第20話 夏祭りと魔法

 季節は夏。夏の風物詩の1つと言えば、夏祭りである。ここ帝国ルツェルンにも夏が来た。


「今日さ、中央通りで夏祭りやるんだって!皆で行かない?」

「いいですね」

「行きたいのです!」

「よし!そう決まれば、まず!浴衣を買いに行こう」


 まずは衣装チェンジである。一行は浴衣を買いに行った。


「これ可愛いのです!」


 メアリーが見つけたのは、桜色の布地にムクゲが描かれた浴衣。ムクゲの花の真ん中の赤色が、良い差し色になっている。


「あ、これ私の目の色と似てる」


 シュナが気に入ったのは、スノーホワイトの布地に瑠璃紺色と薄浅葱色の金魚が描かれたものだ。青系統の色が涼しげで可愛らしい。


「これにしますわ」


 パイモンが選んだのは、白地に赤色で金魚が描かれているもの。パイモンの髪色とマッチしていてお洒落だ。


 男性陣も浴衣を買った。アスモデウスは黒、オリエンスは呉須色、アメイモンは青漆色、アリトンは鼈甲色の浴衣を買った。皆の髪色を渋く暗くしたような色だ。


「よし!じゃあ夜になったら行こうね」


 服は調達したので、あるは夕刻になるのを待つばかりである。

〜〜〜

太陽「ばいばーいヾ(・ω・`)」

〜〜〜

 夕方になった。丁度日が暮れる時間である。

 外はじめっとしていて、湿気が肌に張り付くようであった。


「じゃあ、しゅっぱーつ!」

「進行なのです!」


 一行は中央通りに赴いた。


「あ、シュナだにゃ」

「シュナだな」

「あ、ケイン!サーニャ!」


 歩いているとケインとサーニャに出会った。偶然だ。

 ちなみに2人とも悪魔達が来てからも仕事がない日は遊びに来ているので、皆とも仲が良くなっている。


 歩いていると、金魚すくいを見つけた。


「金魚すくいやるにゃ」

「5分間で誰が一番多く取れるか、勝負しよっか!」

「望むところだ」


 初めは私とサーニャとケイン。

 私は早速ズル?をした。


(サタナ、いっぱい取って!)

『承知いたしました』


 勝負が始まる。


「うぉ〜!」

「な、なんだその手さばきは!?」

「私も負けてらんないにゃ!うにゃー!」


 私もといサタナと、サーニャは接戦だった。サーニャは猫だから動く金魚を追うのが上手い。

 ケインはゆっくり、ゆっくり金魚を掬っていた。


「あっまずい。破れてしまった」

「ふっふっふ、まだまだ行くよ」

「お疲れ様だにゃ」


 5分間が終わるあたりで、丁度飽きてきた。


「腕疲れたにゃ」

「私ももういいかな…」

『では、終了します』


 複数のボウルに大量の金魚を掬い、私は60匹、サーニャは55匹、ケインは12匹だった。


「お前達、凄いな…」

「どんなもんだにゃ」

「ふふ、凄いでしょ」


 私とサーニャはドヤ顔をする。


「悪魔達は誰が強いにゃ?」

「私の予想ではパイモンかな。器用そうだし」

「頑張りますわ〜」


 続いてパイモン、アスモデウス、メアリーだ。


「私金魚すくいしたことないのです」

「そうなの?じゃあこの勝負、貰ったわね」

「パイモンでも我が君に勝てるとは思えないですけどね」


 そうして勝負がスタートした。パイモンは軽い調子で、ほいほいと金魚を掬っていく。

 中々凄いのはアスモデウスだった。彼は器用らしい。

 メアリーは可愛かった。


「行きますですよー!」


 そろりそろり、と小さな金魚の下にポイを潜らせるメアリー。観戦組の皆が息を飲んでメアリーを見つめる。


「「「ごくっ…」」」

「…とりゃ!」


 小さな金魚が1匹、メアリーのボウルに入る。


「「「おぉ〜!!」」」

「やったのですー!!」


 皆が拍手をする。メアリーは初めてなのだから、1匹取れただけで特別賞である。シュナはついつい甘やかしてしまうのであった。


 しかし、2匹目にチャレンジした所でポイが破けてしまう。


「あっ。ポイがビリィなのです…」

「ビリだけに?はっはっは!」

「殴るですよ!!まだ分からないのです!」


 オリエンスがメアリーを煽る。なかなか言うな、と思った。メアリーは本当に殴りそうであった。


「そこまで!」

「腕疲れましたわ」

「集中しましたね」


 私の掛け声で勝負が終わる。いい勝負だった。結果はパイモンが38匹、アスモデウスが50匹、メアリーが1匹であった。皆、素でこれなのだから凄いものである。


「お疲れ様!」

「お嬢様、私1匹なのです…」

「メアリー初めてなんでしょ?十分凄いよ!特別賞だよ」

「そうなのです?やったなのです!」


 可愛い。頭を撫でておく。


「我が君、私達は?」

「そうですわよ」

「アスモデウス達も凄かった!」


 アスモデウス達の頭も撫でておく。満足そうにするので少し不思議な気持ちであった。


 最後に、オリエンス、アメイモン、アリトンの3人だ。


「やってやるぜ!」

「健闘を祈ろう」

「頑張りましょう!」

「よーい、始め!」


 掛け声をかける。

 まず見るはオリエンスだ。


「おらー!」


 オリエンスは力任せに金魚を掬おうとする。


 ポチャン。

 金魚は破けたポイから水槽の中に戻った。


「ポイがビリィしちゃったのです?ビリだけに」

「おま、お前な〜!!」


 さっきの仕返しと言わんばかりにメアリーが煽る。


「む…破けてしまったか」


 暫くして、地道にやっていたアメイモンのポイも破けてしまったらしい。


 最後までやっていたのはアリトンであった。


「疲れますね、これ」

「そうだな。オリエンスは疲れなかっただろうが」

「言うじゃねえかアメイモン」


 結果はオリエンスが0匹、アメイモンが19匹、アリトンが31匹であった。


 ランキングは、

 1位 シュナ 60匹

 2位 サーニャ 55匹

 3位 アスモデウス 50匹


 であった。


「やっぱ当然だよね」

「お猫様には勝てないにゃ」


 すぐ調子に乗る2人である。私に至ってはサタナの力だ。


「いい結果が残せて良かったです」


 アスモデウスも嬉しそうであった。


 次は、輪投げを見つけた。


「あそこに輪投げあるにゃ。一緒にやるにゃ」

「サーニャ上手そうだよね」

「俺もやろう」


 サーニャとケインは乗り気だ。


「私はいいです」

「俺もいいわ。屋台の布突っ切りそうだし」

わたくしも遠慮しますわ。腕疲れましたの」

「遠慮しておこう」

「僕もパスで。あまり興味無いです」

「そっか〜」


 悪魔組はパスだ。

 ということで4人で輪投げをやることにした。配点は、10点、5点、1点である。


「にゃっ!」


 まずサーニャが輪を投げる。見事10点の棒に収まった。


「とうっ!」


 私も素で投げる。端っこの1点に収まった。実力はこんなもんである。


「よっと」


 ケインは軽く投げる。5点であった。


「よいしょっ」


 メアリーが可愛い声で投げる。1点だ。


「1点仲間だね〜」

「なのです!」

「勝ったのにゃ。なんか寄越すにゃ」

「じゃあなんか買ってあげるよ」

「わたあめ買うにゃ」


 後は屋台料理を楽しんだ。わたあめ、牛串、やきそば、りんご飴、かき氷、イカ焼き、フランクフルト、etc。夕飯も兼ねているので沢山食べた。

 屋台料理って感じでどれもジャンキーな感じで、お祭りの雰囲気も相まってとても楽しめた。

 シュナはサーニャにわたあめを買ってあげた。


 ヨーヨー釣りもやった。可愛い鮮やかなピンクのヨーヨーを釣った。


 キャンドルライトイベントがあるらしい。それも見に行った。


「綺麗だな」

「幻想的だにゃ…」


 公園一帯にキャンドルが敷き詰められている。キャンドルの火は、夜の闇を妖しく照らしていた。まるでそういう植物のようで、幻想的で綺麗だった。


「わー、綺麗だね」

「そうですね。キャンドルの光に照らされる我が君のお顔も素敵です」

「ありがとう、アスモデウス」

「…ん?立て看板があるのです」


 メアリーが立て看板を見つける。立て看板によると、色魔法で色を変えてもいいよ、との事だった。変えた後は戻してね、とも。


「ちょっと変えてみようかな」

「お、やんのか」

「見ますわ」

「楽しみですね」

「うむ」


「行くよっ。それ」


 私は指を一振りし、キャンドル全体に魔法をかけた。虹色にゆっくり変化していくようにした。


「わぁ…綺麗なのです」

「時間経過で終わるようにしとこうかな」

「流石です、我が君」


 アスモデウスは大抵の事を褒めてくれる。自己肯定感が上がるばかりだ。


 暫くは、それを眺めていた。心が落ち着く。

 早いもので、秋の虫が鳴いていた。リーリー、リンリンと音がする。


「もうすぐ秋なのかな?」

「まだ早いんじゃないか?」

「昼間は暑いにゃあ」

「でも、秋の気配が感じられるのです」


 やがて、色魔法の効果が切れた。


「よし、そろそろ行こっか」


 振り向いた時、丁度後ろで花火が上がった。


 ドーン。


 花火のカラフルな光が、皆の顔を照らす。


「わ…」

「花火、上がりましたね」

「綺麗だな」

「綺麗だにゃ」


 皆見蕩れていた。空の半分を覆うような、大きな花火が沢山上がる。

 柳のように、光がしなだれる花火が空に線を描いていて、綺麗だった。


「そろそろ帰るにゃ」

「そうだね、疲れたし」


 大分遊んだので、お開きにすることにした。まだ花火は上がっている。


「じゃ、またな」

「またにゃ〜」

「またね〜!」


 私達は、花火を背景に帰った。夏らしくていい気分だ。


「あぁ〜楽しかった!」

「楽しかったですわね。満喫しましたわ」


 家に帰ると、ずっと硬い下駄を履いていたから床が柔らかく感じた。変な感じがする。


 取った金魚は、神力で作った大きな水槽に、酸素が出続けるようにしたボール複数と水と共に入れておいた。上にズラせるガラス板を置くのも忘れずに。

 弱っている金魚もいたので、軽く回復魔法をかけておいた。元気に育つだろう。

 皆の仕事に、金魚の世話が増えたのであった。


 ジメッとしていたので、よく汗をかいた。お風呂が気持ちよくなりそうだ。


「お嬢様、お風呂入れてきますなのです」

「うん、ありがとう」


 我が家の風呂は3つある。私用のお風呂、男悪魔達用の大浴場、メアリーとパイモン用の大浴場の3つだ。メアリーかアスモデウスがいつも私のお風呂を入れてくれる。


 今日はラベンダーの入浴剤にした。お風呂が藤色になって、ラメがキラキラ光っていて可愛い。

 魔法で天界のネットワークと繋いで、地球のジャズを流した。オシャレなお風呂空間の完成だ。


 服を脱いでお風呂に入る。


「あ"ぁ〜気持ちいい…」


 声が濁るレベルで気持ち良かった。疲れた体に暖かい湯が染み渡る。魔法で家の中や浴場の温度湿度は自動調節しているので、心地よく入ることが出来た。


 大好きなお花の香りのシャンプーを使う。このシャンプーは毎回使うのが楽しみだ。

 ボディソープはバニラの匂いがする。これを使うと、毎回体が良い匂いになるのだ。


 お風呂を出たら、髪を魔法で一瞬で乾かした。夏でも暑くないし、楽ちんである。自分で乾かす日もあれば、アスモデウスとメアリーに乾かしてもらう日もある。


 ジェラピカの、薄ピンクの兎耳付きパジャマを着る。半袖半ズボンで涼しいのだ。


「皆おやすみ〜」

「「「おやすみなさい/ですわ」」」


 穏やかな笑顔を浮かべる。こうして皆と挨拶をする日々が幸せなのだ。

 今日も一日楽しかった。幸せだなぁ、と思いながら眠りについたのであった。

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