていたのだ
たった一つ
俺の中に残った夕陽
それを
今日
君にあげよう。
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