魅了

探索を始めてしばらく経ったが、次の階層に向かう階段はまったく見つからなかった。

森の中をあちこち歩き回って探しても、まったく見つからない。ダンジョンマップを見ても隅々まで探しているはずなんだが。

俺は少し立ち止まって考える。


「やっぱりどっかしらで見逃してるのかもしれないな…戻るか」


ここまで見つからないとそうとしか考えられなかった。

俺は最初に角兎を斬り倒した場所まで戻ると、大きな樹木の陰に階段が隠れているのを発見した。


「おお、あった!」


俺は安堵しながらも、自分の不注意を呪った。まさか序盤の序盤にあるとは思わないだろ。


「そういえば角兎に立て続けに襲われたからあんまり周囲を見てなかったな…」


(でも見つかってよかったじゃん!森にずっといたら俺も飽き飽きしちゃうし!)


「まあな」


ザベルが楽しげに言い、俺はそれに苦笑いを浮かべながら階段を下り始めた。しかし階段を降りる途中で、首元に妙な熱さを感じた。セレスの呪いだ、セレスの呪いがじわじわと熱を帯びているのが分かる。


「なんだ?」


疑問に思いながらも階段を下り、9階層のセーフエリアに足を踏み入れると、目の前にはセレスの姿があった。


「セ、セレス…」


俺が驚いた声を上げると、セレスが振り返り、こちらを見て少し驚いた顔をした。そしてすぐにニヤリと笑い、ゆっくりと俺の方に近づいてくる。


「奇遇だな、太陽。ダンジョン探索は順調か?」


セレスは微笑みを浮かべながら言う。俺はぎこちなく笑い返す。


「あ、まぁ、順調かな?」



な、なんだ?セレスを見ると、なぜか妙に心臓が高鳴る。

 

セレスの顔、体、声、その全てが魅力的に感じられ、呼吸が乱れる。

 

そして知らず知らずのうちに、セレスに手を伸ばしかけていた。


(お、おい太陽?どうしたんだ?)


ザベルの声が脳に響き、正気を取り戻した俺は、慌てて手を引っ込めた。

セレスはそれを見て首を少し傾げ「まだか…?」と呟いた。

俺にはその意味が分からなかったが、セレスは気にする様子もなく微笑んだ。


「ふむ、それじゃあ私はこの辺で失礼する。またな」


セレスはそう言って、俺にキスをした。唇が触れる感覚に一瞬、思考が止まる。

俺が何も言えないまま呆然としていると、セレスは満足そうに笑みを浮かべながらセーフエリアの中央にある魔法陣に乗り、転移していった。


残された俺は、思わずその場で腰を下ろした。


「なんだったんだ…」


するとザベルが不思議そうに声をかけてくる。


(なあ、太陽。あの竜もどきみたいなやつ、お前の嫁なのか?)


「いや、違う。嫁じゃない」


(でもキスしてきたぞ? なんでだ?)


俺は溜息をつき、首を振った。


「何か、妙に好かれちまってな。俺もよく分からん」


(あはは!モテモテじゃん!)


ザベルは軽く笑って、茶化すように言う。俺はそれどころではなかった、鼓動が未だに落ち着かない。

俺ってこんなに女性耐性無かったのか?いや、呪いの影響か?前まで、というか朝もそういったことは無かったんだけど……何にしても、少し疲れたな。


「今日はここまでにしとくか…なんだかんだで8階層の探索だけで時間かかっちまったし」


俺はセーフエリアの中央にある魔法陣に向かい、ダンジョンの入口へと戻ることにした。

入口に着くと、いつものように買取所へ行き、手に入れたアイテムを全て売却する。今回もそれなりのポイントが手に入った。

そして買取所を出て帰ろうとしたとき、ザベルがふと声をかけてきた。


(おい、太陽。着替えなくていいのか?)


「おっと、そうだった。危ねぇ、ありがとう」


セーフエリアでの出来事が気になりすぎて、派手なスーツを着たままだったことをすっかり忘れていた。昨日みたいに注目浴びるところだった、危ない危ない。

俺は更衣室に向かい、制服に着替えた。そして正門を出て帰り道を歩く。


「今日は牛丼にすっかな」


「ぎゅうどん?なんか美味そうな名前だな!」


「ああ、とんでもなく美味いぞ」

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