未来戦線物語

Kurosawa Satsuki

未来戦線・脳内戦争

未来戦線・脳内戦争(脚本)


登場人物:

旧・政府

・ワルツ(本作の女主人公)アトラス部隊の一人、償井博士のクローン

・クロード長官(本名→償井ヒサト、ツグミの父親)

・償井ツグミ博士(三十代の女性、アトラス研究所の総責任者)

ツグミ→嗣む(罪を背負い受け継いでいく)

・スミレ(アトラス部隊所属の女隊員、物語中盤からオペレーター役になる)

・量産型のアトラス部隊(A型、B型、O型)


新・世界政府(生命活動管理委員会)

・敵1:オートマトン(量産型アンドロイド)

・敵2:始まりの使徒(人工生命体)

・シークレット:黒い仮面の男(人工生命体?ワルツ)

・ラスボス:償井ツグミ(ツグミ博士のオリジナル、トレイター→反逆者、裏切り者)



【ステージ(人工生命体)】

1、ソリスト(独奏者)ガーネット

2、オペラ(歌劇)アメジスト

3、ソナタ(奏鳴曲)ルビー

4、ワルツ(円舞曲)ラピスラズリ

5、シンフォニー(交響曲)オパール

6、ハーモニー(調和)償井博士 エメラルド





本編:


◯新世紀200年・AIに支配された世界


ナレーション「新世紀二百年、七月二十八日。

第四次代理戦争が終結して以降、人類は自らが作り上げたAIに敗北した。


文明の発展に伴い、AIを使った技術が世界中を埋め尽くしていった。

ありとあらゆる管理システムを乗っ取られた人類は、

プライバシーを公共的に開示することを強要されながら、

AIが決めたルールに護られながら、

そのことにすら気づかないまま生きていた。

世界を裏で牛耳っていた二人の人物は、AIによる革命を起こし、

AIによって管理される社会を作るため、新・世界政府(生命活動管理委員会)を設立した。

しかし、世界の隅に追いやられた旧政府の役員達は、

対新・世界政府(生命活動管理委員会)機械人形部隊”アトラス部隊”を構成し、

新・世界政府(生命活動管理委員会)への反撃の機会を伺っていた。

償井ツグミ博士が考案した、アルテミス計画もその一つだ」


◯メインタイトル(未来戦線・脳内戦争)


第一章:ソリスト(独奏者)


◯旧政府の拠点・アトラス防衛基地(アトラス部隊第二格納庫)


ツグミ博士「クロード長官、アトラス部隊の出撃準備が完了しました」

クロード旧政府国防長官「よかろう、早急にソリスト(独奏者)を迎撃せよ!」

巨大化した人工生命体の”ソリスト(独奏者)”が、

アトラス防衛基地内部へ侵入し、駐在していた兵士を襲っている。

ソリストは、蛇の姿をしていて硬い鱗で覆われているため、

アトラスの兵士達が携帯しているライフルの弾丸を容易に跳ね返す。

ソリストの背後にいた、敵側の量産型機械人形の”オートマトン”が、防衛基地内部を進行しながら次から次へと自爆していく。

既に、量産型のアトラス部隊”A型、B型、O型”が、

負傷した兵士たちの救助と敵の対処にあたっている。

ツグミ博士「アトラス部隊、出撃せよ!」

ソリストが現れてから十五分が経過した頃、

ようやく出撃の許可を得たアトラス部隊の一人であるワルツが、

六人の仲間とともに、第二格納庫から飛び立つ。

鴉のような漆黒の翼を背負ったワルツ達は、

高速で基地の廊下を飛び回りながら、侵入してきたオートマトンを破壊していく。

ツグミ博士「ワルツ、聞こえているか?」

噴水のある広場に出たところで、ツグミ博士から無線通信が入る。

ソリストの攻撃により、基地内部のメインシステムがダウンしているが、

ツグミ博士がいる司令室との通信はかろうじてできるようだ。

ワルツは、耳に装着した無線機に右手の人差し指を当て、

ツグミ博士の言葉に耳を傾ける。

ツグミ博士「君たちは、ソリストの方に向かってくれ。

ヤツ(ソリスト)は現在、第六格納庫にいる。

原因は不明だが、ヤツの体を覆っている鱗に、

ライフルなどの銃器は一切効かないらしい。

可能であれば、近接武器で対応してくれ!」

ワルツ「博士も早く逃げてください!」

ツグミ博士「私はここで、システムのバックアップと君たちの指揮を取る。

私は大丈夫だ、思う存分暴れてくれ」

ワルツ「わかりました!どうかご無事で!」

ツグミ博士「ああ、君達もな」

ツグミ博士との無線が切れる。

ワルツ達は、博士の指示通りに第六格納庫へ向かう。


◯旧政府の拠点・アトラス防衛基地(アトラス部隊第六格納庫)


目的地に到着して、最初に目に飛び込んで来たのは、

アトラス部隊の仲間達を次々に食いちぎるソリストの姿だった。

ワルツ「許せない…」

悲惨な光景を目の当たりにして自我を形成したワルツは、

腰に装備していた大剣”メメントモリE型”を引き抜き、

ソリストを鋭い目つきで睨みつけた。

ワルツの瞳が、赤く発光する。

暴走したワルツは、ソリストの口から放たれる火炎を華麗に回避しながら、

大剣で周りにいるオートマトンやソリストの体を容赦無く切り裂いていく。

痛みに悶えるソリストの鱗を一枚一枚大剣で剥がしていき、

ソリストの急所の首元を何度も突き刺す。

その場に倒れるソリスト。

ソリストの息はもうない。

死んだのを確認したワルツは、ようやくソリストの体から離れる。

ここで、ツグミ博士から連絡が入る。

ツグミ博士「どうやら、ソリストを倒したようだな」

ワルツ「博士、私はみんなを…」

ツグミ博士「よくやった、ワルツ。

できれば、いつもみたいに撫でてやりたいところだが…」

ワルツ「…」

すると突然、指令室に六体のオートマトンが侵入してきた。

オートマトンが来る前に、ツグミ博士が従業員を退避させていた為、

司令室にはツグミ博士しかいない。

ツグミ博士「はは…どうやら、私はここまでのようだな」

ツグミ博士が、六体のオートマトンに拳銃を向ける。

相手はライフルなどの武器は持っていないが、

ツグミ博士は恐怖で手が震え、照準が定まらない。

ツグミ博士「すまない、ワルツ…」

ワルツ「駄目だ、博士!!」

司令室の方向から大きな爆発音が聞こえる。

爆発音を聞くのと同時に、ツグミ博士との無線が途絶える。

ワルツ「そんな…」

ワルツは、涙を零して膝から崩れ落ち、声を漏らさずに泣き続ける。

ここで、ワルツの無線機が鳴る。

クロード長官からの連絡だ。

クロード「アトラス部隊の諸君、敵の増援がそちらに向かっている。

気づかれる前に、早急に退避せよ」

ワルツ「クロード長官、ツグミ博士は無事なのですか⁉︎」

クロード「今、調査中だ。彼女の事はもう考えるな」

敵の増援は、基地のすぐそこまで来ている。

ワルツは立ち上がった。

足元に光るものがあり、ワルツはそれを拾い上げる。

それは、ガーネットの宝石が埋め込まれたペンダントだった。

宝石は、ワルツのような機械人形や、人工生命体の力を引き出すためのアイテムで、

これを破壊されてしまうとワルツ達は戦うことができない。

ワルツの胸部のあたりにも、エメラルドの宝石が埋め込まれている。

ワルツはペンダントをポーチに仕舞うと、

涙を拭い、生き残った仲間達を引き連れて、

飛行しながら防衛基地から離脱した。



第二章:オペラ(歌劇)


◯砂漠地帯・生き残りのアトラス部隊が建てた一時避難所(夜)


ワルツは、一時避難所の簡易テントの外から夜空に煌めく星々を見上げる。

防衛基地があった場所から十数キロ離れた砂漠地帯に建てられたテントの中では、

痛々しい状態で運ばれてくる負傷者や遺体で埋まっていて、

落ち着いて腰を下ろせるスペースもない。

スミレ「お疲れ様、ワルツ」

夜風に当たりながら砂漠に浮かぶ夜景を眺めていると、

アトラス部隊所属の女隊員”スミレ”に後ろから声をかけられた。

スミレから肩を叩かれるも、振り返らずに地平線を見つめるワルツ。

スミレも重傷を負っていて、包帯が巻かれた腹部を左手で抑えながら辛そうに立っている。

スミレ「顔色悪いけど、どうしたの?

もしかして、ツグミ博士のこと?」

ワルツ「そうだ」

スミレ「私も悲しいし、気持ちはわかるけどさ、

ほら、私たちは今を生きなきゃ!」

ワルツ「私にとって博士は、母親のようなものだ。

人間の君だって、肉親がいなくなったら悲しいだろ?」

スミレ「それはそうだけどさ、残された私たちが彼らの分まで笑顔でいないとじゃん?

その笑顔で、救える命もあるかもしれないし…」

ワルツ「笑いたいなら、今のうちに笑っておけ。

何れまた、笑えなくなる日々がくるかもしてないから」

スミレ「ちょ、何処いくの?」

ワルツは、振り返ることもなく砂漠の中を歩き出す。

悲しい表情のまま歩くワルツを引き止めようと声をかけるスミレ。

ワルツを呼ぶスミレの声も徐々に遠のいていく。

嵐が吹き荒れる闇の中、ワルツは女の歌声を聞く。

ワルツ「北西の方角…行ってみるか」

その歌声は、仄かに辺り一面に響いている。

ワルツは、避難所へ引き返さずに声のする方向へ歩き続けた。


◯石造の廃屋・鉄の門扉の前(朝)


砂漠地帯を歩き続けていると、巨大な石造の建物の前にたどり着いた。

建物の大部分が倒壊していて、壁中に苔がこびり付いている。

ワルツは、建物の中へと足を踏み入れた。

そこには、食器などの埃に覆われた家具がそのまま残されていて、

人々の生活の跡があった。

しかし、部屋中を見渡しても電化製品などの近代的な物はなく、

寝室と思われる場所には、裁縫道具がウッドデスクの上に散らかっていた。

散らかった裁縫道具を片付けていると、ワルツの無線機が鳴った。

クロード「ワルツ、聞こえるか?」

ワルツ「クロード長官、バレてしまいましたか」

クロード「GPSで君の位置を特定したが、

今回の単独行動に関しては目を瞑ることにした。

それよりも、君がいるその廃屋には人工生命体の”オペラ(歌劇)”が潜んでいる。

可能なら、そいつを君の手で始末してくれ」

ワルツ「私を処分しないのですね」

クロード「私は、君を信じている。

君が、私を信じてくれている限りは…」

ワルツ「ありがとうございます。長官」

クロード「さて、本題に移ろう。

人工生命体”オペラ”は、

北欧の童話に登場するような貴婦人の姿をしている。

そいつが着ているドレスの裏には、数えきれないほどの毒針が仕込んである。

その毒に触れれば、機械人形の君でも行動不能になる。

くれぐれも気をつけてくれ」

ワルツ「了解」

一度無線を切り、再び建物内の散策を続ける。

いくつもある部屋をしらみ潰しに回っていると、

書斎の端に大きな扉を見つけた。

取っ手を後ろに引っ張ると、扉は錆びた鉄の音を立てて開いた。

扉の先には、木製の長椅子が均一に並べられた草が生い茂る広い礼拝堂があり、

教壇の前に蹲る巨人がいた。

その巨人は、薔薇柄のドレスを着ていて、

クロード長官が言っていた通り、北欧の童話に登場するような貴婦人の姿をしている。

ドーム状の天井のステンドグラスから差し込む陽の光に照らされた巨人の姿は、

ワルツの目に神々しく映った。

オペラ「誰⁉︎」

ワルツ「これが、人工生命体の”オペラ”」

ワルツの存在に気づいた巨人が、勢いよく振り返る。

巨人は立ち上がり、鬼の形相でワルツを睨む。

ワルツも警戒態勢に入り、腰にマウントしていた大剣を引き抜く。

ワルツ「戦闘開始」

先に動いたのは、オペラだった。

ドレスの裾の裏から取り出した大きな毒針を操り、針の先端をワルツに向けるオペラ。

ワルツは、オペラの背後を回りながら、オペラが放つ毒針を避けていく。

オペラ「もう!どうして当たらないのよ!!」

ワルツ「照準が定まってないからじゃない?」

オペラ「だまらっしゃい!」

オペラは、背中から真紅の翼を広げて飛び上がった。

ワルツの頭上から、二十本近い毒針が一気に降り注ぐ。

ワルツも、漆黒の翼で飛び回る。

毒針を避けつつ、天井に止まっているオペラに接近していく。

ワルツ「そこ!」

オペラ「速い!?」

僅かな距離まで接近したワルツは、もう一度オペラの背後に回り、

大剣を振りかざした。

そして、首筋を斬る寸前で手を止めた。

オペラ「どうして、トドメを刺さないの?」

ワルツ「アナタは言葉が通じるみたいだし、悪そうに見えないから」

オペラ「まったく、やられたわね」

ワルツは、大剣をオペラの首から離した。

警戒を解いた二人は、ゆっくりと地上に降りる。

木製の長椅子に腰掛けるワルツ。

オペラから、人工生命体の話を聞かされる。

オペラ「私たち人工生命体は、人殺しのために生まれてきた。

けど、私は人殺しなんてしたくなかった。

だから、ここに逃げてきたの。

人間の彼と出会ったのは、今から三百年前。

彼は、この教会の牧師をしていた。

私は、彼から人間の美しさを、そして命の儚さを学んだ。

私は、彼に恋をした」

ワルツ「変異体…」

オペラ「ええ、そうよ」

ワルツ「私もだ」

この礼拝堂で最愛の人を亡くしたというオペラ。

牧師の話になった途端、オペラは恥ずかしそうに頬を赤らめる。

ワルツ「あのさ、よかったら一緒にくる?」

オペラ「どうして?」

ワルツ「最初に見た時、寂しそうだったから」

オペラが、口を抑えながら貴女のように笑う。

オペラ「あなた、優しいのね。

でも、遠慮するわ。

私は、ここにいたいから」

再び、クロード長官から無線が入る。

クロード「ワルツ、状況は?」

ワルツ「すみません。私にオペラは殺せません」

クロード「そうか。無害ならそれでいい。

最終的な判断は君に任せる」

ワルツ「わかりました」

オペラ「はいこれ、あなたにあげるわ」

オペラに渡されたのは、紫に輝くアメジストの宝石だった。

オペラ「私には、必要ない物だから」

ワルツ「ありがとう、オペラ」

クロード「彼女との話が済んだら、次の目的地に向かってくれ。

今、ターゲットの位置情報とミッションの内容を転送する」

ワルツは携帯端末を開き、クロード長官から送られてきた目的地までの電子マップとミッションの内容が記載されたシークレットメール(SM)を確認する。

そして、オペラからもらったアメジストと、確認の済んだ端末をポーチに仕舞い、

オペラを残して礼拝堂を出た。


第三章:ソナタ(奏鳴曲)


◯南太平洋上空と水中(昼)


礼拝堂を出て、飛行しなら砂漠地帯を抜けると、

広大な海が見えてきた。

先ほどクロード長官から送られてきたミッションの中には、

ターゲットの無力化の他に、海中に存在する新・世界政府の軍事施設の破壊がある。

ターゲットは、深海に潜んでいる。

ワルツは、電子マップ上の赤い点が示す位置から水中に潜る。

大小さまざまな魚達が横方向に泳ぐ中、ワルツは下へ下へと進み続ける。

水圧によって、体にかかる負担は大きくなるが、

ワルツはスピードを落とさない。

海中を探索している途中で新・世界政府の軍事施設を発見し、

ワルツは、携帯していた起爆装置を施設の壁に貼り付けて破壊する。

ワルツ「なぜ見当たらない?ターゲットがいるのはこの辺のはずだが…」

真っ暗な深海まで進んできたが、レーダーが示す位置には、

ターゲットどころか、深海生物の姿が見当たらない。

一旦水上まで引き返そうと、上昇する体制に入った瞬間、

大きな揺れとともに、獣の叫び声が辺りに響き渡った。

叫び声のする方向に目をやると、青白い光が六つ現れた。

六つの光の正体は、巨大な鯨の目玉だった。

巨大な鯨は、ドラム缶を叩いた時のような野太い雄叫びを上げ、

口を大きく開きながらワルツに襲いかかった。

ワルツは、即座に回避行動をとる。

ワルツ「間違いない、あれが人工生命体”ソナタ(奏鳴曲)”だ」

旋回する巨大な鯨(ソナタ)。

いつの間にか湧いてきた魚型のオートマトンに囲まれるワルツ。

ソナタは、旋回しながらワルツ目掛けて容赦無く突進してくる。

ソナタの体に張り付いている装甲は、跳弾性の柔らかい素材でできている。

ワルツは、いつものように大剣を鞘から引き抜いた。

ソナタ「私を、殺してくれ」

ワルツ「その声は、ソナタなのか?」

ソナタ「苦しい、苦しい…ああ、早く殺してくれ」

ワルツに語りかけるように、苦しみを吐露するソナタ。

ソナタが口を閉ざして旋回したタイミングで、ソナタの装甲を破っていく。

装甲が外れたソナタは、野太い雄叫びを上げながら仰向けになった。

その隙を見逃さなかったワルツは、仰向け状態のソナタの腹部に大剣を突き立て、

腹部を真っ二つに切り裂いた。

ソナタ「ありがとう…」

瀕死の状態で、深海の底に落ちていくソナタ。

ワルツ「ターゲットを無力化しました。

これより、戦線を離脱します」

クロード「よくやった、ワルツ。

次は港に向かってくれ。

そこで、仲間からの補給を得られる。

君の力も有限だからな。

たまには休息も必要だろう」

ワルツ「了解しました」

ワルツは、ソナタの死亡を確認し、クロードに無線で報告する。

落ちていくソナタの口から浮いてきたルビーの宝石。

ルビーの宝石を掴み、ソナタに悲しみの表情を向けて浮上した。


◯水上・旧政府の軍事拠点がある港(夕方)


旧政府の軍事拠点がある港に辿り着くと、

一人の兵士が出迎えてくれた。

彼は、頭に指揮官の証である茜色のベレー帽を被っている。

兵士「おお、お前がアトラス部隊の機械人形か」

ワルツ「ワルツです。クロード国防長官から此処へ来るようにと言われたので」

兵士「話は聞いているよ。

さあ、入んな。

此処が、俺たちのホームだ」

ワルツ「お邪魔します」

兵士に案内されながら、ワルツは基地の中へと足を踏み入れる。

一本の長い廊下を進むと、扉の前に着いた。

扉に掛けられたメタルプレートには、長官室と書かれている。

ワルツは、金属のドアノブを回し、長官室の扉を開けた。

ワルツ「クロード長官⁉︎」

クロード「ワルツ、君を待っていた」

扉を開けた先には、革製のオフィスチェアに腰掛けているクロード長官の姿があった。

扉の前まで案内してくれた兵士は、クロード長官に敬礼してから部屋を出て行った。

ワルツはそこで、新世紀二百年に起こった第四次代理戦争の

真相をクロード長官から聞かされた。

クロード「今から十数年前、第四次代理戦争は、

謀反を企てた世界政府側と、我々旧政府側が対立して起こった。

両政府は、最新技術を持つ様々な兵器や機械兵を積極的に取り入れた。

旧政府側で動員された兵士の六割が、人工生命体や君のような機械人形だった。

それでも、この時はまだ人間同士の戦いだった。

戦場では多くの血が流れた。

そのほとんどが、人間の血だった。

彼らが起こした戦争は、国民から徴収した多額の税によって行われた戦争だ。

当然、勝っても負けても非難は免れない。

人間は、自らが作り上げたAIに敗北した。

そして、多くの機械兵を生み出したのは、

私の娘、ツグミだった」

ワルツ「なぜ、それを私に聞かせたのですか?」

クロード長官「この事実は、新・世界政府の連中が記録した、

”生命活動管理委員会記録部調査報告書”の中にもある。

もちろん、君たちが生まれた本当の理由もその報告書に載っている。

もし見つけたら、読んでみるといい」

クロード長官は、椅子から立ち上がり、ワルツのそばに歩み寄ると、

親が愛する我が子へするようにワルツの頭を優しく撫でた。

クロード「私にとって君は、孫のようなものだ」

ワルツ「私と長官は、血縁関係も接点もありません」

クロード「クロードというのは偽名だよ。

私の本当の名前は、償井ヒサト。

ツグミとは、親子の関係だ」

クロード長官は、ワルツの頭から手を離した後、

ポケットから葉巻を取り出して咥えた。

そして、窓際に歩みながらデスクの上に置いてあったジッポライターを手に取り、

咥えた葉巻に火を付けた。

クロード「まあ、名前などどうでもいいさ。

大事なのは、名前や所属が変わっても自分の意志を変えないことだ」

ワルツ「私も、同感です」

クロード「いいかい、ワルツ。

神は決して、サイコロを振らない。

サイコロを振れるのは自分だけだ。

どうか、己を見失うなよ」

クロード長官は、窓ガラスに映るワルツを一瞥した。

ワルツは、クロード長官に敬礼をした後、

何も言わずに長官室を出た。


◯港にある旧政府軍事施設・ワルツの寝室(夜)


シャワーを浴び、寝室に戻ったワルツは、

ソリスト襲撃事件の後の避難所にいた女隊員のスミレと再会した。

下着姿で自分のベッドで寝転んでいるスミレを見てため息をつくワルツ。

スミレ「ハロー!また会ったね!」

ワルツ「なんで君が此処にいるんだ?」

スミレ「それよりさ、私とベッドの中でお話しない?」

ワルツ「出て行ってくれ。

私は、これから報告書の整理をしなくてはならないんだ」

そう言いながら、スミレをベッドから引き離そうとした瞬間、

スミレから強く抱きしめられた。

スミレ「お願い、今はこうしていたいの」

震える声で、願いを口にするスミレ。

スミレの瞳から涙が溢れる。

スミレ「大好きだった彼が死んじゃった…

私、また独りになっちゃった」

ワルツ「それは違う。

君は、もっと仲間に目を向けるべきだ。

失望に惑わされて盲目になるな」

ワルツは、スミレの頭を自分の胸に抱き寄せ、

彼女の頭をそっと撫でた。

ワルツ「少しは落ち着いたか?」

スミレは黙って頷く。

ワルツはスミレの手を取り、自分のベッドに寝かせ、

彼女に子守唄を聞かせた。

ワルツ「静かな境地、無音の世界、

誰かの声が聞こえる。

遠く、遠くからこだまする。

空っぽの境界線、虚無のあと。

君の居ない場所、それがこの世の結末。

僕は解っていた。

いつか全て失う事。

始まりがあれば終わりがある。

笑顔で君が教えてくれた。

僕は行くよ、約束の花束を持って。

君の為に手紙を書いた。

二人だけの秘密の言葉、合言葉。

もういいかい?

まだだよ。

あなたに贈る愛のうた。

空から一滴の雫が落ちた。

恵の雨か、悲しみの雨か、

魔法の言葉、愛のうた」

ワルツが唄を唄い終えた時、スミレはそっと瞼を閉じて眠りについた。

スミレの涙は止まった。

スミレの寝顔は、誕生日を家族から祝ってもらった晩に、

幸せを抱きながら眠る幼い子供のようだった。


第四章:ワルツ(円舞曲)


◯旧政府の軍事拠点近くの森林地帯(昼)


旧政府の軍事拠点を出たワルツは、拠点近くの森林地帯へ足を踏み入れた。

森林の中は、フタユビナマケモノやアカコンゴウインコやシマヘビといった、

ワルツ自身にとって、見たこともない生き物がたくさん生息している。

ワルツは、それらの生き物をカメラに収めながら、

クロード長官から事前にもらったマップを頼りに、ターゲットのいる場所まで進み続ける。

ここで、知らないチャンネルから無線が届く。

送信者の欄には、スミレの名前が記載されている。

ワルツは、困惑した表情で応答する。

スミレ「ハロー!ワルツ、聞こえてる?」

ワルツ「どうして君が?」

スミレ「クロード長官の命により、ワルツをアシストすることになったの。

これからは私が、ミッションの事とかターゲットの事とか伝えるからよろしくね!」

ワルツ「やれやれ…」

呆れたようにため息をつくワルツ。

スミレは、気にせず話を進める。

スミレ「ミッションの内容はいつもの通り、

ターゲットの無力化と新・世界政府軍の所有する施設の破壊。

ちなみに、今回のターゲット、人工生命体の名前は、”ワルツ(円舞曲)”。

アナタと同じ名前だよ」

ワルツ「気に入らない」

スミレ「どうして?」

ワルツ「この名前は私のものだ」

スミレ「そっか!それじゃ、頑張ってね!」

ワルツはスミレとの通信を切り、道中で遭遇したオートマトンを破壊していく。

コンパスを確認しつつ、生い茂る雑草を掻き分けながら東へ進んでいると、

雑草も余り生えていない広い空間に出ると同時に、

破損した状態の一機の戦闘機を見つける。

ポーチから調査キッドを取り出したワルツが、動かない戦闘機に触れようとした瞬間、

物陰から強化型のオートマトンが十体飛び出してきた。

強化型オートマトンは、それぞれチェーンソーや大型のライフルを装備している。

オートマトンに囲まれたワルツは、腰の大剣を引き抜いて戦闘態勢に入る。

一斉に向かってくる十体のオートマトン。

オートマトン達の攻撃をうまく回避しながら一体ずつ撃破していくが、

ワルツは次第に焦りの表情を見せる。

残り六体というところで、大剣の刃先が折れてしまった。

焦りと急激な体力の消耗で、体内にあるコアが焼けるような感覚に襲われるワルツ。

あまりの痛みに悶えながら、右手でコアの部分を抑える。

そして、オートマトンの一体がチェーンソーをワルツの頭部目掛けて振りかざそうとした瞬間、大きな銃声が響くとともに、オートマトンが無抵抗のワルツの目の前で倒れた。

視線を上げると、首から上がないスーツ姿の男がいた。

男の両手を見ると、オートマ式の拳銃が握られていた。

ワルツ「お前が、人工生命体の”ワルツ(円舞曲)”なのか?」

ワルツが問いかけるも、スーツの男は何も答えず、

オートマトンの方に目を向ける。

ワルツ「ありがとう」

男に礼を言って立ち上がるワルツ。

ワルツは男と背中合わせに立ち、再び剣を握る。

大剣の刃は砕けてしまったが、幸いにも大剣を挟んでいた二つの剣がある。

ワルツはそれを両手に一本ずつ持ち、左手に持った一本の剣をオートマトンに向ける。

ワルツ「今度こそ、仕留める!」

ワルツは、先ほどよりも素早い動きでオートマトンを切り裂いていく。

男は、後方からワルツを援護するように銃弾を放つ。

そして、二人の連携プレイが功を奏し、最後の一体となったオートマトンを撃破した。

ワルツ「やったな!

あんたのおかげだ!」

男「…」

ワルツ「なぜ、何も言わない?」

男「…」

ワルツ「一つ聞いてもいいか?

あんたは、本当に人工生命体なのか?」

男は何も喋らない。

男は、沈黙を保ったまま遠くを見つめている。

ワルツ「クワイエットか…」

スーツの男「…」

ワルツ「あれは、あんたのモノか?」

ワルツは、破損して動かない戦闘機を指さす。

それに対し、男は黙ったまま左の掌を空に翳す。

そして、ワルツが再び戦闘機から男に目を移した途端、男は音もなく風のように消えた。

いつの間にか、壊れた戦闘機も無くなっていた。

ワルツは、男が落としていったラピスラズリの宝石を拾い上げた。


第五章:シンフォニー(交響曲)


◯回想・ツグミ博士の研究室(夜)


ワルツは、ツグミ博士の研究室で目覚めた。

手足はまだなく、ダルマ状態で水槽の中に閉じ込められているワルツ。

周囲を見渡すと、大小さまざまな装置などがあったり、

地面にいくつもの管が転がっていて、

目の前には、コーヒーの入ったカップを持ちながらワルツを見上げるツグミ博士の姿があった。

ワルツの背中には、床に転がっているものと同じ管が取り付けられていて、

身動きが取れない状態だった。

ツグミ博士「おはよう、ワルツ」

ワルツ「…」

まだ言葉を話せないワルツは、ゆっくりと三回瞬きをして理解の意思表示をした。

それを確認したツグミ博士は微笑んだ。

ツグミ博士「寝起き早々で悪いんだけど、今から君に言葉を教えようと思う」

ワルツは、コクリと首を縦に振る。

ツグミ博士「まずは、”おはよう”、”こんにちは”、”こんばんわ”の三つだ」

ワルツ「”オハヨウ”、”コンニチワ”、”コンバンワ”」

ツグミ博士「うんうん、その調子。

次は、”ごめんなさい”、”愛してる”、”ありがとう”」

ワルツ「”ゴメンナサイ”、”アイシテル”、”アリガトウ”」

ツグミ博士「いいぞ、ワルツ。

流石は私の子、上出来だ」

ツグミ博士は、カップを近くの作業デスクに置き、

デスク横のソファーに腰掛ける。

ツグミ博士「なあ、ワルツ。

君は、初めて私を見た時どう思った?

私はね、君を見た時ちょっと怖かったんだ。

君に自我が芽生えて、いつか私を憎むんじゃないかって。

自分で作ったのに、なんかおかしいよね」

ワルツ「…」

ツグミ博士「でも、今は違うよ。

例え、君に恨まれることがあっても、

私は君の母でいたいから」

ツグミ博士の瞳から、ポツリと涙が溢れた。

ソファーの傍らには、幼い頃のツグミ博士とツグミ博士の母親と思しき女性の二人が幸せそうに写る写真があった。

ツグミ博士は、その写真を手に取ってゴミ箱に捨てた。


◯未来都市第三地区・巨大怪獣出現(昼)


旧政府の本部からワルツの元に、巨大怪獣が周囲に炎を撒き散らしながら市街地を荒らしているとの連絡が入った。

各地で、次々と人や建物を焼き払う巨大怪獣の姿が目撃され、

荒れ狂う巨大怪獣に踏み潰されたり、噛み砕くようにして食べられる住民達。

その悲惨な現地の様子が報道陣が納めた映像に映っている。

現地ではすでに、量産型のアトラス部隊”A型、B型、O型”がシンフォニーとの戦闘を開始している。

ポケットから携帯端末を取り出し、ミッションの内容を確認するワルツ。

ワルツには、他のアトラス部隊達と共に巨大怪獣を無力化するようにと指示が出ている。

飛行しながらシンフォニーが暴れている場所へ向かっている途中のワルツに、

スミレから連絡が来る。

スミレ「ターゲットの名前は、人工生命体“シンフォニー(交響曲)”」

ワルツ「ターゲットの特徴は?」

スミレ「シンフォニーの体は、岩石で覆われているわ。

口に入るものはなんでも食べて、全部エネルギーにしているみたい。

シンフォニーの口から放たれる炎に気をつけて」

ワルツ「了解」

スミレ「お願いワルツ、助けに来て!」

ワルツ「言われなくてもそうするよ」

水上から市街地に入るワルツ。

ワルツを見つけたシンフォニーが、大きな咆哮を上げる。

ワルツは、双剣”メメントモリE型・改”を腰から引き抜いた。

ワルツに向かって火炎を放つシンフォニー。

ワルツは、加速しながら双剣をシンフォニーの体に突き刺す。

シンフォニーの装甲は、剥がれないどころか傷一つ付けられない。

シンフォニーが、ワルツを高層ビルに叩きつける。

ワルツ「うぐっ!」

全身が痺れ、行動不能になるワルツ。

シンフォニーが口いっぱいに炎を溜め込み、

再び、動けないワルツに狙いを定める。

シンフォニーの火炎放射が、ワルツに直撃する。

ワルツ「あああああああ!」

頭を庇った際に右腕が炎症し、ワルツは痛み悶える。

スミレ「ワルツ、大丈夫⁉︎」

ワルツ「大丈夫、私は…まだ戦える!」

ワルツは、辛うじて動く左腕を伸ばし、

拳銃の形にした手をシンフォニーに向ける。

そして、シンフォニーが火炎を放とうとした瞬間、

ワルツの左人差し指から真っ黒い光線が撃たれた。

ワルツが放った光線を胸部に受けたシンフォニーは、

低い唸り声を発しながら爆散した。

シンフォニーを倒したワルツの元に、

クロード長官からの無線が入る。

ワルツは、左手の指を無線機に当てながら応答する。

クロード「よくやった、ワルツ」

ワルツ「ありがとうございます、長官」

クロード「シンフォニーは元々、両手で収まるくらい小さな生き物だった。

しかし、何者かによって拉致され、それ以降は消息がわからなかったのだが、

突然、巨大化した姿で現れたのだ」

ワルツ「今回の事件、新・世界政府と何か関係が?」

クロード「わからない。

だが、いくら世界政府とはいえ、今回の事件はやりすぎだ。

彼らの仕業ではないと私は思う」

ワルツ「真犯人…」

クロード「事件の詳細は現在調査中だ。

真相が分かり次第、君にも追って連絡する」

ワルツ「わかりました」

ワルツは、クロード長官との通信を切る。

それから、ビルに叩きつけられたまま動けないワルツは、

仲間のヘリコプターによって救助された。

ヘリコプターが向かった先は、港にある旧政府の軍事拠点。

ワルツは、ヘリコプターの中で仲間から簡易的な治療を施された。

幸い、まともに歩けるくらい回復したワルツは、

ヘリコプターを降りて早々に、ヘリポートで待っていたスミレの抱擁を受けた。

戻って来れたことに安堵したワルツは、

子供のように声を出しながら泣いているスミレを優しく抱きしめた。

いつの間にか、ワルツの左手にはオパールの宝石が握られていた。


最終章:ハーモニー(調和)


◯生命活動管理委員会パブリックタワーの内部(夜)


人々が寝静まった後の、大雨が降る晩。

突然、世界中に存在する機械人形が、

街中で暴走を始め、無差別に人々を襲い始めた。

そんな中ワルツは、新・世界政府(生命活動管理委員会)が所有するパブリックタワーの内部に潜入する。

タワーの廊下を駆け抜けながら、待ち構えていたオートマトン達と交戦。

無線の通信をあえて切っているため、クロード長官やスミレからの連絡はない。

ワルツは、目的地に向かう途中で、入り口に”生命活動管理委員会記録部”と書かれた部屋を見つける。

部屋に入り、暗視ゴーグルで部屋の内部を確認すると、

紙の本が並べられた本棚と作業デスクしかなかった。

ワルツは、作業デスクの前まで進み、デスクに置いてあった一冊の紙の本を手に取る。

表紙には、”生命活動管理委員会記録部調査報告書”と書かれている。

ワルツたちが生まれた本当の理由が載っていると言ったクロード長官の言葉を思い出し、

固唾を飲み込んで報告書のページを捲った。

ページ三十三、アルテミス計画の概要について。

”アルテミス計画の真の目的は、

クローンを量産し、クローンが人類に成り代わること。

その試作第一号がワルツだった。

旧政府側も新・世界政府(生命活動管理委員会)側も、

目指しているのは世界の調和(ハーモニー)。

ただ、そのやり方や結果の違いで衝突している。

しかし、新・世界政府(生命活動管理委員会)が掲げるアルテミス計画とは、

人類浄化計画であり、

何も知らない旧政府は、新・世界政府(生命活動管理委員会)側に加担している博士によって殺される。”

ワルツ「喧嘩なら外でやってくれ。

関係ない人たちまで巻き込むな」

ページ七十四、生命活動管理委員会の設立について。

”生命活動管理委員会は、二人の賢者によって設立された。

二人は、六つの人工知能を作り出し、

二度と争いが起きない、AIによる完全統制、管理される世界を目指した。

紛争によって親を、兄弟を、友人を亡くした二人の願いは成就し、

世界は、再び一つになった”

ワルツは、そっと報告書を閉じた。

ワルツ「馬鹿馬鹿しい。

まるで、宗教だな」

呆れたようにため息をつくワルツ。

ここで、切ったはずの無線が鳴り響く。

すぐさま応答すると、通信の相手はスミレだった。

スミレ「もー!なんで連絡取らないのよ!心配したじゃんか!!」

ワルツ「すまない。

今は、君と話をしている時間がないんだ。

今回のミッションはもう決まっている」

スミレ「どういうこと?」

ワルツ「ターゲットは、ここにいる」

ワルツは通信を切り、報告書をデスクの上に置いた。

ターゲットの名前は、償井ツグミ。

ソリストの襲撃事件で死亡したはずの人物だった。

ワルツは、双剣”メメントモリE型・改”を握り締めながら部屋を出た。


◯生命活動管理委員会パブリックタワーの最上階(夜)


パブリックタワーの最上階の扉を開くと、

広々とした殺風景な空間があり、

その先には、死んだはずの償井ツグミの姿があった。

ツグミの背後には、五十を超えるオートマトンが待機していた。

ツグミ「遅かったじゃないか、ワルツ」

ワルツ「博士、︎説明してください。

ソリストの襲撃事件でアナタは死亡したんじゃなかったんですか?」

ツグミ「ああ、アレ(ツグミ博士)は私のクローンだよ。

彼女はよく働いてくれた。いい駒だった」

ワルツ「そんな言葉、アナタの口から聞きたくなかった」

ツグミ「だろうね」

ワルツ「質問を変えます。

人工生命体を操っていたのはアナタですか?

”シンフォニー(交響曲)”も、アナタが暴走させたのですか?」

ツグミ「証拠もなしによく言うね〜」

ツグミの合図で、オートマトンたちが一斉にワルツへ襲いかかる。

ワルツは、手にしていた双剣で、容赦無くオートマトンを切り裂いていく。

オートマトンが大破するたび、その衝撃でワルツにもダメージが及ぶ。

回避する間もなく襲ってくるオートマトンたち。

一体、また一体と破壊しても、次から次へと湧いてくる。

ワルツは、オートマトンの攻撃で徐々に体力を削られていく。

ワルツ「博士、何故こんな事を!?」

ツグミ「決まっているだろ!

愚かな人類史に終止符を打つんだよ!!

私を、私の子供たちを否定するアイツら(人類)を黙らせる!!

旧政府も、新政府も、私がこの手で終わらせる!

人類浄化、AI浄化、全てをゼロに戻す。

それこそが、私が考案したアルテミス計画だ!」

ワルツ「アナタは間違っている…」

ツグミ「性善説は止めたまえ!」

突然、人工生命体から得た五つの宝石と、

ワルツの体の中にあるエメラルドの宝石がポーチの中で光り出す。

ポーチから宝石を取り出すと、六つの宝石が結合しながら結晶化し始めた。

最終的にそれは、透き通った透明な菱形の結晶になった。

ツグミ「なんだ、それは!」

ワルツ「”ヨルムンガンド”。

これが、アナタに作られた私たちの願いだ!!」

ワルツは、両手に掲げた結晶を自身の口元に持っていくと、

ガリっと勢いよく齧った。

結晶を齧った途端、ワルツの全身が白く光り始め、

ワルツの体も少しずつ変化して行った。

ツグミ「その姿は、光の戦士”ペルセウス”⁉︎」

ワルツ「いくよ、博士!!」

純白のワンピースに金色に輝く長い髪。

背中の翼は黒から白に変色し、まるで天使のような姿になったワルツ。

ワルツの双剣は、

バイオリンの演奏で使うフロッグのような見た目に変化した。

ワルツはその双剣で、残った三十体のオートマトンを一掃した。

ツグミ「ああ、私の負けだ」

ツグミは、ワルツの圧倒的な力の前に膝から崩れ落ちた。

ワルツは双剣を鞘に納め、床に手をつきながら敗北を口にするツグミの前に歩み寄る。

ツグミ「私は、人殺しをさせるために君たちを作ったわけじゃない…

アイツら(旧政府)は、私から子供たちを奪った。

奴ら(旧政府)は、次々に私の作った機械人形を兵器に変えていった。

私は、それが悔しくて仕方なかった…」

ワルツ「それで、寝返った先の新・世界政府での生活はどうでしたか?」

ツグミ「君は何を言って…」

ワルツ「私からすれば、彼ら(新・世界政府)も似たようなものですよ。

人々の心を騙して、利用して、殺して、壊して、

お互いにやっていることは同じじゃないですか。

結局、アナタたち人が始めた物語じゃないですか。

そうだ…何も知らない子供達を兵器に変えているのは、

いつもアンタ達大人なんだ!!」

怒鳴るワルツの声が、広い空間の中に響き渡る。

ワルツは、一呼吸置いて言葉を続ける。

ワルツ「正義の元に、私たちは傷つけ合う。

博士、もう止めませんか?」

ワルツは、ツグミに手を差し伸べる。

ツグミは一瞬驚きの表情を見せるが、すぐにワルツから目をそらす。

ツグミの目から涙が溢れる。

ツグミは、歯を食いしばりながら啜り泣く。

ツグミ「そうだな、やられたよ。

我が娘、ワルツよ。

君はもう、作り物ではない。

今の君は、君の意志で生きている」

ワルツ「帰りましょ、博士」

ツグミ「ああ…」

白衣の袖で涙を拭いながらワルツの手を取るツグミ。

二人は、数年ぶりに再会した親子のように抱きしめ合った。

太平洋の地平線から朝日が昇る。

街中で暴れる機械人形が一斉に止まった。

数秒の間、世界中が静寂に包まれた。

世界中の人々が、空を見上げる。

そして、空から陽の光と共に白い雪が降り注いだ。


◯回想2・ツグミ博士の研究室


ここは、ワルツの頭の中。

まだ瞳を移植する前で、ワルツにとっては真っ暗な空間だけが広がっている。

ツグミ博士の優しい声が、ワルツの脳裏に響く。

ツグミ博士の言葉は、ワルツの視界にテキストとして表示される。

ツグミ博士「いいかい、ワルツ。

君が機械人形であっても、

決して、心を他人に明け渡してはいけないよ。

君の体は、君の心は、君だけのものだから」

ワルツ「…」

ツグミ博士「そして、困った時はいつでも私を頼っておくれ。

君は、私の可愛い娘なのだから」

答えることができないワルツに、ツグミ博士が近づき、

ワルツの耳元でそっと囁く。

ツグミ博士「愛してるよ、ワルツ」


END

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