第23話 シュウィーツ戦

 今日は軍部で会議がある。魔法隊隊長として、私も会議に参加するのだ。副隊長としてモスさん、秘書としてアスモデウスにも来て貰っている。


「会議を始める。今日の会議は、隣国シュウィーツから宣戦布告された件についてだ」


 軍部長、大将のクマの獣人、ベアレさんが話し出す。シュウィーツはルツェルンの東にある国だ。アレット森に唯一囲まれていない位置である。

 緊張が走る。


「一月後、戦争が始まる。作戦を考えるのが今日の会議の内容だ」


 戦争か。今まで平和に暮らしてきたから、初めての事だ。

 戦争と言えば、悪魔達と天使達に協力を仰ぐのがいいだろう。何かあったら声をかければ招集出来る状況なので、これを使わない手は無い。


「私の部下の悪魔500人が力にかれるかもしれません」

「悪魔500人?なんだその出鱈目な戦力はっ!?」


 ベアレさんが驚いて立ち上がる。


「以前悪魔退治の際に従ってくれた悪魔の部下です」

「そ、そうか。それは強力な助太刀だな」

「それから、部下の天使4人も力になれるかと」


 アルマロス、ミカエル、ガブリエル、ラファエルの4人だ。


「分かった。じゃあお前達の戦力を中心に作戦を立てよう。天使はどんな能力が使えるんだ?」

「ミカエルは攻撃能力があり、ガブリエルは死者を復活されられます。ラファエルは治癒魔法が使えて、アルマロスは魔法無効化が出来ます」

「なるほど。噂には聞いていたが、相変わらずお前の戦力は出鱈目らしい」

 

 会議は進む。

 最終的に、悪魔500人を特攻させ、その後ろに剣戟部隊3万人と魔法部隊1万人。天使は後方支援と悪魔のサポートという形に収まった。


「最後に。この作戦の最高責任者を、魔法部隊隊長のシュナにしようと思う。戦力の中心がシュナの部下だからだ。異論はあるか?」

「え!?」


 そんな話聞いてないよ!?びっくりしてベアレさんを見つめる。異論はないけれど。

 でも、それなら色々やりやすいかもしれない。最終的な決定権が私にあるということだし。


「つ、謹んでお受け致します」

「うむ。任せたぞ。軍の細かい指揮は俺が行うので、そのつもりで」


 それなら安心だ。軍の指揮なんてした事ないなと思っていたのだ。


「会議は終わりだ。解散!」


 初めての会議だったが、ちゃんと出来て良かった。


「我が君、凄いですね。最高責任者だなんて」

「うん。やりやすくなった気がするよ」

「左様ですか」


 ということで、悪魔500人と天使達に連絡をしておいた。


 悪魔達の反応はこんな感じだった。


「わかりました!頑張ります!!」

「シュナ様のお役に立てて光栄です!」

「最善を尽くします!」


 奉仕精神の旺盛な者達ばかりだ。思わず笑顔になってしまう。


 天使の方は、


「分かりました。1番に成果を上げて見せましょう」


 ミカエルは戦闘精神が旺盛だ。積極的に敵を減らしてくれそうである。


「悪魔のサポートですね。少し癪ですが、任せてください」


 ガブリエルは死者を復活させられるので、特攻する悪魔のサポートをする。


「承知いたしましたぁ」


 ラファエルは傷を癒せる。後方支援だ。


「シュナにいい戦果を渡せるように頑張ろう」


 アルマロスは魔法無効化とスピードをを活かして戦ってくれるだろう。


 天使側も良い感じだ。

 いい結果を残せるように、私も頑張らなければ。


〜〜〜


 早いもので、1ヶ月が経った。開戦の日である。


「こちらから仕掛けるぞ!行け、皆の者!」

「「おおぉー!」」


 ベアレさんが鬨の声を上げ、進む軍隊。


 なんだかライブ会場みたいだな、と場違いなことを1人考えていた。叫び声で、腹の底と心臓が震える。


 向こうの軍隊がこちらに来た。

 その数、6万。こちらは4万と500なので、数では負けている。が、こちらには悪魔も神もいるのだ。単純な数では比べられないだろう。


 悪魔の軍が敵の軍とぶち当たる。


「うおおぉ!」


 内容は、ほぼ悪魔による蹂躙であった。が、悪魔もいくらか死ぬ。その度に、ガブリエルがラッパを鳴らし、"復活の福音"を行使して味方を甦らせる。


 私も前線で戦った。神力で、終戦まで意識を失わせる魔法を手当り次第にバカスカ打っている。言わば呪いの類かな。無双である。


 少し遠くでは、アスモデウスが敵を掃討していた。


黒銃弾ブラックガン!」

「ギャアアア!」


 闇魔法の雨あられが敵陣に降り注ぐ。


「ふふふふ、こんなものじゃ終わりませんよ。破壊滅弾デストロイバレット!」


 黒い魔法弾が敵の団塊に当たる。その魔法は戦況の中でもよく目立ち、圧倒的だった。


「こ、こんなの勝てるわけないじゃないか!悪魔だ…!」


 敵からそんな声が聞こえ始めた。

 戦況はこちらが有利。悪魔達は大活躍であった。


 こちらの軍が向こうの軍を押す。

 舞台は民家街になった。


「キャー!!」

「逃げろー!!」


 火魔法で爆発が起き、闇魔法で家屋が倒壊する。

敵の軍は半壊していた。


 後日、私も前線で戦っている頃。そこで、一人の男と会う。


〜〜〜


 シュウィーツ軍の、一人の男の話だ。


 男は、つい先日、この戦争で妻と娘を亡くした。ルツェルン軍の魔法で、家屋が倒壊して巻き込まれたのだ。


 家の近くに戦士として戦いに出た際、血を流して死んでいる妻と娘を見つけた。慟哭。信じ難い光景だった。


 妻の穏やかな笑顔も、娘の無邪気な笑顔ももう見ることは無い。そう思うと、酷い喪失感を感じ、同時にこれ以上失うものなど、無いように思えた。


 敵軍の銀髪の少女は、その魔法を持って、敵軍を圧倒していた。謎の魔法を受けると、倒れていく味方達。


 そいつが、目の前に現れる。


 そんな出鱈目な存在にも、立ち向かえる気がしたのだ。死んだ家族が、俺の背中を押してくれているように感じた。


 畏怖は確かに感じる。だがそれがなんだというのだ。俺に失うものなど何も無い。剣を持ち、立ち上がった。


「うおおおおぉ!」


 決死の切りつけ。しかしまぁいとも簡単に防がれ、転がされてしまう。地面に体を打った。だが俺は起き上がる。娘達の仇は、必ず返す。そう思い。


 何度でも立ち上がった。何度でも切りつけた。その度に転がされ傷が増え、防具がボロボロになる。それでも、それでも。自分が今できる弔いなんて、これくらいしかないのだから。


「私は殺す気はないんだよね。無力化さえできればそれでいい。貴方も早く諦めてよ」


 相手は圧倒的に上である。それは分かっていた。それでも、諦める気にはならない。

 立ち上がる俺に、


「仕方ないな。じゃあ心を折ろう」


 言ってる意味が分からなかった。俺の心は折れない。そう思っていたのに、しかし目の前の存在が指をくいっと下にした瞬間、俺の心はいとも簡単に折れた。

 勝てようがない。足掻く気にもなれない。先程までの威勢も根気も見る影がなかった。俺は無力感から膝をつき、静かに泣いた。娘達の為に仇を打つことすら出来なかった。


「悪いようにはしないからさ。そのまま何もしないでいてね。それじゃ」


 そう言って、銀髪の少女は去っていった。


〜〜〜


無効化する視線ナリファイ・アイ。行け、ミカエル!」


 アルマロスの無効化する視線ナリファイ・アイによって、敵の防御魔法が崩される。


「了解しました!星狂暴走クレイジースター!」

「ぐあああっ!」


 そしてそこに、ミカエルの放った無数の星が、敵を切り刻みにいく。


「復活の福音!〜♪」


 後方では、ガブリエルがラッパを鳴らし、死んだ味方を生き返らせる。


聖回復ホーリーヒール。大丈夫ですよぉ、痛いのなくなりますからねぇ」


 ラファエルも、上位の聖魔法で味方の傷を癒していた。


 天使4人とも、大活躍であった。


〜〜〜


 戦争が終わりに向かっている頃、私は1つの判断をした。


 ガブリエルにも協力してもらって、敵国、自国の死者を生き返らせてもらおう。

 そしてその対価として、シュウィーツに属国になってもらおう。


 ベアレさんにもそのことを伝える。そして、敵軍の総帥にその意思を伝えた。


 そして、総帥と会談する機会を設けた。


「戦争は、こちらの負けだ。戦死者を生き返らせてくれるなら、この上ない。属国にもなろう」


 ということだった。

 そして、シュウィーツには賠償金命令が出した。額にして、1億エニー。


 かくして、シュウィーツとの戦争は幕を閉じたのである。


〜〜〜

 戦争が終わった後、その出鱈目な存在と再度対峙する機会があった。


 そいつは神らしかった。戦争で死んだ人達を責任を持って生き返らせる、そして属国になれ、と言うのだ。

 そして、戦争はシュウィーツの負けで終わった。


「おぉ、神よ」


 そんな声が上がる。

 太陽の光を背中に受けた神が、並べられた死体の前で両手を広げる。


「死者よ、今ここに甦れ」


 神がそう唱えると、ムクリ、ムクリと死者が起き出した。


 そいつは、シュウィーツでも神として崇められた。名前はシュナ。銀髪碧眼の神だ。


 娘と妻も、神と天使の手によって生き返った。もう見ることはないと思ったその笑顔に、涙がこぼれる。


「パパ!」

「あなた!」

「あぁ、良かった、生き返ってくれて…!」


 己も、シュナという神を崇めたいと思ったのだ。


 シュウィーツの中心的な宗教となる、シュナ教の誕生の瞬間であった。


〜〜〜


 戦争の最高責任者である私は、英雄、そして神として崇められることになった。


 そして私を信仰する者達の集まりが、私の宗教を開いたのだ。何故かその中にアスモデウス達もいた。さては、何かしたな?

 聞いてみると、


「我が君を崇める声がしたので、私達はそれをまとめ上げたまでです」

わたくし達も幹部なのですわ。シュナ教の事はお任せくださいな」


 との事だった。まぁ、見知った者が宗教の幹部にいるのはやりやすそうだと思う。


 そして、幹部の1人に先日戦場で出会った男がいた。


「あぁ、君。奥さんと娘さんは元気?」

「お陰様でな。あの時はありがとう。あれから、シュナ様を崇めることにしたんだ。幹部として宜しく頼むよ」

「うん。宜しくね。名前は?」

「ジェレミアだ」


 ジェレミアとは、"神の喜び"を意味する名前だ。宗教家にピッタリな名前である。


 そうして私はシュナ教の教祖になったのだった。

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