第13話 夏だ!ホラーだ!祟り神だ!
早いもので、こちらの世界にも夏がやってきた。夏のイベントといえば、やはりアレであろう。
「ねぇ、夏だしさ、山で肝試ししてみない?」
そう、肝試しである。いつもの通りアスモデウスに話しかける。
思うに、悪魔に肝試しの文化はないだろう。
「肝試し、ですか。普段は恐れられる側なので新鮮ですね」
「そうでしょ、そうでしょ!」
「
パイモンは怖いのが苦手らしい。悪魔にもそういうことあるのか。
「魔界ではどうしてたの?」
「皆チャームしたらメロメロですもの。怖くありませんでしたわ」
「なるほど」
たしかに、皆好意的にこちらに来るのが常だったら怖いものが苦手にもなるだろう。
「じゃあ私とパイモン脅かす役ね」
「我が君も脅かす側なのですか?」
「悪魔の皆に肝試しして欲しいもん。やっぱ経験者としてここは譲るよ」
「左様ですか」
「チーム分けはどうする?アスモデウスと、オリエンスと、アメイモンと、アリトンだよね」
「…オリエンス、行きますか?」
アスモデウスがオリエンスを誘う。いつの間に仲良くなったのだろう。
「いいぜ!じゃあアメイモンとアリトンだな」
「俺はものを怖がらないが」
アメイモンが少し心配そうに言う。いかにもアメイモン、って感じである。何事にも動じなそうでドッシリ構えてるイメージだ。
「僕はまぁ普通ですね。シュナ様とパイモンの手腕に期待です」
「お、言ったなー?絶対怖がらせてあげるから」
楽しみである。この2人の余裕をいかに崩せるか。見所だ。
「噂によるとね、この山にはお化けが出るんだって」
「へぇ、いるのかも知れませんね。おばけ。」
アリトンの反応はあっさりしていた。
夜、ルツェルンの北側にある山に来た。ルートは事前に決めておいた。
ジメッとしていて、薄暗い。肝試しにはピッタリである。
どこで脅かそうかな、なんて考えていると廃神社を見つけた。何か意思のあるもののいる気配がする。恐らく神だろう。
「こんばんわー」
こんな所に住んでいるのだろうか。心配になったので、声をかけてみた。障子を開けると、向こう側を向いて胡座をかいている長い黒髪の男がいた。雰囲気が暗い。恐らく堕天しているだろう。
「…そなたは?」
「私?シュナだよ。神なの。ここに住んでるのさぁ、寂しくない?」
「神の仲間か。…寂しいな。もう参拝客もいない」
堕天したまま忘れ去られるなんて可哀想だ。我が家にお招きしよう。
「私の家、来てもいいよ?」
「いい。構わん。そんなことせずとも…」
神がこちらに振り向いた。その目は黒く、ぎらりと光っていた。
「お前がこちら側に来れば良い!」
そう言うと、闇魔法のような黒いモヤをこちらに飛ばしてきた。
(何あれ?)
『穢れです。受けると堕天します』
堕天!?なにそれ気になる!!私は受けてみる事にした。
体には状態異常無効の神力をかけてあるが、同じ神の攻撃なら受けられるだろう。
穢れが体にぶつかり、体を包む。すると、手の先から肌が黒色になっていった。白目の色も黒くなっている。そして、背中から黒い羽根が生えた。
それから、人に意地悪したい、という欲求がムクムクと心の中に芽生えた。
いつもと違う体になる事に多少の恐怖は覚えたが、それ以上に面白さが勝った。
(これが、堕天!!面白い!!)
私の興奮は最高潮であった。
そんな私の心情など露知らず、祟り神が高笑いする。
「ははははは!」
私はそのまま調子に乗って、祟り神を虐めることにした。
祟り神の真横スレスレに、聖魔法を放つ。
ジュッ…と祟り神の頬が焼けた。
「…は?」
「鬼ごっこしよっか。私鬼ね。捕まったら
「は、はっ!?嫌だ、やめろ!!」
祟り神は慌てふためいて走り出す。が、地縛霊のようなもので遠くに行けないのだろう。ある程度行ったら立ち止まって、絶望的な表情でこちらを見た。
「いいの?そのままだと捕まるけど」
私は歩きながら
「い、嫌だ!だがこれ以上逃げられないんだ!!許してくれ!」
本当のホラーは私の方だった、というオチである。今日は脅かす側だ、そんなこともあるだろう。
「はい、タッチ!」
「や、嫌だ…!」
嫌がれば嫌がるほどこちらは満足である。私は手に浮かべた
「ぎゃああああああ!」
「、なんです今の声!」
「あっちから聞こえたぞ!」
アスモデウスとオリエンスは、近くを歩いていた。叫び声が聞こえた2人は、そちらに向かって走り出した。
少し遠くから、別行動していたアスモデウスとオリエンスが走ってくる。
「何をしているのですか、我が君!」
「シュナ様!」
「あ、2人とも〜」
私はひらひらと手を振る。未だに全身真っ黒である。
「あ、悪魔になられたのですか…?」
アスモデウスがちょっと嬉しそうである。
「そうなのかな?もう戻すけどね」
「そ、そんな…!」
「なんで残念そうなの…?」
よく分からないが、私は体を浄化した。いつもの白い肌に戻る。白目の色も白色に戻った。
祟り神はというと。地面に伏していた。
なんだか髪の毛が金色になっていて、雰囲気が綺麗になっていた。本来の神としての輝きを取り戻したのだろう。
「痛かったぞ…」
ちょっと恨めしそうにこちらを見ながら立ち上がった。
「だが感謝しよう。こうして本来の姿を取り戻せたのだから」
「それは良かった。私も楽しかったよ」
「それで、そちらに行くという話だが…」
「あ、良かったらこっちの空いてる土地に神社作る?」
「それは…良いのか?色々と」
「どうにかするよ」
土地は私が買って、アメイモンに神社を建ててもらおう。
実は部下の500人ほどいる悪魔のうちいくらかがこちらの世界に住んで働いているのだ。そのうちに大工をしている者もいる。彼らに任せたらあっという間に出来るだろう。
「迷惑をかけてすまなかったな」
「いいよ。堕天っていうのも楽しかったし」
そうして、ルツェルンに神社が建つこととなったのであった。
パイモン達はというと。
シュナに用意してもらった異形の被り物をしているパイモン。声もおどろおどろしい感じに変えてもらった。
アメイモンとアリトンが平素の感じで歩いていると、肩をトントン、と叩かれる。後ろを振り向くと、そこには異形が居た。
「う"お"ぉ…」
パイモンが低い声を上げて脅かす。
「うわっ」
「おぉ…仕上げてきたな」
ちょっと驚く2人。だが反応はシンプルであった。
「ちょっと〜…2人を驚かすなんて無理じゃないかしら?」
驚かし終えたパイモンは、カポッと頭の着ぐるみを外す。パイモンからは未だおどろおどろしい声が聞こえた。
「まぁ、僕達が怖がるのなんて、主様のピンチくらいでしょうね」
「左様。妖怪の類は恐ろしくない」
「そうよねぇ」
「ところで、声は戻せないのか?パイモンからその声が聞こえると違和感なのだが」
「全くですね」
「時間経過で戻るのよ〜」
3人はのほほんとしていた。肝試し中とは思えないリラックス具合である。
残りのルートは3人でお散歩して終わった。
6人+神は、ゴール地点で落ち合ったのであった。
あんな具合だったので、シュナからパイモン達3人が居なかった間の事を聞いた時は焦り、驚いたのだ。祟り神によって堕天させられたなど。そもそもシュナは神だったのかと。確かに出来ないことはないとは聞いていたが。
「そんな事があったんですか!?危なっかしすぎます。肝が冷えました」
「怖がらされたな」
「なんか思ってたのとは違うけど…怖がったなら良かった〜!」
アリトンもアメイモンも怖がったみたいである。肝試しの目的は果たせたのであった。無事普段通りに戻ったシュナも満足であった。
「それで、神社を作る、だったか。構わんぞ。部下達にも掛け合ってみよう」
「うむ、頼もう。我の家になる故」
神の住む神社の話もまとまり、一件落着なのであった。
後日、神社が出来てから、参拝に行った6人。神社は立派な仕上がりになっており、神々しさを感じさせた。
イベント事もない平日にも関わらず、神社には疎らに人がおり、ある程度栄えていることが感じられた。
お賽銭を投げ、お願い事をする。
(美味しいもの、いっぱい食べられますように)
神が本殿の中で微笑んだ気がした。
「よしっ!皆は何お願いしたの?」
「私はシュナ様ともっと一緒に居られますように、と」
「俺は立派な武器が作れますように、だ」
「
「我が主のお役に立てるように、と」
「僕も大体同じですね。主様の役に立ちたい、と願いました」
「わー、皆ありがとう!パイモンの願いも、きっとすぐ叶うよ」
私想いの部下達を持てて、私は幸せ者である。
「所で、いつ言おうか迷ってたのですけど…シュナ様の後ろにいる方は誰なんですの?」
「ん?シュナ様の後ろに人なんているか?あっちの参拝客のことか?」
「主様の後ろに人なんていませんよ…?」
「そうですよ、パイモン」
「え、やだ
後ろに人?と思い振り向くと、確かに人がいた。人というかお化けである。肝試しの時についてきちゃったのかな。なにせ後ろなので気が付かなかった。
「あぁ、お化けだね」
「キャーッ!!怖いですわ!!!」
「煩いぞパイモン」
「アメイモンは怖くないんですの!?あぁ怖くないんでしたわね…」
元気なことである。それはそうと、このお化けを成仏させてあげないといけない。実は私、神になってから天界の位置が分かるのである。私はそこにお化けを転送してあげることにした。
「はい、成仏」
そういいながら転移させる。すると、ありがとう、と確かに聞こえたのであった。
「パイモンは霊感あるんだね」
「
なんとなく思うのは、人を魅了していい気分にさせるパイモンの能力は、神の奉仕精神に通じるものがあるんじゃないだろうか。適当な推測である。
神社の様子も確認できたので、参拝を終えて家に帰ったのであった。
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