第16話 神としてのお仕事と天界での暮らし
「うん、貴方は53階層ですね」
死者の生前の行いを鑑みて、階層を決める。
情報を打ち込み、タクシーの方に連絡をする。そうすると、タクシーが指定の階層に死者を送り届けてくれるのだ。
だが、やりづらいことこの上ない。私はこの制度に手を加えることにした。
まず、善行の数と悪行の数をポイント制にして総ポイントが分かるようにした。そして次に、善行の数と悪行の数の比率を分かるようにした。1:1とか、1.5:2とか。色々である。実際はもっと細かいけどね。
この2つの改定によって、階層分けは随分楽になった。だいたいこの辺、という検討がついてるのとついてないのじゃやりやすさが違うのだ。それに、受付による階層分けの個人差が減った。
後は内容を検討するのみだ。比率やポイントは単純な数に左右されるので、各々の善行悪行の重みは受付の私達が見る必要がある。
それでも、同僚の神や天使にいたく感謝された。
「ほう、生前パワハラに…それはお辛かったでしょう。」
対応している方はうんうんと涙目で頷く。
いわれもないのに虐められた人や嫌がらせを受けた人、重い病に罹った者は、少し階層が上がる制度がある。死んでからも報われないのでは可哀想だという声から作られた。
「貴方は60階層ですね。この番号のタクシーにお乗り下さい」
そうしてまたタクシーに連絡をいれた。
真ん中の階層に分けられた魂の行方はいくつかある。
洗ったり聖魔法をかけられたりして浄化され、新しい魂の材料にされるもの。天界で働くことで善行ポイントを稼ぎ、ランダムな、意思をもつ者に転生させて貰うもの。
なお、70~80階層くらいになると、特に働かなくても単体で転生させて貰えるようになる。
転生先は、意思を持つものの内からランダムで選ばれる。例えば亜人、人間、魔人などである。天使は天界から選ばれるし、悪魔は自然発生で転生先にはされない。
人のために何かをすることや、人を幸せにしたり笑顔にしたりすることも善行にカウントされる。
お笑い芸人なんかは割と善行ポイントが多かったりした。
「ほう、生前は芸人を。沢山の人を笑顔にしてきたのですね」
お笑い芸人だった人が、一芸披露してくれた。おぉー、と拍手をする。周りの人も、「え、あの人が!?凄い凄い!」という感じだった。
「貴方は87階層ですね。この番号のタクシーにお乗り下さい」
高い階層に分けられた魂の行方も複数ある。
基本的には自由で、天界に住めたり、好きな転生先を選べたり、働きたい者は天界で働くことができる。奉仕精神の強い人が多く、案外働く人が多いのだ。
因みに、かなりの高階層の者や、天界で働くようになった者の中から、天使は選ばれる。
「なるほど、鳥への転生ですか。色々な種類があります。こちらに図鑑があるので、選びたい場合は選んでください。選ばない場合はランダムになります」
「ありがとうございます」
天使の仕事の中には、魂の洗浄もある。色んな方法が取られており、それには個人差がある。煮詰めて煮沸消毒する人や、洗濯物みたいに洗剤をつけてジャブジャブ洗う人。聖魔法で簡単に浄化する人。3つ目は神などの上位者に多い。
「はぁー、魂の洗浄も楽じゃないわね」
魂の洗浄担当のおば様が腰を叩きながら言う。大きいバケツに魂を入れて、洗剤とともに混ぜているのだ。魂は、既に意思は無い。そういう選択をした者、強いられた者の集まりだ。
強いられた者、というと大体30~40階層位の者か。単体で転生させて貰えるほどの善行は積んでないが、地獄に落ちる程悪行もしていない者。
隣で聖魔法の
「大変ですね〜。その作業は腰に来るでしょう」
「そうなのよ〜。でもこれもやりがいがあるのよねぇ」
なんて話をした。
洗った魂は、工場に行って新たな魂の材料になる。こね直すのだ。
低い階層に振り分けられたものは、所謂地獄行きとなる。
人に酷い危害を加えた人なんかがその対象だ。その人達に対して適切な罰を与えるのも、神や天使の仕事だった。
「
「ぐあああああっ!」
痛みの強さ、時間の長さを調節して、適切な罰を与えていく。あまり好きな仕事ではなかったが、天罰を下すのも被害を被った人への優しさだと思った。
そのようにして階層分けされた魂は、新たな道を辿るのだ。
「シュナ様、次の仕事です」
「わかった〜」
ガブリエルに呼ばれていく。彼女ら天使3人は、私の秘書のようなものだった。
「ちょっとここ見てっていい?」
「構いません。まだ時間はありますので」
ガブリエルはクールな秘書だ。
私が見たいと言ったのは、魂の製造工場であった。どのように新しい魂が作られているのか、気になる。
まず、既存の材料を使い回す方では、別の場所で浄化・洗浄した魂を使っていた。それをクラッシャーに入れて潰して混ぜ、成形して体の部位にしていく。
新しく魂を作る方では、何やら木からなる白い果実をもぎって、材料にしているらしかった。
成形されたものは、赤ちゃんの体の部位であった。真っ白な空間の中、赤ちゃんの頭だけとか、足だけがレールに乗っているのは異様な光景だった。
「ちょっとホラーだね」
「そうでしょうか。私は見慣れました」
「ここの仕事もやることあるの?」
「昔、下位天使だった頃にやっていました。今はやっていません」
どうやら魂の製造工場の仕事につくのは、下位天使や人が多いようだ。
続いてその部位をくっつけていく。ここは天使が手作業でやっているらしかった。白色の泥の様なもので継いでいく。
そこで、皆産まれる前の魂は白色なのだと知った。肉体を持ってから肌の色というのは決まるのだ。元がみんな一緒なら、肌の色で差別するのは殊更可笑しいことに感じられた。
そうして出来た赤ちゃんの魂は、水槽に入れて運ばれていた。羊水の中で眠るように、赤ちゃん達が浮いている。
追ってみると、それは雲の上に流されていくようだった。そのあたりで皆目が覚めて、母親を選んでその胎に入っていく。中には眠ったままで流産になる子や、雲の隙間から落ちて自分で選んでいない母親の子になる子もいるようだった。
赤ちゃんは雲の上でお日様にいっぱい当たってくるから、お日様の匂いがするのかもしれない。
とても勉強になった。魂はこのようにして循環しているらしい。
「そろそろ次の仕事に行きましょう」
「うん、付き合ってくれてありがとうね」
「いえ」
神としての仕事のうちに、迷える魂の導きというものがある。現世で、自力で成仏出来なかった魂を見つけ次第天界に送るのだ。
中には悪霊なんかもいて、戦闘になることもある。
発せられる穢れの弾を避け、真横から
「
「ギャアアアア!!」
白い弾が悪霊を襲う。浄化による沈静化も図れて一石二鳥である。
「攻撃してすみませんでした…」
「いいよ。じゃあ、天界行こうか」
また、未練がある者は相談に乗り、極力願いを叶えてやる。
「ふむ、家族と自分を殺した者が憎い、と。天罰を下しておきますね」
「あぁ、是非頼む…!」
無害な人を複数人殺したレベルの天罰となると、本人も死ぬだろうな。まぁここで天罰を下した分は、あの世での罰は減るのだから、良いだろう。
殺人犯は重い病に罹り、苦しんで死ぬ事が決まった。
「ありがとうございます…!」
未練が晴らされた者は、晴れ晴れとした表情で天界に行った。
「こんにちは。成仏出来ずお困りですか?」
「はい…なかなか成仏できなくて。未練もないんですけど」
こういう人は簡単だ。私の転移の神力で天界に送るだけでいいのだから。
「ありがとうございます!」
「いい天界ライフを〜」
笑顔で見送る。いい人そうだったし、大体70階層位なんじゃないかな。仕事をしてると、為人で大体の階層も予想出来るようになってくるのであった。
日替わりで分身と交代しながら、私は仕事をこなしていく。大変な仕事ではあったが、やりがいは確かに感じるのであった。
天界の暮らしは、中々に良いものである。大体好きなことをして暮らせるのだ。
天界で暮らしている人々は、少し書類を書けば、現世に戻ることもできる。その際は首にパスポートをぶら下げるので、現世で働いている天使達にとっても紛らわしくない。成仏できない幽霊では無いと分かるので。
私の分身は完全に天界の住人という訳では無いので、現世との行き来は自由だ。
だが、私の分身は天界にいる事が多かった。何故かというと、天界の方が文明が進んでいるからだ。他の世界との繋がりもあるので、この世界とは違った文明が流入する。パソコンやタクシーがあるのもそのお陰だった。
そして、天界では色々な世界の娯楽を楽しむことが出来る。ネットが普及している世界であれば、どの世界のものも見放題であった。前世の地球のものもあり、感心したものだ。
やりたい事は大概揃っているので、天界に居たくなるのも頷ける話だった。
天界での私はスマホをしたりショッピングモールを歩いたりしている。時々スポーツをして気分転換をしたりしていた。
天使3人が休暇の時には、一緒に娯楽施設を回ったりすることもあった。
「シュナ様、ジェットコースターに乗りましょう」
「ミカエルはジェットコースターが好きだね」
「あれの何が楽しいのか理解しかねますね。翼で飛ぶ時と大差ないじゃないですか」
「僕はメリーゴーランドの方が好きだなぁ」
「ゆったりしてて良いよね」
皆で遊園地を回ったのは良い思い出になった。その時撮った写真は、天界の自室に飾ってある。
好きなことを好きな時にやれる自由がそこにはあった。
だが、有名アーティストのライブなんかは現世に行かないと見れない。天界でライブを開いている人もいるが。
その為に申請して現世に戻る人も少ない無いのだとか。
天界の森には、天界特有の生き物や植物がある。翼の生えたマスコットみたいな小さな生き物とか、飼ってみたいなと思ったものだ。
「これは星キノコ、食べると瞳孔が星の形になるよぉ。そこの空を飛んでるのはツバサダケ。それで、あれはアマノウサギだよぉ」
「へぇ、物知りだね、ラファエルは」
森を歩いていると、ラファエル達3人がガイドをしてくれる。初めて見るものばかりで面白かった。
そのようにして、私の分身こと私は、天界を満喫しているのだった。
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