発生
階段を降りると、いつも通りセーフエリアだった。10階層に到達だな。
俺はスーツから制服に着替えながらザベルに声をかけた。
「こんなもんで今日は帰るか。ザベル、剣の中に戻っといてくれ」
「えー!鬼の手試すの明日かよー」
「しょうがないだろ、もういい時間だし」
「ちぇー」
ザベルは文句を言いながら、黒い煙となって黒剣の中へと戻っていく。
俺は制服に着替え、セーフエリアの中央にある魔法陣からダンジョンの入口に転移した。
リュックの中には魔石しか入っていないし、特に寄り道する必要もないので、そのまま帰路につくことにした。
外はもう夕方で、空は赤く染まっていた。今日の飯は何にするかと考えていると、遠くから悲鳴が聞こえた。
(なんだ?)
「分からんが、行ってみるか」
俺は悲鳴の聞こえた方向へ走り出した。
声の聞こえた方角へ急いでいくと、そこは住宅街だった。そこから大勢の人々が逃げ出してきて、必死の形相で走っている。
その後ろから、2つの大きな角を生やした巨大なトカゲが追いかけてきていた。
「は?魔物!?ってことは発生型でも出たのか」
俺は即座にスケルトンを3体召喚し、「殺せ」と命令をする。スケルトンたちは俺の命令に従い、角トカゲに突撃していく。
「ザベルも出てきてくれ」
(おう!)
黒剣から黒い煙出てザベルが現れる。
スケルトンたちは角トカゲの巨大な体に剣を振るい、次々に傷をつけていく。
しかし角トカゲも鋭い牙をむき出しにしてスケルトンの1体に噛みつき、そのまま噛み砕いてしまった。
角トカゲが残ったスケルトンたちに夢中になっている隙を見逃さず、俺は黒剣を構えて一気に接近して、頭部に力いっぱい黒剣を振り下ろした。
その一撃は角トカゲの頭を斬り裂き、角トカゲは倒れ込んでそのまま動かなくなった。しかしダンジョンとは違い死体はそのまま残っていた。
「太陽、なんかめちゃくちゃ来たぞ」
「ん?うわ…」
その言葉を聞いて奥を見ると、さらに多くの魔物がこちらに向かってきていた。角トカゲだけじゃない。今度は人狼や腕に翼が生えたハーピィまでいる。
そしてそれら魔物の群れのさらに奥から、一つ目の巨人、サイクロプスが悠然と歩いてくる。
「太陽、こいつら全部相手すんのか?」
「いや、これはさすがにこれは…」
その時、街中にサイレンが鳴り響き始めた。
『現在、この街に魔物が出現しています。避難できる方は避難をしてください。避難できない方はその場を動かず、隠れてください』
「時間稼ぎぐらいしてみるか…やばくなったら逃げるぞ!」
「分かった!」
俺はスケルトンたちに「暴れてこい」と命令を出す。スケルトンたちは俺の命令に従い、迫ってくる魔物たちに向かって突進していく。
ザベルは迫ってくる角トカゲや人狼たちに向けて炎の玉を次々と放ち始めた。直撃した魔物たちは怯み、その場で進行が遅くなる。
俺はその隙に氷の玉を生み出し、魔力を込めて徐々に大きくしていく。
スケルトンたちも魔物たちに到達し、攻撃を仕掛けるが、数が多すぎる。スケルトンは次々に魔物たちに押しつぶされ、すぐに全滅してしまった。
「アッハハハ!!」
俺は笑ってステータスを上昇させ、バランスボールほどのサイズになった氷の玉を迫り来る魔物の群れに向けて放った。
巨大な氷の玉は勢いよく飛び、次々と魔物たちを巻き込み、殺していく。
しかしサイクロプスがその一撃を見据えると、巨大な拳で氷の玉を殴りつけ、粉々に打ち砕いた。
「マジかよ、あれは…倒せねぇな」
サイクロプスの力を目の当たりにし、戦うのは不可能だと判断した。
「ザベル、逃げるぞ。黒剣の中に入れ!」
「了解!」
ザベルは返事をすると、黒い煙となって黒剣の中に戻っていった。
俺はその場から後ろを振り返り、全力で走り出した。だが、サイクロプスが走って追ってきた。巨体を揺らしながら走ってくるサイクロプスは、周りにいる魔物たちを蹴散らして進んでくる。
「こいつ早いな、おい!」
全速力で逃げ続けるが、前方に大勢の魔物たちが現れた。どんだけいるんだよ!
すぐに周りを見渡し、家の屋根を見つける。
俺は勢いをつけてジャンプし、浮遊のスキルを使って屋根の上に着地した。
だがサイクロプスも俺を追ってくる。奴は巨体を揺らしながら、俺と同じようにジャンプしてきた。
だがその重さのせいで、屋根に大きな穴が開き、サイクロプスは体勢を崩した。俺はその隙を見逃さずに再び走り出した。
しかし、サイクロプスはそのまま諦めることなく、無理やり立ち上がり、再び追ってくる。
俺は屋根伝いに必死で逃げ続けたが、サイクロプスはしつこく追いかけてくる。
サイクロプスから全力で逃げている最中、突然体に何かが当たり衝撃を受け、体勢を崩した
当たった方向を見ると、笑うように鳴き声を出しているハーピィがいた、何かしらの魔法を放ったみたいだ。
そして、サイクロプスが追いつき目の前に迫ってきた。奴は巨体を揺らしながら、腕を振りかぶって俺を殴り飛ばした。
サイクロプスの一撃は圧倒的だった。まるで車にはねられたような衝撃が全身に走り、俺は吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。
体中が悲鳴を上げ、まともに動かせなくなり、口から血が滲み出て体が重く感じる。
地面に転がりながら、視界の端でサイクロプスと他の魔物たちが俺に向かってくるのが見えた。動けない俺に確実に死が迫っている。
「ここで終わりかよ…」
(おい太陽!)
「おい、出てくるんじゃねーぞ…」
(でも儀式をすればなんとか…)
ザベルが何か言うが、聞こえなくなってきた。
思い返せば、サイクロプスが見えた時点で逃げるべきだったか、ザベルにも悪いことしたな。
すぐそばまで魔物が迫ってきている。あぁ、なるべく痛くしないで欲しいが……
そんな時だった。
暗くなってきていた空が突然、眩い光で照らされ始めた。視界の隅で何かが光り、その光が次第に広がっていく。
「なん…だ…?」
驚いて顔を上げると、空全体を覆うような巨大な光が現れていた。
そして、その光がバラバラに散り、この街全体に降り注ぎ始めた。
その光の一つが俺にも届き、体を包み込んだ。
すると俺の周りに結界のようなものが張られた。そして痛みが和らぎ、体の傷がどんどん癒えていく。
「なんだ、これ」
呆然としながら、自分の体がみるみる回復していくのを見つめた。
血が引き、内臓の痛みも和らぎ、あっという間に元の状態に戻っていく。
サイクロプスが近づき、結界を何度も殴りつける。
しかしその巨大な拳も、結界を破ることはできなかった。
その時、遠くにいる魔物が次々と倒されるのが見えた。倒していたのは自衛隊員だった。
数人の自衛隊員が、迅速に魔物たちを次々と倒していく。
そしてサイクロプスにも剣を持っている自衛隊員が迫り、見事にその巨体を斬り裂いた。
サイクロプスは雄叫びを上げると、その場に崩れ落ちた。
自衛隊員の一人が俺の方に駆け寄ってくるのを見ると、安心したのか気が抜けてしまい、意識を失った。
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