第12話 砂漠の国 バレ

 今日は砂漠の大国バレを観光する。都会的な国だ。

 折角なのでサーニャとケインも呼んだ。転移門で一瞬である。

 こうなると結構な大所帯になった。


「初めましてにゃ、サーニャだにゃ」

「ケインだ。よろしくな」

「物々しい悪魔だにゃ…」

「皆優しいよ」


 そう言って各々自己紹介を終える。


「下町に行ってみませんか?」

「いいね!行こうか」

「楽しみだな!」


 アスモデウスがニコニコと話しかけてくる。オリエンスも楽しみみたいだ。

 

 ということで歩いてスークに来た。スークとはバレの国で市場や商店街を意味する言葉である。


 初めはテキスタイル・スークに来た。布屋や仕立て屋が並ぶスークだ。


「これ可愛い!」


 見つけたのは安定に大好きな薄ピンクのアバヤ。アバヤとは砂漠地帯の人がよく着ている伝統的な婦人服だ。


「これオシャレだにゃ」


 サーニャが選んだのは鮮やかな水色のアバヤ。お花の柄だ。


わたくしこれがいいですわ」


 パイモンが選んだのはエメラルドグリーンのアバヤ。金色や白色の刺繍が施されていてお洒落だ。


 男性陣は白のカンドゥーラを買った。カンドゥーラとは石油王が着ていそうな伝統的な紳士服のことだ。皆それぞれ髪の色の刺繍が施されたものを買っていた。


 皆それぞれ着たまま買った。衣装チェンジだ。

 テキスタイル・スークはアバヤとカンドゥーラを買って後にした。


「シュナ様、デーツ食ってみねぇか?」

「いいですね、僕も食べてみたいです」

「いいね、買っていこうか」


 オリエンスとアリトンはデーツが気になるみたいだ。


 良いデーツを買っていこうかな、と思い神力を目に宿して美味しいデーツを探す。

 すると、ある事に気がついた。このデーツ…


「お兄さん、このデーツ、虫が入ってるよ」

「あぁ?ほんとかい?どれどれ…ほんとだ!悪いな嬢ちゃん、教えてもらっちゃってよ。これ持ってけ」


 そういうと、デーツを8つ貰った。太っ腹である。

 皆で1つずつ食べ歩きすることにした。


「ん、美味しい!黒糖みたいな味がする」

「ドライフルーツらしいねっとりした食感ですね。美味しいです」

「干し柿みてぇだな。美味い」

「…」


 アリトンとオリエンスも満足したみたいだ。アメイモンも頷いている。口にあったみたいで何よりだ。


 香水屋さんに寄った。スパイシーな匂い、甘い匂い、ウードの匂いやジャスミンの匂いなど色々な匂いのものがあった。

 バレの国では香水やオイルを重ね付けするのが主流らしい。

 私はローズの香りのオイルと、甘い匂いの香水を買って重ね付けしてみた。


「折角砂漠の国に来たにゃ、ウードの香りにするにゃ」


 サーニャはウードの香りにするみたいだ。

 ウードの香りはお香のような匂いだ。バレの国ではお香の匂いがする人が多い。


「僕はこの匂いが好きですね」


 アリトンは乳香の香りを選んでいた。ウッディでスパイシーな匂いと柑橘系のさっぱりした匂いのする香りだ。爽やかなアリトンに合ってるように感じる。


わたくしムスクの匂いが好きですわ」


 パイモンはムスクにするみたいだ。ムスクは甘くて優しい匂いがする。官能的で大人っぽい匂いでもあるので、パイモンにぴったりだろう。

 因みにムスクはウッディやフローラルの香水との相性が良いらしい。


 神力を目に宿しながら歩いていると、掘り出し物のトルコランプを見つけた。6色のトルコランプが螺旋状に吊らされている。白、黒、青、赤、緑、黄色である。私達の髪色と同じ。

 ちょっといいやつだ、10万エニーくらいの。


「おじさん、これいくら?」

「50,000エニーだ」


 買いだな。バレに来た記念だ。


「買います!」

「毎度あり!」


 亜空間に入れておいた。


 ふと、アスモデウスが言う。

「別行動をしませんか?プレゼントで買いたいものがあります」

「いいよぉ。」

「じゃあ3時間後にまたここに来よう」

「賛成にゃ」

「パイモン、行きませんか?」

「えっなん…あぁ、そういうことね。理解したわ。いいでしょう、いきましょう?」


 アスモデウスはパイモンと行くらしい。何を理解したのかちょっと気になる。


「じゃあ他の皆、行こうか」

「あ、俺達もシュナ様とは別行動がいい」

「えっ」


 えっ?嫌われた?


「シュナ様にお土産買いてえからよ」

「左様」

「そうですね。別行動で買った方がサプライズになりそうです」


 そういうことか。ビックリした。


「私はケインと行くにゃ。シュナも来るかにゃ?」

「うん、行く!」

「行くか」


 ということでサーニャとケインと3人で行動することにした。


 歩いてたら、早速ケインとサーニャと逸れた。人が多いのだ、この通り。

 神力で2人を探せばいいが、それより先にお店が目に付いてしまった。ちょっと良い感じのデーツのお店。さっき1つ食べたが、また別の趣向を凝らしたものが売ってるかもしれない。私はその店に吸い込まれた。


 2人があんなことになってるなんて、私は露も知らなかったのである。


 逸れたケインとサーニャは、裏通りの入口に来ていた。人の並に押されていたらこうなったのである。


 裏通りは華やかな表通りとは違ってスラムのようになってた。ガラの悪い者がいる。

 そいつらに、目をつけられてしまった。


「よぉそこのあんちゃんとお嬢ちゃん!お金もってるだろ。寄越せや」


 観光客は元々目をつけられやすいだろう。いかにもお金を持っているのだから。


「それは聞けないお願いだな」

「さっさとどっか行くにゃ」


 サーニャは女の子と言っても剣戟部隊にいる為、強い。呆れたように手をしっしっとしていた。


「あん?嬢ちゃん可愛い体してんじゃねぇか」


 男がサーニャに触れようとする。その手をケインが掴んだ。


「サーニャに触るんじゃない」


 どうやらそれが男の逆鱗に触れたみたいである。


「あぁ?優しくしてたら調子乗りやがって!痛い目見ねぇと分かんねぇようだな!」


 そういうと、右フックをしてきた。

 ケインがパシッと手で止める。そのまま相手の体の後ろを取り、腕を捻りあげた。


「いてててて!」


 そして一瞬手を離し、懐から警棒を取り出して男達の頭を思い切り殴った。

 ゴッ、ガッ、と鈍い音がする。男達は倒れた。

 あっという間であった。剣戟部隊小隊長の名は伊達じゃない。


「ありがとにゃ、ケイン」

「いい。別に助ける必要もなかっただろうがな」

「それでも嬉しかったにゃ。ありがとにゃ!」


 サーニャはぱあっと明るい笑顔を見せた。


「3時間後には元の場所に戻るんだ、もう探すのやめて店を見るか」

「それもいいにゃ。そこのデーツのお店見るにゃ」


 2人は偶然にもシュナがいるデーツのお店に入った。


「「あっ」」

「…シュナ居たにゃ」

「居たな」

「あっ2人とも〜!」


 無事3人は再会したのであった。



 アスモデウスとパイモンは、ゴールドスークに来ていた。ダイヤモンドやゴールドが沢山売っている商店街である。

 目的は、シュナへのプレゼントを買うことであった。女物ならパイモンがいると選びやすいだろう、ということでパイモンと来たのだ。


「でも正直どれ貰っても嬉しいわよ」

「そうはいいますが。日常使いしやすい、とかあるじゃありませんか」

「まぁ…あ、これとかどう?」

「素敵なネックレスですね。」

「うーん…でもちょっと派手すぎるわね。」

「なるほど。確かにそうかもしれません」


 2人は時間をかけて吟味していく。


「これ、素敵じゃありませんか?」

「あぁ、いいかもしれないわ。シンプルだから、日常使いしやすそうね」

「こっちも素敵です」


 やがて1つのネックレスと腕輪にたどり着いた。ネックレスはシンプルだが、腕輪は少し華やかだ。


「これにします」

「私が腕輪の方は買うわ。…」

「…」


 2人は不思議な間を持って、見つめ合う。


「やはりここは…」

「値引き交渉の勝負よね」

「乗りました」


 悪魔は賭け事も勝負事も好きなのだ。

 早速パイモンが店主に話しかける。


「ねぇおじちゃん、これもっと安くならない?2万エニーくらい♡」

「ぶっ。大きく出ましたね」

「構わんよ、お嬢ちゃんみたいな可愛い子には安くしねぇとな」

「えっ?これ負け試合じゃないですか?」

「頑張れ♡頑張れ♡」

「嬢ちゃん可愛いな!2万5千エニー安くしてやるよ!」

「これは負けましたね」


 結果はやはりパイモンの勝利であった。アスモデウスも1万エニーほど値負けしていただき、安く買ったのであった。もっとも、別に安くしなくてもいいくらいにお金は持っているのだが。あくまで遊びである。


 ということで、アスモデウスはネックレス、パイモンは腕輪をシュナに買ったのであった。


 3時間後、元の場所に戻ってきた。

 私からは皆にチョコをディップしたデーツのお土産を買った。なんでも王族も御用達にする程美味しいらしい。ルーカスもきっと食べたことがあるのだろう。

 因みにデーツはビタミンやミネラル、食物繊維が豊富な健康食品である。また食べたいものであった。


 サーニャからはVIVELAの焼き菓子、ケインからはラクダミルクを使用したチョコレートが皆に渡された。


「俺からはこれ」


 オリエンスからはお洒落なお皿を貰った。きちんと8人分買ってきたらしい。


「ありがとう!所でオリエンス、剣買ったの?」

「おう!カッコよかったからな」

「へぇ、いいね」


 オリエンスの腰には、3時間前は無かったシャムシールという剣があった。曲がっている細身の片刃刀だ。

 オリエンスのはしゃぐ様子が目に浮かぶようであった。きっと、「これカッコイイじゃねーか!買う!!幾らだ!?」と豪快に勢いで買ったのだろう。


「僕からはストールを」


 アリトンは皆にストールを買ってきてくれたみたいだ。繊細な色とりどりの柄が可愛い。


「我が主、これを」


 アメイモンは鮮やかなピンク色のサンダルを買ってくれた。他の皆にもサンダルを買ったみたいであった。


 皆の荷物は家に転送して、手の空いた状態にした。


 最後はクルーズ船に乗った。

 夕日で海が煌めいていた。海風が髪を靡かせていた。全身で受ける潮風が心地良い。


 海側からバレの国を見ることが出来る。ホテルやショッピングモール、寺院が目立って見えた。昨日泊まった城も見える。遠くから見ると近くで見るより国全体が良く見えて壮観だ。


 その後、五つ星ホテルにチェックインした。アラビアンな内装のホテルだ。紫色のカーテンとか、the熱砂の国、って感じで良い。クリーム色の壁に白い天井、アラベスク模様の青いクッションが置いてあった。


 その日も広いベッドで寝た。ふかふかな布団が身体を受け止める。

 ぐっすり眠った。


 そして次の日には大満足でルツェルンに帰ったのであった。

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