第9話 オリエンス編

 青髪の悪魔、オリエンスは鍛冶師である。自慢の青い火魔法で、炉の火を調節するのだ。


 悪魔は基本的に武器を持たない。なぜなら争いばかりしていてそういう文化が育たないからだ。人間界に召喚された者の中には、武器を持つ者もいるが。なので、攻撃は基本的に魔法頼りである。

 つまり、持ちたくないわけじゃないのだ。持てるなら持ってもいい。

 オリエンスは武器に対するロマンが強い方であった。召喚された際に見た敵味方の剣や、人間界で暮らし始めてからのウィンドウショッピングで見た、ガラス越しの武器の輝きが忘れられない。

 オリエンスも人間界に召喚されたことがあるので、その際には武器も報酬に貰った。大剣である。

 なのでオリエンスは剣が扱える。


 人間界にきてからは、鍛冶師の師匠、狼の獣人ガウルの元で修行を積んでいる。複数人いる弟子の中の1人である。筋がいいそうで、早くも商品になるような武器を打っているそうだ。

 ガウルはルツェルン屈指の鍛冶師だ。高級で質の良い武器をいくつも作っている。


 シュナは今日は、オリエンスが刀を作るところを見に行く。あまり人数がいると邪魔になるので、私とアスモデウスだけである。

 暑い事が予想されたので、ラフな格好で来た。

 ということで工房に来た。既に炉に火が入っているらしく、とても室温が高くなっている。ハーディログがいくつも置いてあった。


 オリエンスが刀を作るところを見る。

 1日で終わる訳では無いので、数日に分けて見に行った。


〜〜〜〜

 まずは炭を切るところからの様だ。木炭を同じ大きさに切る。

 次に玉鋼の選別。炭素量が多く硬い鉄は皮鉄かわがね用、炭素量が少なく柔らかい鉄は心鉄しんがね用に選別する。この見分けが難しいらしい。

 次は折り返し鍛錬。高温に熱した玉鋼を打っては折り返し、不純物を取り除く。この際、オリエンスは火魔法で温度を調節する。その温度の見極めには修行が要る。

 オリエンスは汗だくになっていた。

 次に皮鉄と心鉄の鍛接だ。外側が硬いことでよく切れるようになり、真ん中が柔らかいことで折れにくくなる。

 素延べという作業に移る。熱した鉄を棒状に延ばす。そして小槌で叩き、刀の形にしていく。

 土置きをする。刀の波紋の模様に土を置き、焼くのだ。そうすると波紋の模様が出来る。焼く際は温度を色で正確に見極める為に、暗闇で行う。

 頃合を見て急冷するのだが、その瞬間の見極めがプロの技なのだ。

 そしてヤスリがけを行って刀は完成だ。

〜〜〜〜


「おぉ…綺麗な刀だね。流石オリエンス」

「おっす、シュナ様!ありがとうございます!」

「まだまだだがな。温度の見極めが甘いわい。じゃが腕を上げたな。前回よりはいい」


 ガウルの評価は手厳しい。まだまだ成長の余地があるようだ。


「ねぇ、オリエンスが作った刀と、私の剣で斬り合いしない?」


 私の剣とは、この世界に来た初日に作った、青い刀身の剣である。サファイアが持ち手に埋め込まれていてカッコイイ。


「いいぜ!」

「じゃあ庭でやるといい。広いぞ」

「えぇ、来る時に見させていただきました」


 ガウルに私が答える。


 庭に出た。オリエンスは作り立ての刀を構える。


「私がレフェリーを務めさせていただきます。」


 レフェリーはアスモデウスだ。剣を向け合い、開始の合図を待つ。私はいつもの通り身体強化魔法とサタナのサポートを受けている。そうでないと話にならないのだ。なんたって前世も今世も剣を振るった経験がない。


「それでは…始め!」


 掛け声がかかった瞬間、直ぐに私は切りかかりに行く。


「はああぁっ!」


 が、キィンという甲高い音を上げて、簡単に防がれてしまう。


「おらぁっ!」


 お返しと言わんばかりに切り返されるが、私も剣で防いだ。また甲高い音が出る。

 しかしオリエンス、力が強い!!今の1回でも剣を手放しそうになってしまった。

 続けて切りかかられる。今度は横に避けた。

 そうして斬り合いを続ける。


 暫く斬り合い、防ぎあっていた。

 決定打は、オリエンスの斬りつけであった。芯の通った真っ直ぐな斬りつけ。それにオリエンスの強力が合わさって、力強い一線となったのだ。

 その斬りつけは私の剣を折り、私の首元まで届いた。


「そこまで!オリエンスの勝利です」

「よっしゃああぁ!」

「わぁ負けちゃった…オリエンス強かったよー。」

「シュナ様も強かったぜ!」

「うむ、中々良い技であったぞ」

「ありがとうございます」


 褒めて貰えて嬉しい。初めてにしては上出来だったんじゃないだろうか。サポートありきではあったが。


 その後は、ガウルさんとそのお弟子さんが出している店を見に行った。


「剣折れちゃったし、新しい剣買おうかな」

「儂の作った武器は、どれも一級品だ。好きなのを買うといい」


 見てみると、中には魔剣や魔槍もあった。炎が出るもの、雷が発生するもの。シンプルに切断力が強くなるもの。色々な魔法の効果が付与されていた。


 使いやすいのは、無難に片手剣スパタであろうか。ガードの部分にカルトゥーシュ模様が彫られていて美しい。

 細身剣レイピアもいいかもしれない。軽くて細いから使いやすそうだ。柄の部分が派手になっていてお洒落だ。

 槍も魅力的だ。柄の部分に蛇が巻きついたような装飾が施されている。柄と穂の間に宝石が嵌め込まれていて綺麗だ。


 どれも素敵で迷ったが、最終的に選んだのは片手剣スパタであった。先に持っていた剣も片手剣スパタだったので、多少勝手が分かる。1番使いやすそうだ。

 それから、予備として細身剣レイピアも買った。お洒落で持ってみたいなと思ったので。


「これにするよ」

「おう。400万エニーな。」

「カードで」

「洒落てんな」

(カードが…?)

「スマートですよね」

「あぁ」


 そうなのかもしれないと思った。


 テッテレー。新しい片手剣スパタ細身剣レイピアを手に入れた。鞘もセットである。


「カッコイイな!」

「素敵ですね」

「うん、ありがとう!」

「なぁ、試し斬りするために迷宮行かねぇか?」

「迷宮?いいよ」

ハードアルマジロの甲羅が欲しいんだ」

「なるほど」


 迷宮はルツェルンの西にある、アレット森の中にある。因みにアレット森はルツェルンの東以外を囲む森だ。魔物が出るので、自然の要塞のようになっている。

 ハードアルマジロは迷宮の1~10階層の森ゾーンに出る。アレット森も魔物が出るが、ハードアルマジロはいない。なので迷宮に行く必要があるのだ。


「じゃあ、行こっか」

「おう!」

「はい!」

「またな」


 ガウルさんと別れて、迷宮へ向かった。

 今日はラフな格好で来て良かった。これなら迷宮にも行ける。


 特に何事もなく迷宮についた。入口は洞窟のようになっている。

 が、少し中に入ったらそこは神秘的な森の姿をしている。カラフルな蝶が舞い、キラキラと鱗粉を散らす。屋内なのに光る鉱石のお陰で明るかった。紫色の、見るからに毒っぽいキノコも生えてて面白い。


『あのキノコはコウキノコ。生では毒ですが、精製によって風邪薬になります。』


 へー。毒と薬は表裏一体、みたいな話か。


ハードアルマジロは5階層の岩場に多く生息してんだぜ。だからそこを目指そう」

「分かった。途中の戦闘は、私に任せて!剣試したいし、練習もしたいから」

「分かりました。手出し無用ということですね」


 勿論サタナのサポートありである。それでも練習になるのだ。

 歩いていると、熊のような魔物が蜂の巣を落としていた。

 そこから始まる戦闘。熊の爪が蜂を切り裂き、蜂の針が熊を突き刺す。


「おぉー、大迫力だね」

「あれは軍隊蜂アーミーワスプ蜜熊ハニーベアーだな。よく争ってるらしい」

「詳しいですね。召喚された際に迷宮に来られたのですか?」

「いや、ガウル師匠と素材取りに来たことがあんだ」

「通りで。私も図鑑を買って読むことにします。シュナ様の力になりたいので」

「わ、ありがとう!」


 勤勉なことである。それに私のためとは嬉しいことを言ってくれる。

 激戦の上に勝ったのは軍隊蜂アーミーワスプであった。大量の毒に侵された、熊の巨体がズシンと倒れる。


「ねぇ、あの蜂なんかこっち来てない?」

「ほんとですね」


 どうやら蜜熊ハニーベアーに怒った軍隊蜂アーミーワスプが興奮してこちらに来たようだ。


「私がやるね」

「頼んだぜ」

「お願いします」


 2人は少し離れて見ててくれるようだ。


 剣の練習の為に、魔法は使わず蜂を捌く。ガウルの剣は優秀で、軍隊蜂アーミーワスプの硬い装甲も難なく切れる。スパスパ切れるので快感であった。


「おぉー、凄いよこれ。よく切れる」

「カッコイイですシュナ様!」

「えへへー」


 しかし大量の軍隊蜂アーミーワスプを捌ききれず、攻撃を受けてしまった。


「あっマズイ。痛っ」

「シュナ様!」

「大丈夫ですか!!」


 少し遠くで見守ってくれていた2人が駆けつけてくれる。


黒銃弾ブラックガン!」

蒼火炎獄ヘル・フレイム!」


 アスモデウスが闇魔法で、オリエンスが火魔法で蜂を倒してくれる。

 私は蜂に刺されて穴の空いた服を見ていた。

 軍隊蜂アーミーワスプには熊を殺す程の強力な毒がある。あわや大怪我かと思われたが…


「もー…服に穴が空いちゃった」

「え…それだけか?毒とか大丈夫なのか?」

「そうですよ、シュナ様は人間でしょう?」

「私、毒効かないんだよね」


 2人ともびっくりした顔をしている。巣の方に残っている軍隊蜂アーミーワスプもなんだか居場所が無さそうな様子をしている。

 なぜ効かないのかというと、体に状態異常無効の神力をかけてあるからだ。それから温度変化も無効になるし、血液や酸素もいらない。

 私は人間の形をした神なのである。


「毒が効かない?特殊体質ですか?」

「まぁそんな感じ。だから大丈夫だよ。服もほら、魔法で元通り」

「そういえば、出来ないことは特にないと仰ってましたもんね」

「そうだっけ?」


 そんなこと言ったような言ってないような。


 倒した蜂達から魔晶石が出てきた。


「迷宮の魔物は倒すと魔晶石が勝手に出てくるんだね?」

「そうだな」


 私は魔晶石と軍隊蜂アーミーワスプの死骸を拾ってポイポイ亜空間に突っ込んでいく。


「空間魔法ですか?」

「ん?うん、そうそう。はい、こっちはアスモデウスの分ね」

「ありがとうございます」


 空間魔法か。収納魔法は、そういう分類になるのだろう。

 取り敢えず大きな問題はなく軍隊蜂アーミーワスプを倒せた。


 その後は無事5階層に着いた。

 岩場でハードアルマジロが屯している。こちらに気付いた1匹が、丸くなってこちらに突進してきた。

 オリエンスが大剣を盾にしてそれを受ける。突進が重そうだった。


「ぐっ…おらあぁ!」


 オリエンスは大剣からハードアルマジロを弾き、近くの岩にぶつける。慌てて装甲から出てきたハードアルマジロを、大剣で切った。


 見事な手腕である。あっという間にハードアルマジロを1匹倒した。

 倒したハードアルマジロから魔晶石が表面に出てくる。オリエンスはそれを取り、さらにハードアルマジロの装甲を剥いだ。


「これで用事は終わったな」

「お疲れ様!上手かったね」

「では、戻りましょうか」

「転移魔法使っていい?」

「構いませんよ」


 転移の門を作って、冒険者ギルドに繋げた。対象が通った後は基本的には自動的に消えるようになっている。事故防止の為である。


 冒険者ギルドで魔晶石を換金した。それから、軍隊蜂アーミーワスプの死骸も換金してもらった。


「これだけの量、よく倒しましたね。」


 ギルドのお姉さんが感心したように言う。


「これだけ倒せば、Dランクに昇格できます。カードの印字を新しくしますね」

 ということで銅色のカードに、Dランクの文字が踊った。

 テッテレー。Dランク昇格。


「おめでとうございます、我が君」

「おめでとな」

「ありがとう」


 ランク上げも楽しそうだ。また今度迷宮に潜ってもいいかもしれないと思った。


(ねぇサタナ、ルツェルン西の迷宮以外にも迷宮ってあるの?)

『あります。南にある砂漠地帯には、古代の技術によって作られた迷宮があります。近くにはバレという国があります』


 なにそれ面白そう。今度行くか。

 次の予定も決まった事だし、一旦家に帰ろう。


「帰ろっか」

「あぁ」

「えぇ、お疲れ様でした」


 転移門を作って、家に繋げる。潜れば我が家であった。


「ただいまー!」

「おかえりなさい!晩御飯作りましたわよ。ドリアですの」

「「おかえりなさいませ」」


 パイモンとアメイモンとアリトンが温かく出迎えてくれる。

 人の待っている家とはこうもいいものなのだ。これだけで幸せである。


 皆と夕食を食べ、温かくて広いお風呂に入って、程よい疲れの中広いベッドで眠る。こんなに幸せなことはない。これが日常だというのだから神様も優しいものである。私だけどね。


 そうして今日1日は終えたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る