第6話 vs悪魔

 魔法部隊としての初めての仕事は、悪魔退治であった。黒魔術で召喚されたであろう悪魔が、近くの村を幾つか滅ぼしてしまったらしい。

 ここルツェルンも危ない、という事で隊が編成されたのであった。

 悪魔退治は少数精鋭。弱いものが多くても乗っ取られる可能性があり危険なのだ。

 という事で、魔法部隊から私とモスさんが出ることになった。

 真逆の2人組である。部隊とは。

 しかも…


「あ、儂はサポートに徹するから。メインはお前が戦うのじゃよ」

「えぇ…」


との事だった。嘘だろ。


「後続を成長させるのも師の役目ゆえにな。なに、心配せんでも良い。お主ほどの強さなら悪魔程度ちょちょいのちょいじゃ」

「そうですかね…悪魔と戦うのは初めてなんですけど」

「まぁ大丈夫じゃ」


 そんなこんなで、悪魔が出たという村に来た。

 荒れている。木は折れているし、家々にも穴が空いている。


 村の中央の公園に、悪魔はいた。

 執事の様な格好をしている。悪魔もお洒落をするのか。長い黒髪を後ろに纏めているようだ。中々精悍な顔立ちをしている。


「な、あれは上位悪魔じゃないか!てっきり中位悪魔の退治かと…!」

「どれくらい強さが違うんですか?」

「中位悪魔100体で上位悪魔1体に敵うかどうかというくらいじゃ…これは強いぞ」


『下位から中位悪魔は服を着ませんが、上位悪魔以上になると服を着るようになります』


 なるほど。


『悪魔には聖魔法が特に効きます。聖魔法と念じて魔法を打てば、聖魔法が発動されます』


 ということなので、聖魔法で戦うことにする。


「む…お客人ですか」


 悪魔に気付かれた。


「お迎えして差し上げましょう。地獄にね!黒銃弾ブラックガン!!」


 悪魔はそういうや否や、黒い魔法をこちらに向かって放ってきた。

 が、それは私が張った防御魔法に弾かれる。


(あれは何?)

『闇魔法です。当たると衝撃波と痛みが生じます』


 悪魔が放った闇魔法の影から殴りかかってきた。


(身体強化魔法!それからサタナ、サポートをお願い!)

『承知いたしました』


 身体強化魔法とサタナのサポートを受けて対応する。死角から闇魔法が放たれるのを、神力のサーチで感知しては避ける。

 殴り合いの応酬が続く。

 モスさんも補助として火魔法を悪魔に向かって放ってくれている。

 

 私が悪魔の腹を殴って吹っ飛ばした所で一呼吸置いた。


「ふむ…なかなかやるようですね。ならこれはどうでしょう!」


 悪魔がそう言うと、先程の闇魔法が尖ったような魔法が複数こちらに向かってくる。


ガッ!


 それは防御魔法に突き刺さって止まった。中々強い攻撃のようだ。


「今度はこちらの番ね」


 私はそう言いながら、特大の聖魔法を宙に浮かべる。


聖浄化弾ホーリー・バレット!」


「なっ、なんですかその大きさは…!」

「凄い大きさじゃな…!」


 モスさんも悪魔も目を見開いて聖魔法を見る。

 そしてそれを、高速で悪魔に向かって放った。


破壊滅弾デストロイバレット!!」


 悪魔もそれを迎撃しようと魔法を放つが、威力が足りず相殺しきれない。


 逃げようとした悪魔の背中に聖魔法がぶつかる。


「ぐあああぁっ!」


 放った聖魔法は悪魔には特効のようだ。


 解けた聖魔法の中から、ボロボロの悪魔が出てくる。


「お見逸れいりました。攻撃も通りませんし、これ程の聖魔法の使い手には、勝てる気がしません。降伏します」

「よ、よかった…!」

「つきましては、是非配下に加えていただきたいのですが」

「えっ配下!?」


 なんで配下!?


「別にいいけど…」

「ありがとうございます!素晴らしき魔法をお使いになる、貴方様の配下になれて幸せです」


 な、なんだか大袈裟な悪魔だな。


 だが、悪魔が仲間に加わった!テッテレー!


「所で、名前はあるの?」

「ありません」


 それじゃあ不便だな。私がつけてあげよう。悪魔と言えば、あの名前だろう。


「それじゃあ、君は今日からアスモデウスね!」

「承知いたしました」

「こんな強力な部下が出来るなんて嬉しい!私はシュナ!宜しくね!」


 シュナは花がほころぶような笑顔を向けた。アスモデウスは心臓がキュッとする感覚がした。


「うっ…なんですか今のは、聖魔法ですか?」

「使ってないよ?」


 何はともあれ、悪魔退治は無事に終わり、有力な部下も手に入れることが出来たのであった。


「そうでした、私の部下も連れてきて構いませんでしょうか?」

「部下?」

「魔界で従えた者です」

「え、いいの?それって私の事上司として認めてくれる?」

「大丈夫でしょう。ご存知かもしれませんが、悪魔は上司が強い程部下も強くなります。部下になると持つことの出来るスキル"従属者"による効果です。」

『また、悪魔や天使は配下の数が多いほど力が強くなります。配下を持つと持つことの出来るスキル"支配者"が働き、部下の数や強さに応じて自分の力が強くなります。必然的に上司の方が強くなるので、上を敬う傾向が強いです。』


 なにそれ知らん。今知った。


「シュナ様程の強さであれば、部下になる者にも大きく還元されるはずです。現に今も私の強さ、魔力量が上がったのを感じます。高位悪魔まで届いたのではないでしょうか。」


(高位悪魔?)

『悪魔の階級は、弱い方から下位、中位、上位、高位、超位の5つです。』


 なるほどね。アスモデウスは上位から高位に進化したのか。


「よって、彼らもシュナ様を認めると思います」

「それなら良かった。部下の悪魔さんの事は任せるよ」

「お任せ下さい」

「何人いるの?」

「有力な者は4体、その下に数百人ほど」

「数百人は多いな…」

「数百人の方は、シュナ様に対面した後は魔界に返しましょう。」

「そうだね。そうしよう」

「呼びましょうか?」

「うん、呼んできて」

「儂、帰っていい?」


 はっ、モスさんの事忘れていた。


「はい、大丈夫です。ありがとうございました」

「なに、何もしとらんよ。それじゃあな」


 モスさんは先に帰ったのだった。


「シュナ様、呼んできました」


 振り返ると、4人の悪魔がら先頭に、その後ろに500人程の悪魔が恭しく跪いていた。


「「「「よろしくお願いいたします」」」」

「うん、私はシュナ。宜しくね!4人には名前はあるの?」

「ありませんわ」


 代表して赤髪の悪魔が答える。


「じゃあ付けよう。」


 そうして青髪の悪魔にはオリエンス、赤髪の女悪魔にはパイモン、緑髪の悪魔にはアメイモン、黄色髪の悪魔にはアリトンと名付けた。それぞれ東西南北を司る四大悪魔の名前である。


「「「「ありがとうございます!!」」」」

「オリエンスは火魔法、パイモンは音魔法、アメイモンは地魔法、アリトンは水魔法が得意です。他の者は闇魔法が使えます」

「音魔法?」

「音による魅了や、超音波による攻撃が主な武器ですわ」


 パイモンが教えてくれた。パイモンは魅力的な色気のある女性という感じである。


「そっか。私は魔法生成のお陰で出来ないことは特にないけど、氷魔法と聖魔法を攻撃ではよく使うかな」

「はっはっはっは!出来ないことがねぇってのがスゲェし、聖魔法の使い手とは!お見逸れ入るぜ」

「流石ですね、主様。配下となった際の魔力量の増加の具合でその強さは分かりましたが」

 オリエンスとアリトンが褒めてくれた。オリエンスは豪快な男の様だ。アリトンは爽やかだ。アメイモンは寡黙そうである。


 にしても、心強い仲間を得ることが出来たと思う。これからはこの5人と協力していこう。軍隊として戦う必要が出来た際は、5人の配下だという数百人の悪魔にも協力してもらうことにしようと思う。


「所で、私と一緒に住む?必要なら魔法で増築するけど」

「いいのですか我が君!!…はっすみません、感極まって我が君と」


 アスモデウスが謝る。


「いいよいいよ、我が君でも、シュナでも」

「では、どちらかで呼ばせていただきます」

「うん」

「俺は一緒に住みてぇな!手伝わせてくれや、何かと」

「私も賛成ですわ」

「うむ」

「僕も構いません」


 オリエンス、パイモン、アメイモン、アリトンの順に賛成してくれる。


(じゃあサタナ、私の家の中、増築して5人分の部屋と大浴場とか作っといて。出来たら好みも反映してあげて)

『承知いたしました。直ちに。』


 サタナに家の増築を頼んだ。


「じゃあ、私達の家に帰ろっか!そっちの悪魔達も帰っていいよ」

「「「はっ!!」」」


 500人程の悪魔には魔界に帰っていただいた。


 私は自宅に繋がる転移の門を作り、扉を開く。


「これを潜ったら家の前に着くから」

「流石我が主…」

 アメイモンが言う。


 そうして私達は、私達の家に帰ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る