未来戦線・カラクリ戦争

未来戦線・カラクリ戦争




登場人物

白魔女

・ミサ(本作の女主人公、ゴスロリの機械人形)

相棒:ヨルガオ(メイド服姿の後方支援型ロイド)

仲間1(オペレーター):アサガオ

仲間2(商人):ヒルガオ

仲間3(服屋):ユウガオ


黒魔女

量産型1(試作型〜改良型):オートマトン(兵器ドローン)

量産型2:アントニム(対義語)

量産型3:シノニム(類義語)

ラスボス:デウス・エクス・マキナ



【ステージ(人工生命体)】

1、喜劇(パンプキン・コメディアン)

STRENGTH (No.8、力)


2、歌劇(プティ・フィーユ)

WHEEL of FORTUNE (No.10、運命の輪)


3、人形劇(ヒステリック・バンビーナ)

JUSTICE (No.11、正義)


4、仮面劇(フール)

THE FOOL (No.0、愚者)

仮面の魔女


5、神秘劇(パンドラ)

JUDGEMENT (No.20、審判)

鴉人間


6、悲劇(デウス・エクス・マキナ)

THE WORLD (No.21、世界)







本編:


【インストール完了】

【心拍数、正常に作動】

【これより、記録を開始します。】

ミサ(ナレーション)「ここは、人類が絶滅した後の、

私たち機械人形だけが生きている世界。

一括りに終焉都市と呼ばれている荒廃した各土地で暮らす私たち機械人形は、

国籍も、特定の場所にのみ使用されるような固有の言語も持たず、

代わりに、黒魔女と白魔女という二つの組織に別れている。

私たち白魔女は、機械人形が安心して暮らしていける世界を目指して活動する。

そして、私たちが作られた意味、真実を知るために戦う。

相手がどこの誰であろうと、私たちの生活を脅かす存在は排除する。

ただ、それだけの話。

今から語るのは、私という人生の一駒だ。

作られた私による、面白くもないただの自分語り。

私に関するデータが、この一冊に記載されている。

いわば、成長記録や日記のようなものだ。

そう、全ては大雨の降る夕刻から始まった」


メインタイトル(未来戦線・カラクリ戦争)


第一章:喜劇(パンプキン・コメディアン)


◯終焉都市B-00086地区・廃棄場


広大な草原の上に無造作に埋もれた廃棄物の中。

そこで、機械人形のミサと相棒の後方支援型ロイド”ヨルガオ”は、

黒魔女の一派である人工生命体の”パンプキン・コメディアン”と対峙する。

ヨルガオ「アンノウン反応検知。

戦闘モードに移行し、速やかに対処してください」

ミサ「了解、目標を無力化する」

パンプキン「プププッ、りょうか〜い!りょうか〜い!」

ミサは、ガンホルダーから二丁のオートマ式拳銃”アカツキ”を抜き、

目の前のパンプキン・コメディアンに銃口を向ける。

上空では、別働隊の戦闘機が飛行している。

その名の通り、パンプキン頭をしたパンプキン・コメディアンは、

廃棄場の中を自由に飛び回りながらミサ達を嘲笑しながら煽る。

パンプキンの素早い動きについていけず、銃の狙いが上手く定まらない。

パンプキンの両腕から火の玉が繰り返し放たれる。

火の玉がミサのゴシックロリータ衣装を掠めるたびに、衣装の裾が焦げる。

ミサ「ねぇ君、因果応報って言葉を知ってる?」

パンプキン「知らな〜い」

ミサ「無知が幸せなこともある、ってことか」

ヨルガオ「放射能を検知、警戒してください」

突然、パンプキンの腕が赤く発光し始める。

パンプキン「終わりだよ〜ん」

ミサ「させない!」

ミサは、その場に止まっているパンプキンの隙をつき、

凍結弾に弾を変えて、再びパンプキンに照準を定める。

二人の動きはほぼ同時だった。

ミサの凍結弾が、パンプキンのコアに命中した。

ヨルガオ「アンノウン反応消滅。

ミッションクリアです」

パンプキンは機能停止し、地面に落下した。

機能停止を確認したミサは、ガンホルダーに拳銃を納める。

立ち去ろうとした矢先、パンプキンの傍にカードが落ちていることに気づいた。

ミサは、そっとカードを拾い上げる。

それは、タロットカードだった。

カードの表には、黒い薔薇を持った左手のイラストがあり、

その上に、”No.8、STRENGTH(力)”と書かれている。


ミサはカードをポーチに仕舞い、廃棄場を離れた。


◯パンプキン撃破後・終焉都市D-00781地区の木造の建物(ミサの自宅)


モダンな木造建築の自宅に帰宅後、

ミサはロリータ衣装を脱ぎ、下着姿で化粧台の前に立った。

化粧台には、ラベンダーの香水や化粧品がたくさん並んでいる。

ミサは、クレンジングクリームでメイクを落とす。

そして、化粧台の鏡に写る自分の顔を見つめながらため息をつく。

ここで、ミサの無線機が鳴る。

周波数を確認すると、送信相手はオペレーターのアサガオだった。

アサガオ「ハロー、元気してる?」

ミサ「何?次の任務の話?」

アサガオ「それもあるけど、

君に伝えておくべきことがある」

ミサ「どうしたの?」

アサガオ「君には、双子の姉がいるよね?」

ミサ「あぁ、マキナ姉さんのことだね。

同じ型番ってだけだけど」

アサガオ「君の姉は現在、黒魔女によって囚われている。

ミサ「なんだって!?」

アサガオ「そして、黒魔女の連中は、世界を巻き込む大規模戦争を企てている。

機械による機械のための戦争。

最後の一体になるまで殺し合う。

それが、奴らの目論んでいる”ペルセウス計画”だ」

ミサ「結局、戦争は終わっていない。

この世界に、平和はない」

アサガオ「これから、私たちで作るんだよ」

ミサ「そうだね」

アサガオ「マキナを助けに行くのかい?」

ミサ「当然」

アサガオ「それなら、パブリックタワーに向かうといい。

彼女もそこにいるはずだ」

ミサがアサガオと会話している間、

ヨルガオは、クローゼットからミサの新しい服を選んでいる。

アサガオとの通信を切り、紫色のベッドに横たわる。

ミサ「ヨルガオ、今日はもう寝させて」

ヨルガオ「その格好は破廉恥です。

せめて、部屋着を着た方が良いかと考えます」

ミサ「別にいいよ。

私はそういう女なの。

君も、そのメイド服脱いだらいいのに」

ベッド脇のサイドテーブルの上には、熟れた赤りんごが積まれたカゴがある。

ミサは、カゴから赤りんごを掴み、

ベッドに横たわりながら皮ごと齧った。


第二章:歌劇(プティ・フィーユ)


◯終焉都市J-01005地区・パブリックタワー入り口


早朝、新しい服に着替え、御めかしを済ませたミサは、

ヨルガオを連れて家を出た。

二人が向かった先は、ミサの姉のマキナが囚われているパブリックタワー。

パブリックタワーの入り口周辺では、ドローン型の”オートマトン”や、

量産型機械人形”アントニム(対義語)”が周回している。

ミサとヨルガオの二人は、自分の体を透明にするステルスモードを使用して潜入を試みる。

しかし、タワー内部へ入ったところでドローン型のオートマトンに見つかってしまった。

二人はステルスモードを解き、戦闘態勢に入る。

あえて二丁拳銃は使わず、予備で持ってきたリボルバー式で応戦する。

しかし、いくら倒しても次から次へと敵は湧き出てくる。

ミサ「このままでは、キリがない」

ヨルガオ「この先に、エレベーターがあります。

ここは、彼らを無視して先へ進む方がいいと考えます」

ミサ「了解」

二人は隙を見て、広間の奥にあるエレベーターへ駆け込む。

そして、危機一髪のところで扉を閉めた。


◯パブリックタワー・地下三階


エレベーターを降りた先には、

豪華なゴシック調の装飾が散りばめられた空間が広がっていた。

そして、腰から上が人間で下半身が蜘蛛の人工生命体、

”プティ・フィーユ”が待ち構えていた。

プティ「ようこそ、私の劇場へ」

ミサ「あれは?」

ヨルガオ「彼女は、”プティ・フィーユ”。

黒魔女が所有する人工生命体の一体です」

プティ「あら、失礼な子ね。

悪い子にはお仕置きが必要かしら」

ヨルガオ「アンノウン反応を検知。

警戒してください」

プティ「ラ〜、ラ〜、アーー!!」

プティがソプラノで歌い出すと、

プティの背後から、アントニムがゾロゾロと現れた。

ミサは、ガンホルダーから二丁拳銃を引き抜き、

ヨルガオは大型のチェーンソーを構える。

一斉に向かってくるアントニムたち。

ミサたちがアントニムと交戦している間にも、プティの歌は続いている。

プティの美しい音色が、辺りに響き渡っている。

アントニムを撃破した二人は、再びプティと対峙した。

プティの装甲は、他の人工生命体と比べて硬くはないが、

コアがあるプティの胸部には、ミサの弾丸をも弾くバリアが貼られていた。

プティ「よくも、私の子供達を!!」

ミサ「自分の子供を盾にするなんて、あんた最低だよ」

プティは、咆哮を上げてミサに襲いかかる。

プティの咆哮によって出現した毒針が、ミサとヨルガオを目掛けて飛んでいく。

ミサは飛んでくる毒針を巧みに避けながら、

二丁拳銃に装填した弾丸をプティ目掛けて発砲する。

ヨルガオがプティの背後に回り込み、プティの背中を切り裂いた。

激痛に叫びながら怯むプティ。

ミサは、怯んだプティの胸部に繰り返し弾丸を発射する。

そして、バリアとコアを破壊する。

プティ「アアアー!!!」

コアを破壊されたプティは、大量の煙を撒き散らしながら爆発した。

灰になったプティの中から、タロットカードが出てきた。

カードに書かれているのは、”No.10、WHEEL of FORTUNE (運命の輪)”。

そして、中心に赤いハートのペンダントが腕に絡みつくようにぶら下がっていて、

親指をハートの形にしながらクロスする両手の絵が描かれていた。

ミサは、カードを拾い上げ、エレベーターに乗り込んだ。


第三章:人形劇(ヒステリック・バンビーナ)


◯パブリックタワー・エレベーター内


エレベーターに乗り込んだタイミングで、ミサの無線機が鳴る。

相手は、オペレーターのアサガオだ。

アサガオ「ハロー、元気してる?

どうやら、パブリックタワーの内部に潜入できたみたいだね」

ミサ「遅いよ。

もう、一人目の人工生命体を倒した」

アサガオ「知ってる」

ミサ「ねえ、私に何か隠してる?」

二人の間に、五秒の沈黙が流れる。

アサガオ「パブリックタワーの人工生命体は、残り三体だ。

どうか、気をつけてくれ」

一方的にアサガオとの通信が切れる。

ミサは、ため息をつきながら地下七階のボタンを押した。


◯パブリックタワー・地下七階


エレベーターを降りると、

壁の至る所に巨大な歯車が所狭しと敷き詰められていたり、

鉄で出来た頑丈な幾つもある橋がジェンガのように堆くかけられていたりと、

ミサにとって興味をそそられる空間が広がっていた。

ミサは内装の凄さに驚きながら橋を渡っていると、

橋の中央で、何やら話し込んでいる二体の機械人形を見つけた。

ミサとヨルガオに気づいた二体の機械人形は、

手を振りながら嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。

ヒルガオ「やあ、君がミサだね?

僕は、商人をしている”ヒルガオ”だ。

そこのユウガオとは姉妹の関係だ」

ユウガオ「どもども!アタイは、”ユウガオ”。

D地区の商店街で服屋を営んでいるよ。

今回は、アサガオの頼みでここまで来たんだ。

服が破けたりしたら、作戦に支障が出るってね」

ミサ「”マーキュリー”って店でしょ?

その店には行ったことあるけど、アナタの姿は見なかった」

ユウガオ「だってアタイ、普段は仕入れのために出かけてるから」

ヨルガオ「どうしてアナタたちがここに?」

ヒルガオ「もちろん、ミサたちを助けに来たのさ。

私にはこれくらいのことしかできないけどさ」

ミサ「お金は取るんだね」

ヒルガオ「無償って訳にはいかないな。

とにかく、必要なアイテムがあればここから購入するといい。

この先、きっと役に立つよ」

ユウガオ「ちなみに、オンライン販売もしているから、

君が持ってる端末からも購入できるよ」

二人が所持している大きめのアタッシュケースの中身を見せてもらうと、

様々な種類の装備や衣服が所狭しと敷き詰められていた。

ミサは、その中から回復薬入りのポーションと、髪飾りを選んで購入した。

人一倍こだわりが強いミサは、戦場においてもおしゃれは欠かさない。

ヒルガオ「まいど、おおきに!」

ヨルガオ「アンノウン反応を検知」

ヒルガオ「おっと、次は君たちのお客さんだね。

それじゃ、また後で会おう」

ユウガオ「ばいばーい!」

ヒルガオとユウガオは、アタッシュケースを閉じると、

慌てた様子で去っていく。

二人の動向を目で追った先には、

フランス人形の姿をした量産型機械人形”シノニム(類義語)”と、

量産型機械人形”アントニム(対義語)”、

その後ろに、モルフォ蝶の羽を持ち、女王蜂の顔をした巨人がいた。

ヨルガオ「人工生命体”ヒステリック・バンビーナ”。

彼女の持つ斧は、どんなに硬い物でも一瞬にして粉砕すると言われています」

バンビーナ「何しに来た⁉︎」

ミサ「姉を連れ戻しに来た」

バンビーナ「ここから、立ち去れ!!

さもなくは潰す!」

ミサ「悪いけど、無理にでも通させてもらうよ!」

ミサは、見上げるほど大きいバンビーナを睨みながら、いつものように二丁拳銃を構える。

先に動いたのはバンビーナの方だった。

バンビーナは、大きな斧を勢いよく橋に叩きつける。

ミサとヨルガオは、バンビーナが振り下ろした斧をギリギリのところで躱す。

斧が橋に叩きつけられる度、コンクリートの壁は崩れ、

フロア全体に地響きが起きる。

タイル張りの床が割れているせいで、足の踏み場もない。

バンビーナ「くそ!くそ!くそ!!なぜ当たらない⁉︎」

ミサ「今の君は、酔っ払いみたいだ」

バンビーナ「ふざけるなー!!」

怒り狂ったバンビーナは、耳が千切れそうなくらいの雄叫びを上げる。

ミサはヨルガオに指示を出し、一旦バンビーナから離れる。

柱の陰に隠れながら発砲を繰り返す。

ヨルガオがその間に、シノニムとアントニムの群れを片付ける。

バンビーナ「おのれ!蝿如きがちょこまかと!」

ダメージを負ったバンビーナの右手から、大きな斧が滑り落ちる。

ミサは、ゴスロリ衣装のポケットから取り出した雷撃弾を二丁拳銃に装填し、

今度はバンビーナの方ではなく、バンビーナの頭上に向かって発砲する。

弾丸は、天井に吊り下げられている巨大な歯車へ見事に命中。

落下する巨大な歯車は、バンビーナの頭部に当たる。

ミサは、バンビーナが怯んだ隙を見て、バンビーナの胸部にあるコアを撃つ。

バンビーナ「うああああ!」

バンビーナは、悲痛な叫び声を上げながらその場に倒れた。

動かなくなったバンビーナ。

シノニムとアントニムも機能停止し、一斉に倒れていった。

倒れているバンビーナの近くには、

”No.11、JUSTICE(正義)”のタロットカードが落ちていた。

正義のカードには、黒い風船を持った少女の姿が描かれている。

ミサはカードをポーチに仕舞い、来た方向とは反対側のエレベーターへ向かった。


第四章:仮面劇(フール)


◯パブリックタワー・地下十三階


地下十三階に着くと、

フロアは舞踏会をイメージした内装になっていて、

天井には巨大なシャンデリアが吊り下げれれ、

中央には、端から端までレッドカーペットが敷かれていた。

そこには、シノニムとアントニムの姿はなく、

黒い仮面を被り、魔女の格好をした美女が立っていた。

ミサ「機械人形?」

ヨルガオ「人工生命体”フール”。

彼女も、人工生命体の一体です。

しかし、彼女からはアンノウン反応を検知出来ません」

フール「当然よ。

私は、ここの飼い犬じゃないもの」

ミサ「なら、どうしてここに?」

フールは、ゆっくりとミサに歩み寄る。

フール「アナタと踊りたかったから、と言ったらおかしいかしら?

ここは舞踏館よ。

来たからには踊らなくっちゃ!」

ミサ「なんだか不思議、この人から敵意を感じない」

フール「こっちに来て!」

フールは、ミサの腕をひっぱりながらフロアの中央まで行くと、

ミサの体を引き寄せて踊り始めた。

二人が踊り始めたのと同時に、クラシックの軽快な音楽が聞こえてきた。

聞こえてきたのは、舞踏会の演目にぴったりなワルツだった。

楽しそうに踊るフールとは対照的に、困惑の表情を見せるミサ。

フールは、ミサの気分などお構いなしに、ミサの腰をしっかりと掴みながら、

淑女をエスコートする紳士のように踊り続ける。

その様子を、フロアの傍にいるヨルガオは黙って見届ける。

二時間ほどで曲が止まり、フールは踊りを辞める。

全身に汗をかき、その場に倒れ込むミサ。

ミサ「踊りは慣れているけど、長時間続けて踊れないよ…」

フール「ごめんごめん!

誰かと踊るのが久しぶりすぎて、つい夢中になっちゃった」

フールは、汗だくで過呼吸気味のミサに手を差し伸べる。

ミサも、素直にフールの手を取り立ち上がる。

フール「はいこれ、一緒に踊ってくれたお礼よ」

フールから渡されたのは、”No.0、THE FOOL(愚者)”のタロットカードだった。

カードの表には、軽快にバイオリンを弾いている顔のないスーツの男が描かれていた。

フール「それから、もう一つ」

フールは、ミサの頬にキスをした。

ミサは思わず目を閉じる。

そして、そっと目を開けた瞬間、フールは跡形もなく消えていた。


◯回想・アトラス研究所(第三機密保管庫)


百年前の、アトラス研究所の第三機密保管庫。

アトラス研究所のツグミ博士と、

ツグミ博士の助手をしている機械人形のワルツが、

眠っている二体の機械人形の前で話をしている。

ワルツ「博士、この二人をどうするんですか?」

ツグミ博士「…は既に体の一部になってしまっているから、

二人の体から…を取り除くことは出来ない。

かわいそうだけど、今はこうして封印するしかないよ」

ワルツ「かわいそうって、作った本人が言うセリフですか?」

ツグミ博士「そうだな、すまない」

ツグミ博士は、右手の小指で頭を掻く。

ワルツは、考え込んでいる様子の博士にコーヒーカップを渡す。

カップの中身は、いつも博士が飲んでいるブラック珈琲ではなくカフェオレだ。

ワルツ「今はただ、見守るしかないですね」

ツグミ博士「ああ、二人が目覚める頃までには…」


第五章;神秘劇(パンドラ)


◯エレベーター内


ミサは、エレベーターに乗り込み、

六十階のボタンを押した。

エレベーターが動き始めた途端、ミサの無線機が音を出す。

連絡を寄越してきた相手は、いつもの通りアサガオだ。

アサガオ「ミサ、パブリックタワーの最下層までもう少しだ。

マキナはきっとそこにいる」

ミサ「アサガオさ、私のこと誘ってるでしょ?」

アサガオ「やらしいな〜」

ミサ「そういう意味じゃなくて…」

ミサは、呆れてため息をつく。

この期に及んで嘘をつくのはやめてと伝えるも、

すぐに話をそらされてしまう。

アサガオ「まあ、とにかく頑張ってくれ。

それじゃ、また」

突然、アサガオとの交信が切れる。

今回もアサガオの方から一方的に切っている。

ヨルガオ「先ほどの会話を拝聴させていただきましたが、

なんだか、いつものアサガオではありませんでした」

ミサ「私は、随分前から気づいていたよ。

ヨルガオも気をつけてね」

ヨルガオ「了解しました」


◯パブリックタワー・六十階


エレベーターを降りた先は、

鏡のように透き通った水面と青い空だけが広がっている空間だった。

そして、空間の中央には、またしてもヒルガオとユウガオの姿があった。

ヒルガオ「やあ、また会ったね」

ミサ「武器ならいらないよ。

弾もまだ残っている」

ヒルガオ「それなんだけど、

ここから先は、君の持っている二丁拳銃だけでは歯が立たないと思うんだ」

ミサ「またセールス?」

ヒルガオ「本当のことさ」

ユウガオ「服もボロボロじゃん!

せっかくだから買っていきなよ。

特別に、安くしておくからさ」

ミサ「さっきから気になってたんだけど、アナタ達一体何者?」

ヨルガオ「私も、購入を推奨します」

ミサ「ヨルガオまで…」

ミサは、数あるロリータ衣装の中から裾の丈が短めのものを購入した。

肌の露湿度も高く、ミサにとっては裾が長めの方が好みだが、

戦闘において有利な短いタイプを選んだ。

ヒルガオに勧められて他の武器も購入したが、

いつも愛用している二丁拳銃”アカツキ”は手放さなかった。

ヒルガオ「それじゃ、ここではもうお別れだ。

君が生きてここから出られたら、また会おう」

ユウガオ「アタイは、時々待ってるよ。

気が向いたら店においでね。

今度は、君のお姉さんと一緒に」

ミサ「ありがとう」

去っていく商人の二人に手を振るミサ。

二人を見送った後、再び目の前の敵に向き直る。

ミサ「用は済んだよ。

さあ、始めよ」

ミサとヨルガオの前に立ちはだかるのは、人工生命体”パンドラ”。

天使のようなガラスの翼を持ち、両足にはタカのような鉤爪を備えている。

パンドラは、黙ったままミサとヨルガオを見下ろす。

先に動いたのは、人工生命体のパンドラ。

パンドラは、異空間からガラスでできた刃を出現させ、

ミサとヨルガオに向かって投げつける。

ミサは、攻撃を避けながら、ガンホルダーから取り出した二丁拳銃に火炎弾を素早く装填する。

ヨルガオがパンドラと対峙している間に、

空から降り注ぐ無数のガラスの刃を一つずつ撃ち落とす。

パンドラは、自身の両腕をガラスの刃に変形させ、

ヨルガオのチェーンソーを受け止める。

長い激闘の末、深傷を負ったパンドラは、

ミサが放った弾丸にコアを撃ち抜かれた。

膝をついて倒れるパンドラ。

倒れたパンドラの体が、徐々に結晶化していく。

パンドラは、自身の体が結晶と化して崩れゆく間際に、

ミサへ自分が持っていたタロットカードを差し出した。

カードの表には、”No.20、JUDGEMENT(審判)”の文字があり、

そして、陰と陽を模した丸い玉にすがるように伸ばす両手の絵が描かれていた。


第六章;悲劇(デウス・エクス・マキナ)


◯パブリックタワー・三百八階


エレベーターを降りて最初に目に飛び込んできたのは、

中心に巨大な目玉がついている結晶でできた装置だった。

装置には、大量の管が取り付けられていて、

異様な空気を放っている。

ミサ「これは…」

マキナ「核弾道装置”サイクロプス”よ」

装置の下で、ライフルを所持したマキナが待ち構えている。

マキナの後ろには、シノニム、アントニム、ドローン型のオートマトンなど、

大量の量産機たちが静かに待機していた。

ミサ「姉さん…」

マキナ「よくここまで来たわね、ミサ」

ミサ「どうして私をここへ呼んだの?」

マキナ「アナタが、これを起動する鍵だからよ。

アナタの体には、サイクロプスを起動させるためのマスターキーが仕込まれている。

もちろん、それを仕組んだのは私じゃないわ」

マキナは、ミサを指さす。

ミサ「一体誰が⁉︎」

マキナ「委員会の連中よ」

そう言うマキナの二の腕には、今は無き”新・世界政府”によって発足された”生命活動管理委員会”のマークが刻印されていた。

ミサ「アサガオの正体は、マキナ姉さんなんでしょ?

私を誘導するために、わざわざ声まで変えて…」

マキナ「いつから気づいていたの?」

ミサ「パブリックタワーに入った時に気づいた。

マキナ姉さんが攫われる理由がないってことに。

そして、アサガオの言動も明らかにおかしかった」

図星を突かれたマキナは、ミサを睨みつけながら眉を潜める。

ミサ「それと、妹の勘ってやつ」

マキナ「馬鹿馬鹿しい」

ミサ「本物のアサガオはどこ?」

マキナ「もう殺した」

ミサは、ガンホルダーから二丁拳銃を引き抜き、

銃口をマキナに向ける。

ミサ「ねえ、姉さんの目的は何?」

マキナ「無線でも伝えたでしょ?

機械による機械のための大規模戦争。

私たちは、最後の一体になるまで殺し合う。

そして、全ては無に帰る。

ふふっ、素敵でしょ?」

ミサ「それが、ペルセウス計画…」

マキナ「さあ、始めましょ」

最初に動いたのは、ミサの方だった。

ミサは、弾丸を素早く装填してマキナに発砲する。

通常弾、凍結弾、雷撃弾、火炎弾など、弾を一つも惜しまずに使っていく。

ヨルガオは、先ほどと同じく、量産機の群れからミサを守りながら戦っている。

マキナ「まさか、その程度じゃないでしょ?

私が知っているアナタは、もっと強い子よ!」

マキナは、ミサの弾丸を華麗に避けながら、

愛用のライフルに弾を装填し、容赦無く撃ち続ける。

二人の撃ち合いは、お互いの弾が切れる寸前まで続いた。

ミサよりも、マキナの方が深い傷を負った。

マキナは、弾の切れたライフルを落とし、その場に倒れ込んだ。

マキナ「百年前の第四次代理戦争。

そこで使われた核搭載の機械人形。

それが私、”デウス・エクス・マキナ”」

マキナは、床に青い血を撒き散らす。

マキナ「そしてアナタは、私の試作モデルとして作られた。

だから、本当の姉はアナタなの」

ミサ「それは違う。

私にとって、マキナ姉さんは特別だから」

ミサは、銃を床に置いた。

青く出血した腹部を抑えるマキナ。

ミサは、狼狽えるマキナにそっと歩み寄る。

そして、マキナの涙をポーチから取り出したハンカチで拭ってやり、

優しく抱きしめた。

マキナの表情が、笑顔に変わる。

先ほどまでの他者を見下すものとは違う笑顔だ。

突然、マキナのコアの鼓動が停止した。

ミサ「お疲れ様、姉さん」

突然、タワー全体が揺れ出す。

既に、タワーの崩壊が始まっている。

マキナの亡骸の傍には、一枚のタロットカードが落ちていた。

”No.21、THE WORLD (世界)”、大アルカナの最後のナンバーだ。

カードの表には、水の中で眠る少女と、

少女を両手で包み込んでいるイラストが描かれていた。

ミサは、最後のタロットカードを拾い、

サイクロプスのそばにあるカード挿入口に今まで集めたカードと一緒に挿入した後、

マキナの亡骸を背負い、ヨルガオとともに崩れゆくタワーから離脱した。


◯回想2・アトラス研究所(第三機密保管庫)


マキナ「おはよう、ミサ」

ミサが目を覚ますと、目の前にゴスロリ衣装を着たマキナの顔があった。

ミサは、慌てた様子で起き上がる。

マキナは、困惑するミサの頬を左手でそっと撫でた。

マキナの肌は、氷のように冷たかった。

ミサ「あの…アナタは?」

マキナ「アナタのお姉さんよ。

ミサの寝顔、とっても可愛かったわ」

そう言いながら微笑むマキナ。

ミサを見下ろすマキナの目は、赤子をあやす母親の目をしていた。

マキナ「さあ、行きましょう。

ここは、私たちの居場所じゃないわ」


END

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未来戦線物語 Kurosawa Satsuki @Kurosawa45030

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