『立花宗』
たちばな
『立花宗』
『
彼は現在十九歳の大学生だ。生まれたのは八月二十一日。身長は百七十センチと、平均に比べたら小柄かもしれない。表情は良く動き、笑うと左目の下にある泣きぼくろがくしゃりとする。決して美形ではないが、愛嬌のある顔立ちだ。
癖のある黒髪は少し長めで、いつも頭の後ろで一つに結っている。どうして髪を伸ばしたままでいるのかは、誰も知らない。本人でさえもよく分かっていない。彼には、そういう抜けたところがある。
大学での彼は、教育に関わることを学んでいる。頭が良い方ではないけれど、毎日必死に勉強している。友人もそこそこいて、良好な関係を築いている。いつまでも子どもっぽいように見えるが、根は真面目なのだ。将来は保育士になりたいのだと照れくさそうに言う。
そんな彼だが、現実には存在していない。
『立花宗』は、私が作ったキャラクターだ。本当に生まれたのは私が小学六年生の秋で、まだ小説をスマートフォンではなくノートに書いていた頃のことだ。
最初の彼は『ソウ』だった。私の好きな歴史人物から音を貰って名前をつけただけの、個性もない存在。その後、漢字も貰って『宗』になった。『立花』という名字は私の友人がつけてくれた。そして、『立花宗』が生まれた。
私は絵が上手くないため、絵の上手い友人に『立花宗』のイラストを描いてもらった。そして個性が生まれた。最初の彼は知的な顔をしていたが、今は隙だらけでふにゃっとした笑顔の青年になっている。どういう心変わりがあったのかは私も覚えていない。何せ、『立花宗』を作り出してからもう六年が経っているのだ。
『立花宗』には、私の小学六年生から中学三年生までの四年間が詰まっている。私の青春で、私の黒歴史である、四年間だ。
『立花宗=黒歴史』とするのは簡単だ。『立花宗』を思い出したくない過去にして、プロフィールを削除して、彼に関するもの全てを捨て、私の積み重ねた痛々しい歴史の始まりをなかったことにする――私はいわゆる作者なのだから、そのくらいはすぐにできる。実際、友人と最初に作った『立花宗』のプロフィールは、とっくに破り捨てて小学校のゴミ箱に捨てられている。
でも私は、『立花宗』という存在を捨てなかった。理由は単純で、結局のところ私は自分のキャラクターが好きなのである。『立花宗』が好きなのである。色々と変えたつもりではあったけれど、私の根本は何も変わってはいないのだ。
私にとっての『立花宗』は創作の入り口であり、私の原点である。もちろん黒歴史になる部分だってあるが、それ以上の愛着がある。私はきっと、『立花宗』の存在を忘れることはないのだと思う。
今日は彼の、六回目の十九歳の誕生日である。私はこの日を、できる限り覚えていたいと思う。『立花宗』を生み出したことを、『立花宗』の存在を、残しておきたいと思う。
『立花宗』 たちばな @tachibana-rituka
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