第14話 アリトン編

 夏である。夏といえば南国、そしてビーチ。今日はアリトンが南国のビーチでサーフィンの小さな大会がある。ので、それを応援しに行くのだ。


 いつもの如く転移門で南国に行く。今日来た国は、南国の島、ティチーノである。


「夏だー!!」


 ギラつく太陽。日を反射しキラめく海。熱い砂浜。ビバ夏である。

 今日は皆水着姿であった。応援もするが、泳ぐのも楽しみなのだ。

 私は千鳥格子柄のビキニを着た。パイモンは黒に水玉のビキニだ。


 オリエンスがビーチバレーに誘ってくれた。


「ビーチバレーしねぇか!魔法ありで!」

「いいよ〜!腕が鳴るね」

「負けるつもりは無いな」

「いいですね」


 皆ノリノリである。チームは、私、アスモデウス、アリトン対オリエンス、パイモン、アメイモンだ。


「いくよ〜、それっ」

「ふっ」


 サーブは私だ。それを受けたアメイモンのレシーブ&トス。続いてオリエンスのスパイク。剛力が乗って、強烈なスパイクとなる。


「おらぁっ!」

「はいっ」

「シュナ様!」

「任せて!強風ウィンドアタック!」


 しかしアリトンが難なくレシーブをし、アスモデウスがトスを上げてくれる。

 私は強風でスピードを増したアタックをする。


「きゃあっ!」


 正面から風を受けたパイモンが叫ぶ。レシーブできず、1点先制した。


「も〜、1点取られちゃったわ」

「まだまだここからだぜ。それっ」

「はいっ!アリトン!」


 サーブを受け、アリトンにボールを上げる。


ウォータースマッ、うわっ!」

地形テレイン操作マニピュレート


 スパイクを打とうとしたアリトンの足元が隆起する。バランスを崩したアリトンはボールを空振り、そのままボールは砂地についてしまった。


「ふむ」

「よしっ!一点取ったな!」

「ナイス、アメイモン〜!」


 アメイモンが頷く。1体1だ。


 続いてアスモデウスが出したサーブを、パイモンがスパイクした。


「とりゃー!」


 あわや1点取られるか…と思われたが。


「風よ起きろ!」


 私の風魔法によって、スパイクがライン外に行く。


「なにー!?今の、ずるいわ!」

「ふっふっふ、風魔法だよ」


 そんなこんなでビーチバレーを続け、結果は21対19で私のチームが勝ったのであった。


 やがてアリトンのサーフィンの大会が始まった。

 アリトンの番は初めの方だったので、すぐに番が回ってきた。


「楽しんできますね!」

「うん!頑張れ〜!」


 アリトンは余裕そうな表情だ。細かいことを気にしなそうな性格をしている。


 アリトンの演目は綺麗であった。波を操るかのようにサーフボードに乗っている。

 波を作る段階で水魔法を使うのはルールとしてはセーフである。なのでアリトンも水魔法を駆使して、ライディングをした。


 サーフィンは本来自然の波を相手にするスポーツで、高い評価を得るには良い波を選ぶ必要がある。その点アリトンは、自分で好きな波を作ることが出来るので有利であった。


 アリトンは最高難易度の技とされるチューブライディングを行った。大きな波のトンネルの中をライディングするのである。これが高得点の9.6点を叩きだし、他の技と合わせて17.0点を記録した。堂々の1位である。


 表彰台で金メダルを首にかけるアリトンは、輝いて見えた。爽やかな笑顔が見ていてこちらも笑顔になるのだ。


 アリトンの演目以外では、邪魔にならない所で泳いでいた。亜空間から浮き輪を取り出し、ぷかぷかと浮かんだ。

 一番良かったのは背泳ぎであった。別に呼吸はいらないのだが、人間だった時の名残で息継ぎがないのは楽なのだ。ゆったりとちゃぷちゃぷ背泳ぎをするのが一番心地良かった。

 ゆっくり流れる時間と景色。体を揺らす程よい波。心地よく揺蕩っていた。

 多分1時間くらい背泳ぎしていた。心地よすぎである。ほんと、ずーっと泳げそうだった。


 途中、イルカが近くにきた。尚私は動物と話せる。神なので。

 因みに神だから野生のイルカと戯れても問題がないが、人間は野生のイルカと戯れてはいけない。お遊びで怪我をさせられる可能性もあるのだ。

 イルカと戯れていると、どこから出したのかアスモデウスが一眼レフで写真を撮りだした。


「我が君、お美しいです…!動物と戯れる事で神々しさが増してます。アルバムが増えますね…」


 興奮しながらカシャカシャ写真を撮っている姿は異様であった。


 イルカの1匹がナマコをくれた。


「これ、プレゼント!あげるね」


 とイルカは言っている。


「あ、ありがとう〜!」


 処理に困ったのはいい思い出である。そのまま海に捨てるのは悪い。

 暫く遊んでから、お別れをした。


「またね〜」

「うん、またね!」


 別れを告げた。沖の方に泳いでいくイルカの群れは綺麗であった。海の中から跳んでは水の中に泳いでいくイルカの群れ。可愛くて癒された。


 少し森に行くと、南国らしいカラフルな鳥が変わった鳴き声で鳴いていた。


「アチチチチ!」

「あれなんて言う鳥かな、サタナ?」

暑千鳥あちちどりです』

「面白い鳥だね」


 大きい亀や、オランウータンっぽい動物も見かけた。動物園みたいだった。


 私が海に戻った時、男悪魔達4人は誰が1番早く岸に着けるかで競争をしていた。


「「「「うおおおおぉ!」」」」


 結果はアスモデウスが勝っていた。2着でオリエンス、3着にアメイモン、4着がアリトンであった。中々鬼気迫る表情で、そういえば彼らは悪魔だったなと再確認したのであった。


 パイモンは泳ぎ姿も艶やかであった。なんだか動きが滑らかで、踊っているみたいであった。が途中で飽きたのか、浮き輪でぷかぷか浮かんでいた。


 海の家で、やきそばとかき氷を買った。練乳味があったのでそれにした。さっぱり甘くて美味しい。泳いで疲れた体に染みるのであった。


 アリトンが、水魔法を使ったショーもしてくれた。水で出来た大きなクジラと、鰯の群れと、鮮やかな魚達を空中に泳がせるショー。どんな魔法を使ったのか、所々色も付いていて鮮やかであった。太陽に煌めいていて美しい。とにかく大きくて迫力もある。心が洗われた。

 周りにいた待機中のサーファー達も、演目中の人達そっちのけで見蕩れていた。


「わー、綺麗」

「ねぇ、綺麗ですわ…」

「ありがとうございます。嬉しいです」


 うっとりとした表情で水のショーをみる。かき氷が何倍にも美味しく感じられた。

 パイモンは嫣然とした笑みを浮かべている。アリトンの笑みは相変わらず爽やかであった。


『水魔法の中に、色水という魔法があります。それを使ったのでしょう。色毎に認識して操るので繊細な技術が必要になります。』


 なるほど。芸術的なスキルだ。高度な技術を要するようで、伊達に魔界で四天王やってた訳じゃないんだなと思った。


 因みにその話は日常会話で出たのである。4人は何か接点はあったの?と聞いたところ、魔界で四天王をしていたという返事が返ってきて驚いたものだ。私は強い部下を持ったなと思った。

 なんならアスモデウスは魔王だったと聞いた時は、ちょっと魔界に顔きくなら観光とかさせて欲しいなと思ったりもした。


 その話をアスモデウスにした所、


「いいですよ。魔王城くらいしか見る所ありませんけど」


 とのことだった。そのうち行くかもしれない。


 段々日が傾いてきた。空が赤くなって、夕日が卵の黄身みたいに見える。夕日を受けた雲が金色に輝いていた。

 空の反射した海もオレンジに染まって綺麗だ。


 海風を顔に受けながら、皆で夕日を眺める。儚くて、なんだか切ない気持ちになった。


 帰りに、クリームたっぷりのフルーツパンケーキを食べて行った。イチゴ、バナナ、マンゴー、ブルーベリーと豪勢である。

 私とパイモンと、オリエンス、アリトンはパンケーキを食べた。アスモデウスとアメイモンはロコモコを食べていた。

 屋外の席が空いていたので、そこに座る。ヤシの木の葉が擦れる音が聞こえ、海から吹く夜風が頬を撫でた。

 白い照明が、卓上の赤いハイビスカスを照らしていた。すっかり空も暗くなって、夜である。


「美味しい〜!」

「ん〜!美味しいわ!」

「美味いな!このパンケーキ!」

「クリームがたっぷりですけど、フルーツのお陰でサッパリしていいですね」

「ロコモコも美味しいです。ハンバーグが肉厚ジューシーで」

「…美味いな」


 夕飯も美味しく終えたのであった。


 その日は、海が見えるビーチサイドのホテルに泊まった。

 夜の海は真っ黒で、静かなさざなみの音が聞こえた。

 クーラーの効いた部屋で、ゆっくりと寝て1日を終えたのであった。

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