第11話 古代迷宮(アーティファクト)にて②

 元の道に戻り、部屋を進む。

 少し開けた所に行くと、そこには魔物のウィッチが宙に浮いていた。


サンダーウィッチです』


 なるほど、雷属性か。


「キュアアアッ!」


 ウィッチが奇声を発しながら、杖を振って雷魔法を沢山出す。防御魔法を張っておく。

 皆は動いて避けていた。


電気砲弾エレキテルショット!」


 ジェイデンさんも雷魔法を出して相殺した。


 続けて幾つもの雷魔法を打つ。が、それもまたウィッチに相殺されてしまう。


「埒が明かないな…」


 ジェイデンがボヤく。悔しそうに表情が歪んでいる。ちょっとイライラしてそうだ。


「俺に任せろ。泥之手マッドハンド


 アメイモンが呪文を唱えると、泥から出来た手がウィッチを締め上げた。


 私も何かしよう。


氷砲弾アイスキャノン!」


 お馴染みの4m四方の氷魔法である。なんだかんだこれが使いやすい。


「ウ"ゥ…」


 氷砲弾アイスキャノンがウィッチに当たり、苦しそうに唸った。


泥砲弾マッドショット!」


 アメイモンが同時に魔法を展開し、泥砲弾マッドショットをウィッチに当てた。


「ギィャァァ!!」


 ウィッチが叫び声を上げ、地面に落ちる。


「やったか…?」

「ドロップアイテム回収するな」


 ジェイデンがウィッチに近付く。宝物とか、ドロップアイテムとか好きなんだろう。動きが早い。


 不意に、ウィッチがピクリ、と動いたように見えた。


「!!危ないっ!!」


 モモナがジェイデンを抱えて横に避ける。ジェイデンがいた所に、不意打ちの雷魔法が炸裂した。

 続けてモモナが地面を這うウィッチにかかと落としをし、頭を叩き割る。


「はぁっ!」


 バキッ、と音がする。

 今度こそ倒しただろう。


「あ、ありがとう。助かった」

「いい。いつも助けて貰っているだろ。お互い様だ」


 友情、いや、姉妹愛という感じであった。


「今度こそドロップアイテムを回収するぞ」


 そう言いながら、ジェイデンは魔晶石と杖を回収した。


 扉を開け、次の部屋に行く。

 そこには青空があった。トロッコで結構降りたのに。周りの壁は崖のようになっていて、高い高低差がある。開けていて、岩場地帯になっていた。


 そして、お目当ての巨大ロボットが鎮座していた。奈良の大仏くらい大きい。こういうの、オリエンスが好きそうだ。


「お、あったね」

「あれだな」


 近付くと、ロボットの目に光が入った。そして、右手に付いた刃先のギザギザした回転カッターが回り出した。左手は筒状になっている。何が出てくるのだろう。ちょっとワクワクした。決してふざけては無い。ないったらない。

 私とは違い、ルーカス達の表情は真剣そのものである。そりゃそうかもしれない。命を狙ってきた相手なのだから。


 ロボットが動き、こちらに向かってカッターを向けてくる。横薙ぎだ。

 皆素早い動きで後ろに避けた。


電気砲弾エレキテルショット!」


 ジェイデンさんが雷魔法を放つ。ロボットがちょっと怯んだ。


「はぁーっ!」


 その隙にモモナさんがロボットの腕を駆けて登り、頭に蹴りをいれた。


 しかしロボットは倒れない。左手の筒をこちらに向け、そこから火炎放射がなされた。


 延長線上には、腕から降りてきたモモナがいる。なんとか避けていた。が、少し当たったようだ。


「あついっ!」


 そしてすかさずそこに、右手のカッターが向かう。モモナが危ない。


 そこにルーカスが行き、剣でカッターを上手く弾いた。ルーカスは少し震えている。が、


「我は第3王子ぞ…!これくらいでは怯まん!!」


 そういいながら自分を鼓舞し、ロボットの右足関節に向かって突きの攻撃をした。剣が刺さる。


「私も行こう!」


 そこに立ち上がったモモナが蹴りを入れた。剣は右足を貫通し、ロボットの斜め後ろに落ちた。

 

 右足を失ったロボットが仰向けに倒れる。

 倒れたロボットは左手を構え、こちらに火炎放射をしようとする。


「私も助太刀しましょう」


 するとアスモデウスが左手の方に駆けていき、蹴りで左手を破壊した。力が強い。


泥之手マッドハンド


 アメイモンが泥之手マッドハンドでロボットの右手を拘束した。


「うおおお!」


 ルーカスが剣を取りに行き、倒れているロボットの心臓部に剣を突き刺した。


 するとロボットは光を失い、動きを停止した。


「やった…!」

「ナイスだルーカス!」


 モモナが駆けつけ、心臓部の装甲を剥がす。すると中から、白髪のおじいさんが出てきた。既に亡くなっている。


 ロボットの心臓部に居たのは、第3王子の執事をしていた男であった。第3王子を誰よりも近く見てきたその人だ。


「じいや、なぜ…」

「っ…ルーカスの執事じゃないか…」


 モモナも絶句している。


「じいやは…ロボットの騒動がある少し前に行方不明になっていたのだ」

「そうだったんだ」


 なんとも痛ましい話である。何者かに利用されたのだろうか。


「聞いてみようか?」

「は…?もう死んでるだろう?」

「生き返らせられるよ」


 何言ってんだこいつ、って顔でこっちを見てくる。


「シュナ様が出来ると言っているのです。信じないのですか?」


 アスモデウスが凄む。


「や、いや信じない訳では無いぞ!?」

「だ、だができるのか。そんなこと」


 慌てて否定するルーカス。ジェイデンは不信気味だ。ここはやって見せるのが早いであろう。


「やってみせるよ」


 私は仰々しく両手を広げ、


「命よ、吹き返せ」


 そう唱えた。空中から光の粒が集まって、執事の傷を癒す。

 そして。執事はゆっくりと息をし始めた。


「う…ん…?」

「ほ、ほんとに生き返った…!」

「まるで神の力だ。真逆、お前は神なのか?…なんてな」


 モモナは目を見開いて執事を見る。ジェイデンは鋭いことを言う。


「神かもね。崇めてもいいよ」

「我としては崇めたい所だぞ。シュナの神。」


 自分から言ったが、ちょっと恥ずかしかった。


 執事は起きて、瞬いた。


「坊ちゃま…なぜここに?」

「じいやこそ…なぜ、なぜこんなことをしておるのだ!!」


 ルーカスが怒鳴った。

 執事は辺りを見渡す。状況が飲み込めないようだった。


「なんじゃ、これは…訳が分からん」

「本当に記憶にないの?」


 私も聞いてみる。自白効果を乗せた。


「な、ない。少し前に頭を殴られて、倒れてから記憶にないのじゃ」

「じいやが居なくなったのは1週間ほど前だ」

「1週間も…!?何も覚えてないですじゃ」


 ふむ。黒幕は別にいるらしい。


「調査、手伝おうか」

「いいのか…?うちの国の問題だぞ」

「いいよ。気になるし。ちょっと部下呼ぶね」


 内部調査ならパイモンが上手そうだ。テレパシーでパイモンと繋ぐ。


(もしもしパイモン?シュナだけど、今いいかな)

(構いませんわよ。どうかしましたの?)

(ちょっと調査をお願いしたくて。かくかくしかじかで…)

(なるほど。分かりましたわ。転移門を出してくださるかしら?)

(わかった!)


 転移門を出して、パイモンを呼んだ。


「調査は私の部下のパイモンも手伝ってくれるから、ルーカスの城まで案内してくれる?」

「構わんぞ。どうやるのだ?」

わたくし魅了之声チャームボイスで相手を魅了して、聞き込みを行うんですの」

「勿論私も手伝うよ。」

「そなたはどうやるのだ?」

「私は、ロボットを第3王子達に仕掛けた犯人について知ってることを言え、っていうだけで吐いてくれるから」

「そなたもその悪魔も、恐ろしい力を持っているのだな…」


 ちょっと自白効果を乗せればちょちょいのちょいである。


 ということでルーカスが城に招いてくれた。迷宮からは少し歩くくらいの距離であった。

 ロボットを倒すのを手伝ったお礼という事になっている。


 城はアラビアンな感じであった。丸い屋根が可愛い。

 道を行く白衣を来た男が、少し嫌そうに第3王子を見ながら歩いているのを見つけた。


 コソッとパイモンに話しかける。


「パイモン、あの男」

「分かってますわ」


 流石パイモン。話が早い。


 パイモンは男に近付くと、少し前屈みになって、髪を耳にかけながら上目遣いをした。


魅了之声チャームボイス。ちょっとそこの貴方、お話聞かせ下さる?」

「は、はい喜んで!」


 パイモンの声が、ちょっとうわんうわんして聞こえた。

 所で谷間が見えてるんじゃないだろうか、アレ。男は真っ赤になって、ピシッと立ち直した。


「第3王子達を襲った、ロボットについて何か知ってることは無いかしら」

「はい!第4王子の母君、王の妾の方から、第4王子以外を殺すために、と依頼されて作りました!」

「なるほど、ありがとう」

「いえ!!」


 パイモンは男に投げキスをした。男は鼻血を出してフラフラしながらどこかに行ってしまった。

 魅了、ちょっとかけられてみたい所あるな。


「シュナ様、情報が得られました」

「うん、ありがとう。聞いてたよ。」

「第4王子…コナーの母上か」


 モモナが言う。コナーと言うのか。

 あの男、依頼された側としては第3王子はめの上のたんこぶの様なものだっただろう。


「ありがとう。黒幕は掴めた。」

「どうせなら自白までさせるよ」

「そこまでしてもらっては悪いが…助かる」

「うん。第4王子の母君は、どこにいるの?」

「ついてくるがいい」


 衛兵を連れて、少し離れた豪華な部屋に来た。

 衛兵がドアをノックする。中から美人さんが出てきた。

 ズイ、と前に出る。

 威圧+自白効果を乗せて話し出す。


「こんにちは、第4王子のお母様。第3王子達にロボットをけしかけたのは、貴方ですか?」


 あくまで私の話し方は、優しくゆっくりだった。


「ヒッ…は、はい間違いありません…!すみませんでした…!」

「…だってさ。自白、終わったよ」

「は、もう…?いや見てたから分かるが…早かったな」

「後は任せたよ。あ、そうだ、迷宮の財宝、どこに置いたらいい?」


 第3王子にコソッと聞く。


「あ、あぁ、それなら我の宝物庫に置くがよい。案内しよう。お前達!彼女を牢に入れろ!」

「はっ!」


 衛兵の統率の取れていることであった。

 こうしてロボット暴走事件は解決し、幕を閉じたのであった。


 ジェイデンはと言うと。

「ルーカス。私の分もあるだろうな?」

「勿論山分けだ。」

「だよな」

 財宝の心配をしていた。


「それじゃ、私達も帰ろっか」

「そうだ、折角来たのだから我らの国に滞在したらよいぞ」

「あ、確かにそうだね!観光してくよ」

「うむ。それがよい。今夜は我が城に泊まるがよい」

「ありがとう。部下もう2人呼んでいいかな?」

「構わんぞ。我が城は広いからな。」


 ルーカスは太っ腹であった。

 テレパシーで確認をとってから、2人を転移門で迎える。


 そうしてその夜はバレの城に泊まったのであった。

 ちょっと洞窟っぽいお風呂は広いし、布団もフカフカ。全部アラビアンなのがオシャレで良かった。

 料理は砂漠の国らしい、ケバブやフムス、ファラフェルが出た。いつもと違う味わいで美味しい。

 ちなみにケバブは肉や野菜をパンで挟んだもの。フムスは茹でたひよこ豆をペースト状にした料理。ファラフェルは潰したひよこ豆やそら豆に香辛料を加えて、丸めて揚げたもの。日本でいうコロッケのような料理らしい。

 どれも美味しかった。


 その日の楽しい冒険と美味しい食事も相まって、大満足で寝たのであった。

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