第15話 天使来襲

 ピンポーン。チャイムが来客を告げる。


「はーい」


 返事をしてドアを開ける。


 すると、そこには金髪金目の美少女がいた。背中の羽は薄く赤みがかっている。身長が低めで可愛い。思わず頭を撫でたくなる。


「天使です。お迎えに上がりました」

「あ?んだお前喧嘩売ってんのか。シュナ様は俺らのだ」


 たまたま一緒にいたオリエンスが凄む。


「は?貴方こそなんです?私は神たるシュナ様を然るべき場所にお迎えする為にこちらに来たのです。汚い悪魔は慎みなさい」

「お?言うじゃねぇか弱っちい天使がよ」


 こんなにキレてるオリエンス見たことがない。天使とは一体何なのか。


『天使と悪魔は長年戦い続けているのです。仲の悪い種族です』


 まぁ確かに仲が悪そうだ。


「まぁまぁ2人とも。」

「シュナ様、お迎えが遅くなり申し訳ありません。」

「いやお迎えはいいんだけど」

「何故?神は天界に居るのが常でしょう?天界はいい所ですよ。空気が綺麗で争いもない」

「それは素敵だけどさ…人間界が好きなんだよね、私は」

「そうですか…ですが一度天界に来てくれませんか?呼ぶように言われているのです」

「あぁ?シュナ様を連れてくたぁいい度胸してんじゃねぇか。戦争だコラ!」

「さっきから煩い羽虫ですね。叩き潰してあげましょう」

「お前も羽虫だろうがぁ…!」


 イラついたオリエンスが片手に火魔法を用意する。ちょっと、ここでそんなことされたら困る。


「ちょっとここでやらないでくれる?この家高いんだよ。オリエンスもいいからさ。皆に少し外すって伝えといて」

「…わかったよ」

「流石シュナ様。話が早い。では行きましょう」


 天使がそう言うと、薄く発光する黄色の門が目の前に現れた。天使の羽が上の部分についている。


「それじゃ、ちょっと行ってくるね」

「…あぁ、行ってらっしゃい。気を付けろよ」

「気を付けることなんて起きませんよ」

「はっ、どうだか」


 天使はふんっというドヤ顔をした。オリエンスもはんっと鼻を鳴らす。


 天に繋がるであろう階段を上る。白くて淡く発光していて綺麗だ。


「どうして今になって迎えに来たの?」

「この間、幽霊を成仏させたでしょう。その幽霊から話を聞いて、シュナ様の居場所が分かったのです。居場所が分かったのもありますし、存在を知ったのもあります。」

「あぁ、そうなんだ。」


 そう言えばそんなこともあった。肝試しの際付いてきてしまったお化けだ。


「にしても、白髪とは高位ですね。魂の白さが髪の色に出たのでしょうか」

「いや、自分で染めたよ。元は黒髪」

「きっとそれもお美しいのでしょうね」


 天使はそう言うと柔らかな微笑みを湛えた。


「う、うん。ありがとう」


 何を言っても褒めてくれる。可愛い。


「悪魔は嫌いなの?」

「悪魔は喧嘩っ早いので嫌いです。下劣ですし。」

「喧嘩っ早さでは負けてなかったよ、君も」

「それは直さないといけませんね。悪魔相手だとどうしてもカッとなりやすいんです」


 話していて、素直な子なんだなと思った。


 雑談をしながら階段を上った。疲れない体だから良いけど、まぁまぁな階数を上ったと思う。


「着きました。ここが天界の宮殿、遊空殿ゆうくうでんです。」


 そこにはコリント式の巨大な神殿があった。複雑な彫刻が施されていて華麗だ。


「わぁ、壮観だね」

「素敵でしょう。私達天界の上位者が誇る宮殿です。」

「上位者以外にもいるの?」

「生きてる間に良い行いをしたもののうち、上澄みの者が天界に住むことを許されます。因みにその中から天使が生まれることもあります」

「へぇ、そうなんだ」


 知らないことばかりである。天界のシステムはそうなっているのか。


 宮殿のうち、正面の奥にある大きな部屋に案内された。


「申し遅れました、私は熾天使、ミカエルです」


 だから羽が赤っぽかったのか。熾天使は羽が赤いのだ。


「私はシュナだよ。全知全能なの」

「全知全能ですか…!?凄いですね」

「えへへ」


 新鮮な反応である。

 

 重い両開き扉を開けると、奥にソファに座った性別不詳、年齢不詳のお兄さん?が居た。


「おぉ、来たかの」

「失礼します。こんにちは、シュナです。全知全能です」

「こんにちは。我はアン。天空の神。創造神であり、最高神であるぞよ」

「…!」


 凄い人と対面してるみたいだ。威厳があって緊張する。

 

「それで、本題に入ろう。シュナにはな、神として働いて欲しいのだ」

「は、働く…!?」


 今世に来てからまともに働いたことはない。賭博の不労所得で稼いできたのだ。そんな私に、働けと言うのか。


「嫌です。働きたくありません。本題がそれと言うなら、帰らせていただきます」

「簡単に返すと思うか?全知全能のシュナよ。そなたのような有力な者、我らが放っておく訳がないだろう」

「ううん…じゃあ、仕事内容というのは?」

「天界に来た人間の受付、処理、浄化、それから天界の政治。悪魔退治や現世で迷っている魂を天界に導くことも仕事だな」

「帰ります」


 悪魔家にいるし。私はそう言って踵を返した。

 すると、門の前にミカエルが武器を持って立ちはだかる。


「簡単には返さんと言っただろう。実力行使も厭わないぞ」

「私が勝ちますよ」

「どうだかな」


 ここで話をつけないと家まで追ってくるだろう。家の位置はバレている。戦うしかない。

 緊張が走る。私は亜空間から片手剣スパタを取り出し、ミカエルに向けた。


「本当は貴方様とは戦いたくありませんが…致し方ありません。剣を向けることをお許しください」

「仕方ないね。アンさんがあぁ言ってるから」


『天使には闇属性の攻撃が有効です』


 なるほど。分かった。

 私は地面を蹴り、ミカエルに斬りかかった。剣を横にして防ぐミカエル。


魔捕縛鎖デヴィルチェーン!」


 魔捕縛鎖デヴィルチェーンにて捕縛を試みる。複数の鎖がミカエルを捕らえようと向かう。が、剣で上手く弾かれてしまう。


星狂暴走クレイジースター!」


 ミカエルから小さな大量の星の攻撃が放たれる。それは衝撃波を伴い、星の角で体を切り刻む。


 とっさに防御魔法を張るが、星が刺さって割れてしまう。いくらか攻撃を受けて体に傷がついた。


「ああぁ、シュナ様の珠の肌に傷が…!」

「自分がやったのに!?」


 何故かミカエルも無傷では済んでないみたいだ。私はまだ何もしてない。


 何度も魔捕縛鎖デヴィルチェーンを伸ばし、捕縛しようとする。やっと鎖の1本が剣で弾かれるのを掻い潜り、ミカエルの腕に絡みついた。


「っ!」


 それを引っ張り、ミカエルの頭を思い切り殴る。力isパワーだ。拳が空を切り裂き、ブォンという音がする。


「はぁっ!」

「ぐぅっ!」


 よろけた隙に、魔捕縛鎖デヴィルチェーンでぐるぐる巻きにした。いっちょ上がりだ。


「うぅ…不甲斐ありません」

「そうか、負けたか。」


 アンさんは悲しそうに頷く。私は神力で体の傷を癒した。


「ふぅ。所でさ、給料ってどのくらいなの?」

「お主ならざっと年収1億くらいかの」


 え?思ったより稼げる。それなら働いてもいいかもしれない。安定した職も欲しいなと思っていたところだ。私は手のひらを返した。


「…へぇ。じゃあ、妥協案だけどさ。私の分身沢山出して、交代で働くっていうのは?」

「構わんぞ。順番が回ってきていない者は天界に住まわせてやろう」

「そう。分かった。いいよ。交代で働こう」

「安心せい、きちんと週休二日制じゃから」

「それは良かった」


 私は分身を10人出した。あくまでリーダーは本体の私だ。そしてミカエルの拘束も解いてあげた。


「お主の部下に、ミカエル、ガブリエル、ラファエルを回そう」

「好きに使っていい?」

「よいぞ」


 明らかに強い部下が出来た。嬉しい。

 

「お呼びでしょうか。アン様」


 いつの間にか、アンさんの近くに2人の天使がいた。


「おう。自己紹介をしてやれ」

「私はガブリエル。死者を甦らせることができます」

「僕はラファエル。どんな傷も癒すことが出来ます」


 ガブリエルは水色の髪にオレンジの瞳をした女性、ラファエルはグレーの髪と目をした男性だ。ガブリエルはクールで、ラファエルはタレ目で柔らかい印象を持った。


「私はシュナ。全知全能のスキルを持ってるよ。よろしくね」

「全知全能…!?出鱈目ですね」

「とても凄い方に使えることが出来るようだね。嬉しいな」


 ガブリエルは目を見開く。ラファエルは柔らかい笑みを浮かべた。


「して、シュナ。早速仕事を割り振ろうぞ」

「はい、なんでしょう」


 最初に仕事をするのは私である。リーダーとしてここは率先してやるべきだろう。


「この間また戦が起こっての。その死者がさばき切れていないんじゃ。」

「なるほど。わかりました」

「場所は私達が案内します」


 ミカエル達が案内してくれるみたいだ。


 暫く歩くと、かなり高くて広い建物にきた。その前は駐車場になっていて、ひっきりなしにそこからタクシーが出ては建物の中を上っていく。建物の前には沢山の受付のような所がある。そして、その前には先が見えないほど長蛇の列が並んでいた。


「シュナ様には、死者の魂の高潔さを審判していただきます。高潔な程行く階層は高くなり、待遇も良くなります。」

「具体的には、好きな来世を選べたり、天界に住めたりします。高潔な程天界にいれる期間が伸びます」


 ミカエルとガブリエルが説明してくれる。あの世ってそうなっているのか。


「あちらの受付の1つを請け負ってください」


 言われて行くと、そこにはパソコンとテレビのスクリーンが置いてあった。


「こちらのパソコンから、亡くなった方の生前の行いが分かります。こちらのスクリーンでそれを死者の方と一緒に見ながら、生前の行いを振り返っていただきます。そしてその魂の高潔さを測り、何階層が相応しいかを決めていただくのです」


 階層は100階層あるみたいだ。

 え、これ難しいぞ?人の行いなんて大概大して良くも悪くもないものだ。それの善し悪しを評価するって難しい。きっと50階層辺りが多くなるだろう。


「では、早速お願いしますね」

「う、うん」


 そうして私は、今世初めての仕事をこなし始めたのであった。

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