第7話  枕を作りに行こう!パイモン編

 あれから5人の悪魔達は、各々仕事に就いてお金を稼いでいる。私より偉いかもしれない。いや、そんな事もないかも。

 私だって稼いでるし。…競艇で。やっぱり駄目かもしれない。


 アスモデウスは私の秘書兼執事として、身の回りのお世話をしてくれている。家事をしてくれたり、おやつを作ってくれたり。今日も美味しい紅茶を淹れてくれた。

 豪快な男悪魔のオリエンスは、鍛冶師。高火力の青い火魔法で鉄を温めるのだ。

 色気のある女悪魔のパイモンは、歌手だ。音魔法を使って歌声をより魅力的にし、魅了の効果を乗せて聞かせている。駆け出しだがどんどん人気が出ていて、早くも今度単独ライブを行う。

 寡黙な力強い男悪魔のアメイモンは、大工。地魔法を用いて地形操作も軽々とこなすのだとか。

 爽やかな男悪魔のアリトンは、プロサーファーの仕事をしている。水魔法で大きな波を作って練習することもあるようだ。


 就職の際には、私のサタナが手伝った。必要な知識を与えて勉強させたり、コツを教えたり、面接の文言を考えたり。テレパシーの神力を用いて各々に対応させたのだ。

 就職の際だけではない。働き始めてからも、分からない事があったらサタナに聞いたり、サタナが5人にアドバイスしたりしているそうだ。お陰で5人はそれぞれメキメキと力を伸ばしている。


 そんな悪魔達だが、パイモンは最近悩みがあると言う。


「最近、寝つきが悪いんですの…。本番が近付いて緊張感してるのかしら」


 との事だった。パイモン不眠事件。これは一大事である。部下の体調管理は上司の役目でもあるし、何より寝不足のせいで本番調子が出なかったら大変だ。


「そうなんだ。じゃあさ、皆で枕作りに行かない?お金は払うよ!」

「いいのですかシュナ様。わたくしの為に」

「いいのいいの。部下の体調不良は見過ごせないからさ」


 という事で、私を含む6人で枕屋に来た。

 バクの店員さんが迎えてくれる。バクと言えば夢を食べる生き物として有名だが、眠り関連で枕屋の店員をしているのだろうか。


「いらっしゃいませ。本日はどのような枕をご所望ですか?」

「特に決まっていないんですけど」

「でしたら、こちらの機械で体に合う枕の高さを測定するといいですよ」


 そんなものがあるのか。便利だな。

 その機械は、立っているだけで本人の体に合う枕の高さが分かるという優れものであった。


「パイモン、やってみなよ」

「えぇ。では、お言葉に甘えて」


 パイモンが立つと、30秒程で結果が出る。その結果に合わせて枕が作られるようであった。

 その後も、アスモデウス、オリエンス、アメイモン、アリトンと順に測定をした。


「次に、枕に入れる、お好みの硬さの素材をお選びください。店員がオススメの素材を選ぶことも出来ますが、どうなさいますか?」

「俺は自分で選びてぇな」

「そうだね、自分で選ぶのが楽しそう」

「…己で選ぼう」

「僕たちも選びましょう」

「えぇ」

「わぁ、いっぱいありますわ!」


 上から、オリエンス、私、アメイモン、アリトン、アスモデウス、パイモンである。

 素材は自分達で選ぶことにした。アリトンに誘われて素材を見に行く。


 枕の中に入れる素材は、固い順に、蕎麦殻、薄ピンク色のコルマビーズ、オレンジ色のシンセビーズ柿渋、黒色の備長炭エアセル、銅色の銅パイプ、水色のエラストマーパイプ、薄黄色のパフタッチ、白色のつぶ綿、となっているようだ。


「私は…ちょっと柔らかめが好きだからエラストマーパイプっていうのにしようかな…いや銅パイプも捨て難い…」

「私はシュナ様と同じものにします」


 アスモデウスは私と同じものにするらしい。私の事好きなのだろうか。


わたくしも柔らかめが好きですわ。でも柔らかすぎても肩がこりそうだし…パフタッチにしようかしら」


 パイモンは柔らかめが好きなようだ。確かにパイモンの体って柔らかそう。固いのだと却って痛めそうだ。


「俺は固めが好きだな。コルマビーズにする」


 オリエンスは固めが好きらしい。私としてはイメージ通りである。


「…蕎麦殻」


 アメイモンは蕎麦殻にするようだ。流石、渋くてカッコイイ。


「僕は少し固めの備長炭エアセルが良いですね」


 アリトンは少し固めが好きなんだな。ふむ。なるほど、アスモデウスと私以外、見事に好みが別れた。

 私はと言うと、やっぱりエラストマーパイプと銅パイプで迷う。


「ねぇパイモン、これどっちがいいと思う?エラストマーパイプと銅パイプ。私めっちゃ柔らかい枕で首痛めたことあるんだけど」

「それなら、ちょっと固めの方がシュナ様のお身体には合うんじゃないかしら。銅パイプがいいと思いますわ」

「そうだね、そうするよ」

「なんで私に聞いてくれないんですか?」


 アスモデウスが嫉妬で愚痴る。


「えっ、パイモン横にいたからさ」

「私は斜め後ろで密着していました」

「そっか…次はアスモデウスにも聞くね。覚えてたら」

「はい」


 という事で、一悶着あったが枕に入れる素材が決まった。


「では、枕を作りますので、少々お待ちください。宜しければ枕カバーもお選びください」

「おぉ、枕カバーも沢山あるな」


 オリエンスも喜んでいる。


「ね!凄い種類」

「…ふむ。これにしよう」


 アメイモンは渋いチャコールグレーの枕カバーが気に入ったみたいだ。


「私はこれにしましょう」


 アスモデウスは黒色の無地の枕カバーを選んだ。クールである。


わたくしはこれがいいですわ!」


 パイモンが選んだのは黒のレース柄のものだ。上品で色気のあるパイモンらしい選択である。


「僕はこれがいいですね」


 アリトンは白地に黄色や黄緑の草模様が編まれたものを選んだ。爽やかで素敵だ。


「俺はこれだな」


 オリエンスが選んだのはロイヤルブルーの枕だ。髪の青色と合っている。


 私はというと、ピンク色の端にフリルが付いているものにした。


 暫く待つと、枕が出来たみたいだった。


「こちらが作らせていただいた枕になります」

「できたー!!」

「やったな!」

「ありがとうございます♡シュナ様」


 パイモンから、ぱあっと効果音がつきそうな笑顔で感謝を告げられる。


「いえいえ」


 パイモンの可愛らしい笑顔が見れてこちらも満足であった。

 パイモンの枕に、こっそり安眠のおまじないをかけておく。きっと快眠出来るだろう。



 後日。パイモンが嬉しそうに話しかけてきた。

「私、この新しい枕で寝てから、本番に成功する夢を見るんですの。きっと本番も上手く行きますわ」

「うん!良かったね。きっと上手くいくよ」


 それは良かった。良い枕を買った甲斐が有るというものだ。

 かくして、パイモン不眠事件は幕を閉じたのであった。



 そして数日後。私達は小さな音楽ホールに、パイモンの歌のステージを聞きに来ていた。パイモン単独のライブである。パイモンが関係者席を取っておいてくれたのだ。


 軽くお洒落をして会場に向かった。パイモンの髪の赤色をイメージして、肩にリボンの付いた赤い半袖ニットと白いチュールスカートを着ていった。


 会場が暗くなって、ステージが始まる。ドキドキとこちらも緊張してきた。

 1曲目にパイモンが歌うのは、この世界ではメジャーな曲だ。メジャーだからこそ歌い手の実力がハッキリと出る。

 黒い薔薇を模したドレスを着たパイモンが、照明に照らされる。そして、遂に歌い始めた。


「〜〜♪」


 歌い始めた瞬間、彼女の歌声によって、空気が塗り替えられる様な錯覚がした。

 パイモンの歌はそれはもう綺麗だった。透き通るような滑らかな歌声で、聞いててうっとりしてしまうのだ。声がよく伸びていて、ホール中に響き渡った。音程も一切のズレがなく、理想的な音程をピタリと出していた。


 周りを見れば、会場中の者が惚けた表情でパイモンの歌声に聞き入っている。音魔法で歌声の魅力が増しているのもあるだろうが、やはりパイモンの歌声の良さは実力だろう。沢山練習したことが伺えた。


 1曲目が終わり、沢山の拍手が起こる。そして、すぐに2曲目が始まった。

 2曲目は黒薔薇をテーマとした、美しくも棘のある妖しい雰囲気の曲であった。

 思わず息を飲んでしまう色気である。


 3曲目はロックであった。透き通る歌声だが、案外ロックにも合う。激しいのに上品で、綺麗だ。デスボイスは迫力があって、鳥肌が立った。


 4曲目は切ない曲であった。パイモンの声も所々涙声になっていて、涙腺にくる。それだけじゃない、なんだか心の底から悲しい気持ちが湧き上がってくるのだ。


『音魔法のスキル、感覚共有がなされています。スキル所持者が発した音を聞いた者に、感情等指定の感覚を共有するスキルです。』


 なるほど。道理で、と泣きながら思う。この悲しい気持ちはパイモンのものなのだろう。なんて没入派の歌手だろうか。こんなに感情移入しながら歌えるなんて、凄いことだ。


 その後も色々な曲調の曲が歌われて、飽きることなく最後まで聞くことが出来た。

 楽しい時間はあっという間である。それでもパイモンは全20曲を歌い終えた。


「ありがとうございました」


 パイモンがお辞儀をする。会場は割れんばかりの拍手に包まれ、スタンディングオベーションも起こる。私も立って拍手をした。

 ライブは大成功で終わったのである。


 所で、物品もあるらしい。私はパイモンのシンボルマークである赤薔薇と黒薔薇が用いられたキーホルダーを買った。他の4人も、何かしらのグッズを買ったみたいだ。

 また、1枚1000エニーで一緒に写真を撮ることも出来るようであった。

 記念に撮っていくことにする。黒薔薇のドレスを着たパイモンとの写真はここでしか撮れない。


「はい、チーズ!」


 カシャリ。

 印刷された写真に、パイモンが赤いペンでサインをしてくれる。可愛いしとても嬉しかった。宝物になった。自室に飾ろうと思う。


 そうして大満足でライブを終え、私達は家に帰ったのであった。


 夜遅くなってから、私服姿になったパイモンが帰ってきた。


「どうでした?わたくしの歌声。十分に仕上げてきたつもりですが…」

「本っ当に良かったよ!私泣いちゃったもん」

「とても綺麗な歌声でした」

「めっちゃ良かったぜ!ロックのオリジナル曲も良い曲だったな!」

「左様」

「良かったですよ」


 上から私、アスモデウス、オリエンス、アメイモン、アリトンである。


「…!良かったですわ。頑張りましたもの」


 安心したように、そして胸を張ってパイモンは言う。

 パイモンも安心して、その日はぐっすり眠れたのであった。

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