第5話 軍隊に入ろう!
今日は、ケインとサーニャが私の家に遊びに来ていた。2人とも休日らしい格好だ。
2人は仕事がない日は結構な頻度で遊びに来ている。成城丸井の美味しいおやつも出るからだろうか。
一緒にテレビを見ながら寛いでいた所、ケインが軍の話を話題に上げた。
「シュナは、軍の魔法部隊に入る気はないか?」
「魔法部隊?入れるの?」
「あぁ、今人手不足なんだと。良かったら見学でも来てくれ」
「いいよ、なんなら今でも」
「いいのか?じゃあ暇だし行くか」
「行くかにゃ?」
「あぁ」
ということで軍部を見学に行くことにした。話しながら城に向かって歩いていく。
「遊撃隊とかないかな」
「あるぞ。人数は少ないがな」
「あるんだ!?いいな、そこがいい」
「シュナの魔法の腕なら入れるにゃ」
ルツェルンの城に着いた。壮大なお城だ。某テーマパークのお城に似ている。
門番に話しかけられる。
「ケイン殿、サーニャ殿、今日はお休みでは?」
「あぁ、この子の魔法部隊の見学に来たんだ」
「そうでしたか!どうぞお入りください」
軽々と入れてもらえる。きっと見学は監査のハードルが低いのだろう。それと、2人の信用であろう。
少し歩くと、魔法を練習して的に向かって打ってる人達がいた。ここが魔法部隊だろう。
ケインが、なんだか強そうな出で立ちの、ブーツを履いた黒猫の獣人に話しかける。
「ちょっといいか」
「どうしたんだ?なんだ、ケインか。そちらのお嬢さんは?」
「シュナです。魔法部隊の遊撃隊に入りたいと思って、見学に来ました」
「おぉ!それは大歓迎だ。是非見ていってくれ。申し遅れたな。私はヒカリ。剣戟部隊の隊長をしている」
通りで強そうな訳だ。油断ならない雰囲気を醸し出している。対面してみると、金色の目がキラリと強い光を放っている。
「ちなみに俺も剣戟部隊なんだ」
「ケインも?」
「私もにゃ。因みにケインは小隊長なのにゃ」
「そうなんだ!」
ケインも強そうだもんな。
「今日は魔法部隊隊長のモスが体調不良でいなくてな。代わりに隊員の魔法を見ていたところだ」
「モスさんはハリネズミの獣人だ。もうお歳だから、新しい隊長を探しているところだ」
「そうなんだねぇ」
見ていると、氷魔法や火魔法、風魔法を的に向かって打っている。
「お前もやるか?シュナ」
ヒカリさんに誘われる。
「いいんですか!是非」
魔法には(神力のお陰で)自信があるので、勿論引き受けた。
「あの的に向かって打ってみろ。なんでもいいぞ」
「じゃあ得意の氷魔法で」
特に得意不得意はないが、得意ということしておく。
そしてその場で的に向かって手をかざし…
4m四方程の巨大な氷塊を、高速で的に向かって打った。
バキャッ!
的は切ない音を立てて崩壊する。
「…は?」
ヒカリさんが呆けた顔をした。ヒカリさんだけじゃない、その場で魔法の練習をしていた人全員が呆けた顔でこちらを見ている。
「え…どうかしましたか?」
「え…?え、いやいやいや!強すぎるだろアンタ、あの大きさの氷をあの速さで打つなんて隊長レベルじゃないか!?いや、隊長よりも強いんじゃないか…!?もっとできるかい!?」
「同時にいくつでも出来ますよ」
「ほわ…?」
ヒカリさんが魂が抜けたような表情になってしまった。
「シュナ、そんなに強かったのか…」
「びっくりだにゃあ…」
2人も驚いたようにこちらを見ている。
「やって見せましょうか」
「お、おう!!やってみてくれ」
ヒカリさんにそう言われたので、ここにある的全部に向かって、先程と同じような氷塊を高速でぶつけた。
バキャッ!メキャッ!
おぉ…と声が上がる。
ヒカリさんはハッとしたようにこちらに向き直った。
「こりゃあ凄い…逸材を連れて来てくれたな!ケイン、サーニャ」
「それは良かった」
「因みに修復魔法も出来ます、的直しましょうか?」
「あ、あぁ?、おう、頼むよ」
ヒカリさんは状況が飲み込めなさそうな顔をしていた。
構わず修復魔法で的を直していく。初めより少し綺麗に仕上がった。
「凄いな…」
「凄いにゃ」
「これはモス隊長には嬉しい報告が出来そうだな」
そうなのか。
「なんと?」
「ん?そりゃあ…
新しい隊長候補が見つかったってな!」
「え、ええぇ!?」
「シュナが隊長に!?それは凄いな!」
「きっとすぐなれるにゃ!」
「嬉しい…!ありがとうございます」
なんと、隊長に推薦して貰えることになった。
「後日、モス隊長に試験をして貰う。携帯持ってるか?」
「あ、持ってます」
携帯はこの間買っておいた。この世界にはなんと携帯がある。テレビもあるくらいだから、不思議なことでは無い。
「連絡先はこれだ。隊長が来れる日に連絡を入れる。確認しておけよ」
「分かりました。ありがとうございます」
連絡先を交換して、その日の見学は終わった。
後日、ヒカリ隊長から連絡が来た。本日モス隊長が来れるそうだ。因みに今日はケインとサーニャは仕事だ。
城まで来た。場所はこの間と同じ練習場。
「こんにちは」
「おぉ、来たか。儂は魔法部隊隊長のモスじゃ」
「本日は試験、よろしくお願いします」
「宜しく。試験内容は…」
ゴクリ。
「─────儂と戦って勝つことじゃ」
(っええぇ!?そんな事して大丈夫なのお爺さん!?)
「えぇ!?お身体は大丈夫なのですか」
「だぁいじょうぶ、大丈夫。儂は強いよ。勝てるかな?」
「───勝ってみせますよ」
神力を持っていながら負ける訳にはいかない。私はこの人をコテンパンにする覚悟を決めた。
「ふぉっふぉっふぉ!威勢のいいことじゃな!」
(これは…心強い隊長になりそうじゃ)
モス隊長は密かにシュナの将来を嘱望した。
「それじゃあ、始めるがいいかの?」
「えぇ、よろしくお願いします」
「それじゃあ───────
────────始めっ!!」
とりあえず小手先で氷魔法を放ってみた。この間と同じ、4m四方の氷塊だ。高速で放つ…が、
「甘い!」
動きが異常に早いモスさんに避けられてしまう。
(サタナ、何あれ!?)
『身体強化魔法です』
そのままモスさんは私に殴りかかってきた。咄嗟に防御魔法を張る。
バキ、と音がして防御魔法にヒビが入った。
(ちょ、モスさん強すぎる…!)
「ほう、防御魔法も使えるか」
「生成しまし、たっ!」
言い訳である。実際は神力しか用いていない。応えながら私も身体強化魔法を使って殴り掛かる。
しかしパシッと手で止められた。左足からキックが繰り出される。飛び退いて避けた。
このお爺さん、強い。一筋縄じゃいかない。
広範囲の魔法で逃げ道を塞ぐべきか。いや、そもそも氷で逃げ道を塞げばいい。
思い立つが早いか、私はモスさんの周りに高い氷の壁を生成した。
「なにっ!?」
「これで…終わりです!!」
そして正面にいるモスさん目がけて氷魔法をぶつけた。モスさんが火魔法を放ち、それを相殺しようとする。
しかし勢いを殺しきれない。
そして、制止の声がかかった。
「…そこまでじゃ」
氷の中から防御魔法を張りながらも、ボロボロなモスさんが出てくる。相殺しきれず、防御が間に合わなかったか。
「よくぞ儂に勝ってみせた。お前は今日から魔法部隊隊長じゃ。」
「や、やっ…た…!!」
へなへなと力が抜ける。試験に合格したのだ。嬉しい。
モスさんはと言うと、
「儂は副隊長としてお前をサポートしよう」
ということらしい。良かった。軍の仕事は初めてなので勝手が分からないだろうと思っていたのだ。
「よろしくお願いします」
「なぁに、こちらこそ」
どちらともなく手を差し出して、握手をした。
そうして、今日からルツェルン軍の魔法部隊隊長となったのであった。
「そうだ、遊撃隊があるって聞いたんですけど」
「あるがなぁ、シュナの腕なら主部隊も向いてると思うのじゃよ。主部隊で働いてから、それでも遊撃隊に行きたかったら遊撃隊に行くといい」
「そうなんですね。じゃあ主部隊で働くことにします」
暫くは主部隊で働くことになりそうだった。
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