第3話 音楽祭
「当たり〜!」
今日も今日とて賭博をしている。今日は競艇に来ていた。跳ねる水が爽やかだ。
未来予測を行って1着を見る。
(次は…2番のボートが1着かな)
会場は熱狂に包まれていた。そんな空気に飲まれて、当たりが確実の私も思わず手に汗握りしめてボートを見つめてしまうのだった。
因みに貯金は今や20億エニーを超えている。夢のような話だった。
この間宝くじも買った。今度、10億エニーが入ることが確実になった。
サーニャに宿を貸してもらうお礼にご飯は私が作ることになっているので、当たったお金を使って帰りに材料を買って帰った。サーニャへのお土産に色々なお菓子も買った。マタタビも買ってみた。
「ただいま〜」
「おかえりにゃ」
「マタタビ買ったんだけど、どうかな」
「欲しいにゃ!!!ありがとうにゃ〜」
シュバッ!とこっちにきてマタタビを手に持つ。マタタビは合ったみたいで良かった。
早いもので、今日は音楽祭の日だ。サーニャも休みをとってあるらしい。
折角の音楽祭なので、先日買ったワンピースを着ていくことにした。サーニャもお洒落をしている。サーニャはオレンジのワンピースを着ていて、三毛猫の毛の色に良く合っていた。
午前10:00頃になると、ケインが迎えに来てくれた。ケインもスーツを着ていてカッコよくなっている。
「サーニャ、シュナ。迎えに来た。」
「ありがとう!」
「ありがとにゃ、ケイン」
そうしてケインの案内に従って、音楽祭の会場となるルツェルンホールに来た。お洒落をしている人が沢山いて、会場は静かな熱気に包まれている。
「この席だ」
「ありがとう」
ケインに席に案内してもらった。
始まるのは午前11:30から。それまでは3人で駄弁って待つことにした。
「今日はどんな人が出るの?」
「パンフレットを渡してなかったな。これだ。ルツェルン随一の有名な楽団が来ている。俺の弟と、サーニャの姉さんも入団しているんだ」
ケインからパンフレットを貰う。パンフレットによると、今日来るのはルツェルン1の楽団らしい。またサポーターのサタナの説明によると、こちらの世界ではメジャーなクラシックを演奏するようであった。
待っていると、11:30になった。アナウンスが流れて、開催の言葉が紡がれる。そしてついに音楽祭が始まった。
メンバーには、ロバや鶏、犬や猫の獣人がいた。宛らブレーメンの音楽隊である。
「あそこの…下から二番目の段の、白い犬の獣人がいるだろ。あれが俺の弟だ。」
「その隣にいるのが私のお姉ちゃんだにゃ、三毛猫だにゃ」
2人の姉弟を紹介してもらった。2人によく似た姉弟だ。
曲の演奏が始まった。
初めの曲はしっとりとした落ち着いたオーケストラだ。雨を彷彿とさせる、ポツポツ、ポロポロとした曲調だ。時折晴れ間のような鮮やかで明るい曲調になるのが綺麗だった。最後に虹のようなグラデーションのある音が奏でられて、美しくて感動で泣いてしまった。
曲が終わり、拍手が起こる。やがて、次の曲が始まる。
今度は全体的に明るくて華やかな曲だった。シンバルの音が沢山響く。雨も涙も吹き飛ばすような曲だ。
途中の段々明るくなって、最後にパアッと音が広がる表現が良かった。
一糸乱れぬ演奏。沢山の練習という努力の結晶が垣間見えるオーケストラだった。
拍手が起こった。その後も何曲か演奏された。
最後の曲は、まるで可憐な乙女が恋をしているような甘酸っぱい曲だった。花びらが舞うような曲調に、恋のドキドキを表すような緩急ある調べ。
思わず口元に両手を添えてしまう様な素晴らしい曲だった。
心を揺さぶられる曲が多くて、終わる頃には大粒の涙がボロボロと零れていた。
「いやぁ、良い演奏だった…」
「よく泣いたな…」
「良かったにゃあ…」
サーニャとケインも泣いたみたいだった。目の下の毛がぺしょりと濡れている。
そうして閉会のアナウンスと共に、音楽祭は終わりを告げた。
「じゃあ、帰ろっか」
「そうだ、折角だ、ご飯食べてかないか?美味しい店を知っている」
帰ろうと思ったところ、ケインがご飯に誘ってくれた。
「いいにゃよ」
「いいよ!楽しみ」
ということで3人でご飯に行くことになった。
「すぐ近くだ」
そう言って、少し歩いた所に、オシャレなお店があった。蔦が絡まったオシャレな外装だ。
「ここだ。レストラン、デ・ナーディル。パイが美味い」
「へぇー!素敵」
「初めて来たにゃ」
内装もお洒落だ。落ち着いた雰囲気で、高級感がある。音楽祭の帰りでよかった、いい服を着ているから。
「俺のオススメはクラムチャウダーパイだな」
「じゃあそれにしようかな。」
「私はビーフシチューがいいにゃ」
サーニャはマイペースな可愛らしさがあると思う。各々決まったので、店員さんを呼んで注文を頼む。
待ってる間は雑談をしていた。
「最初の曲が良かったよ」
「分かるな。最後の雨が止んで虹が出たような表現は見事だった」
「分かるにゃあ、私泣いたにゃ、あれ。最後の曲も良かったにゃ。可憐で繊細な乙女みたいな曲でよかったにゃ」
「分かるよ、太鼓の音が恋でドキドキしてる鼓動みたいでさ、私までドキドキしちゃった」
話しながら待っていると、注文が届いた。
「お待たせいたしました」
「ありがとうございます」
「早速食べるにゃあ」
「いただきます!」
銀食器も上品だ。細かい彫刻が施されている。
パイの上の部分を崩すと中にクラムチャウダーが入っていた。
食べてみると、濃厚なお味。海鮮の旨みがよく出ていてとても美味しい。芳醇だ。
アサリもプリプリ、熱々で美味しい。人参も甘く蕩けるようだった。
パイはサクサクで、小麦の香りが豊かだ。美味しい。
お酒も頼んでみた。スパークリングワインだ。さっぱりしていて美味しい。白ぶどうの芳醇な香りが広がる。
因みに私は前世でも成人しているし、神の体となったのでお酒は問題ない。
「んん〜美味しい!」
「ビーフシチューも美味しいにゃ。お肉トロトロだにゃ」
「美味いな、コクが深い」
「ケインはいいお店を知ってるね」
「あぁ。兄弟が音楽祭の打ち上げに来たことがあるらしい」
「そうなんだ」
「美味しいにゃあ、ケインナイスだにゃ」
「ありがとう、誘って良かったよ」
パクパクと食べ進めた。
そうして美味しく食べ終わったのであった。
「「「ごちそうさまでした(にゃ)」」」
「美味しかったねぇ」
「にゃ。」
「チーズピザもあるみたいだね。また今度来ようよ、ここ」
「俺はいいぞ。他のメニューも食べてみたいしな」
「また来ようにゃー」
お会計を済ませ、店を出た。
「お酒が回ってきたにゃ。2軒目行くかにゃ?」
「お、いいねぇ。ケインも行く?」
「あぁ、行こうかな。居酒屋でいいか?」
「いいよぉ」
ということで居酒屋に来た。ケルト音楽が流れていて軽やかだ。踊りたくなる。
サーニャはもう踊っていた。相当お酒が入っているらしい。
「楽しくなってきたにゃ〜」
「あはは。俺も踊ろうかな」
「ケインも?先に注文済ませちゃおうよ」
「それもそうだな」
ということでおつまみと、ケインはビール、私はウーロンハイ、サーニャもチューハイを頼んだ。
「「「乾杯!!」」」
む、このタコの唐揚げ美味しい。卵焼きも出汁が効いてて落ち着く味だ。枝豆もさっぱりしていて箸休めに丁度いい。チーズ天ぷらも頼んだ。
お酒のつまみに最高だ。お酒がよく進む。
お酒が回ってきたので、サーニャ達と踊ることにした。踊りには疎いので、神力のサポートを入れた。
リズムを踏んで、クルクル回ってみせる。踊ってるうちに手拍子が起こり始めた。野次も集まってきた。
「嬢ちゃんいいねぇー!」
「俺も踊るかなぁ!」
そうして皆で踊り始めた。輪になってみたり、ハイタッチしてみたり。
明るいケルト音楽も相まって、場の雰囲気は最高潮だった。
「楽しいねぇ」
「楽しいにゃ」
「あぁ、とても」
幸せ過ぎて感傷に浸りたくなってしまう。
踊り疲れて席に戻った。ビールを追加で頼もう。少し汗をかいたから、尚更美味しく感じるだろう。
「ビール1つください」
「畏まりました!生一丁!」
余っていたポテトフライにバーベキューソースをつけて食べる。皆はポテト、シナシナ派だろうか。私はカリカリもシナシナもどちらもいける。因みにこのポテトは冷めてもカリカリだった。
「お待たせしました、ビールです」
「ありがとうございます」
ぐびっ、と1口飲めば口に広がる苦い味、冷たくて強い発泡。シュワシュワだ。
「あ"〜美味しい…」
ダンスを踊った後のビールは、思わず声が濁る程の美味しさだった。
「もう1回乾杯しようぜ」
酔ったケインが乾杯をしに来る。
「いいよ、乾杯〜!」
「「乾杯〜」」
「このお酒美味しいんだにゃあ…いっぱい飲むにゃあ」
そう言いながらサーニャはチューハイを飲んでいる。
皆ベロベロに酔っていた。
暫くお酒を飲んでいたら、日付をとうに越していた。そろそろ帰る頃だろう。
「そろそろ帰った方がいいんじゃないかな?」
「それもそうだな」
「まだ居たいけど、そろそろ帰るかにゃあ」
余っていたつまみを食べ終えて、お会計を済ませた。
店を出る。
暫く歩いて、サーニャの家まで着いた。ここでケインとはお別れだ。
「また遊びに誘ってね」
「勿論だ。じゃあ、良い夜を。おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみにゃ」
にしても楽しくて幸せな1日だった。良いクラシックオーケストラを聞いて、美味しいご飯を食べてお酒を飲んで踊って…はぁ、幸せ…。
やはり、ビバ神様である。明日もいい日になるだろう。
広いお風呂に入った後、広いふかふかのベットで私達は寝たのであった。
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