第八話「広がる熱、欲望」
しかし直後、
私はゾッとした。こんな大声で返事をして、異性にがっついてる女子だと思われてしまうのではないか。
「あっ、ごごごごめん! 予想してなくて嬉しかったっていうか、つい……」
「う、ううん、気にしてないよ」
「そっか……」
自身に対して、何正直に言ってるんだバカ、と叱責しながらも胸を撫で下ろす。私は
私はキッ、と側で聞き耳を立てていた二人の友人に視線を送った。すると友人二人もアイコンタクトを返してくる。
『なるほど、意中の相手は
『分かりやすく慌てちゃってて、可愛いね
ちなみに実際に言われているわけではない。全て
『今良いところだから邪魔しないで!』
眉に力を込めできる限りの意思を込める。それを続けていると、何とか察してくれたのかバカ二人は去ってくれた。
「それで、どの授業の話?」
自分の机を両手をつき、前屈みの姿勢で問いかけた。
「あ、ああ……そうだね。えっと、数学の授業で……」
「ここかな? それともこっち?」
ノートの上で指を動かす。しかし、その動作の最中、私の指が
「あ……」
――脳が沸騰する。
私は息を呑んだ。指先が触れただけで、こんなにも心臓が激しく跳ねるなんて。まるで触れた部分から全身に熱が広がっていくような感覚に、一瞬で頭が真っ白になる。
「…………っ?」
言葉を発しようとするものの、うまく声が出ない。こんな状況でどうすればいいのか、まるで分からなかった。ただただ、
「ここの部分がちょっと」
数秒の間だった。全身に汗が滲む。けれど、
「あ、あー、分かりにくいよね」
自分の声が震えないようにと、必死に平静を装いながら答える。心臓がまだ激しく鳴り響いているのに、なんとかして顔には出さないように努めた。
「うん、ここの解釈が難しくて……」
「えっと、だからここの式が……」
頭の中で言葉を整理しようとするが、心ここにあらず。
「……どうかな?」
突然の彼の問いかけに、ハッとして顔を上げた。
「あ、あー、うん! それで考え方は合ってるよ!」
焦ったように言葉を返すと、彼は少しだけ微笑んだ。その笑顔にまた、心臓がキュンと鳴る。
――私はいったい、どうしたらいいんだろう?
それからもこの会話はしばらく続いた。少しだけ時間が経って先ほど感じた熱も幾分かはマシになっていた。そんな矢先にだった。
「ねえ」
「ぁ…………」
声を出す暇もなかった。彼はその手を伸ばし、私の手に被せるよう軽く触れてきた。
――その瞬間、世界が色を失ったように感じた。
「……っ!」
言葉が出ない。心臓の鼓動が耳の中でドクドクと響き渡り、まるでそれが全てを支配しているかのようだった。
ただ、彼の手が私の手に触れているという事実だけが、私の全意識を占めていた。どうしようもなく、彼の指先に感じる温もりが、私を混乱させ続けている。
――でも、ここで表情を崩すわけにはいかない。
内心で自分に言い聞かせる。
「……うん、何?」
何とかして震えないようにと、息を整えながら言葉を返す。自分の声がどれだけ正常に聞こえたかはわからない。けれど、
彼の優しい微笑みに、私の心臓は再び激しく鼓動する。けれど、私は頑張って表情を崩さず、彼が手をそっと自分から離した。その瞬間、心の中で大きく安堵の息をついた。
「いや、何でもない。……ありがとう」
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