森と兎と熊
8階層のセーフエリアを抜けると、目の前に広がるのは深い森だった。
枝葉が重なり合い、薄暗い木漏れ日が地面に影を落としている。
「森のエリアは初めてだな」
俺は少しだけ緊張しながら周囲を見渡し、すぐに浮遊を使って浮き上がり、スケルトンを2体召喚した。そしてスケルトンたちに「着いてこい」と命令する。
「よし、行くぞ」
「おー!」
そして俺たちは森の奥へ進みだした。森は静かで、時折、鳥のさえずりや葉擦れの音が聞こえてくる。
すると、突然茂みから何かが飛び出してきた。俺は咄嗟に黒剣を構え、何とか防いだ。
「大丈夫か!?」
「ああ、大丈夫だ。くそほどビックリしたけどな」
攻撃してきた相手を見ると、1本の長くとがった角を生やした兎だった。跳躍力を活かした素早い動きで俺に突っ込んでくる。
「早いなおい!」
俺はその突進を避け、角兎が着地した瞬間を狙って黒剣で斬り裂いた。角兎は光の粒子に包まれ消えていき、それを拾い、リュックに入れる。
「随分と殺意の高い兎だな、まったく」
俺はザベルが少し危ないなと思い声をかける。
「ザベル、危ないから剣の中に入っときな」
「分かった!」
ザベルは黒い煙となって黒剣の中に入る。俺は少しだけ気を引き締めて、再び進みだした。
だがまたすぐに角兎が飛び出してきた。
「うおお!」
俺は驚きながら避け、同じように着地した瞬間を狙って斬り裂く。
「なんなんだよもう…ほんと油断できないな」
そう言いながらまた進みだす。すると再び角兎が飛び出してきた。
「もうええて!」
俺は避けて、すぐさま着地したとこに黒剣を振り下ろして斬り裂いた。光の粒子に包まれて消えると角が地面に転がる。
俺は角をリュックに入れ、再び進むが、今度は何事もなく進めた。
道中には様々なキノコやよく分からない果実があったが、触って大丈夫なのか分からないので放置して森を探索する。
しばらく歩き続けていると、ザベルが話しかけてきた。
(全然見つからないな!)
「ほんとにな、見逃してなければいいけど…もうすぐ昼になりそうだし、来た道とは別の道から戻ってみるか」
俺は引き返すことに決めた。探索はうまくいかないが、無理しても仕方ない。腹減ったらやる気失せるし。
ダンジョンマップを見ながら別の道を選んで進んでいくが、特に何も見つからないまま、結局セーフエリアに戻ってきてしまった。
「視界が悪いからか分かんないけど、全然見つかんないな…まぁ、まったりやるか。昼飯にしよう」
俺はリュックを下ろし、ザベルに話しかけた。
「やったー!昼飯だ!」
ザベルの嬉しそうな声が響く。俺はリュックからおにぎりを取り出し、昼食の準備を始めた。セーフエリアに腰を下ろし、ゆっくりと食事を楽しむ。
昼飯を食べ終わった俺たちはまた探索を開始することにした。
「そんじゃ行くかな。ザベルはまた剣の中な」
「はーい!」
ザベルはいつもの調子で返事をすると、黒い煙になって黒剣の中へ入っていった。
俺は浮遊を使って体を宙に浮かべ、再び8階層の森の中を探索し始めた。
そして角兎の襲撃を何度か受けながらも、黒剣で斬り裂いて倒していく。
それを繰り返して進んでいるうちに、森の中にぽっかりと拓けたエリアに出た。そして中央には一際目を引く巨大な熊が立っていた。
その熊は通常の熊とは違い、前脚の爪が鉤爪のように鋭く湾曲している。
「ボスだよな?ザベル、出てこい」
「はいはーい!」
俺が呼ぶと、黒剣から黒い煙が立ち上り、ザベルが姿を現す。
「ザベル、また遠くから援護してくれ」
「分かった!」
ザベルは少し離れた場所に移動し、俺を援護する体制に入った。俺はスケルトンをもう1体追加で召喚し、3体にする。
そして、触手を生み出すと、大きくしなりながら熊に叩きつけた。
「熊を殺せ」
スケルトンたちに命令を下し、彼らを熊に突撃させる。
触手の攻撃を喰らった熊は一瞬怯んだが、すぐに体勢を立て直し、スケルトンたちに鉤爪で猛攻を仕掛けてきた。そしてスケルトン2体があっという間に倒されてしまう。
だがその時、ザベルが炎の玉を放ち、それが熊に直撃する。
熊は焼けた毛皮を振り払いながら、突進してくるが、ザベルは次々と炎の玉を放ち、熊の動きを牽制している。
俺は再びスケルトンを2体召喚し、熊を襲わせる。
そして氷のトゲを生み出して放ち、スケルトンたちを援護する。
するとスケルトンの1体が熊の横腹に剣を突き刺し、そのまま傷口を広げるように斬り裂いた。
だがその瞬間、熊が怒り狂ったように雄叫びを上げ、暴れ始めた。
スケルトンたちは次々と熊の猛攻に倒され、俺の援護も虚しく、熊はすぐにこちらに突っ込んでくる。
「アッハハハ!!」
俺は口角を上げて、声を出して笑いステータスを上昇させ、逆に熊に向かって接近する。熊の鉤爪が目の前で振り下ろされるが、それをギリギリでかわし、黒剣を振り下ろして熊の上半身を斬り裂く。
熊は反撃しようと口を開いて噛みつこうとしてくるが、俺はすぐに後方へ飛び退き避ける。
熊が次の攻撃に移ろうとする瞬間、俺は素早く前に踏み込み、黒剣を熊の顔に振り下ろした。黒剣が熊の頭を両断すると、熊は力尽きた。
巨体が力なく地面に倒れ込むと、光の粒子に包まれて消えていく。
すると強い高揚感を感じた、レベルアップだ。
「ふぅ…」
俺は一息つくと、地面に残されたものに目をやる。そこには拳ほどの魔石と、鋭い鉤爪が残されていた。鉤爪を拾いリュックに入れる。
「最初から俺が剣で攻撃してたほうが早かったかな?」
すると、ザベルが笑いながら声をかけてくる。
「お疲れ様だな!」
俺はリュックから魔石を取り出し、ザベルに投げて渡す。
「ほれ、魔石。援護助かったよ」
「ありがと!」
ザベルは嬉しそうに魔石を食べ始めた。俺はあたりを見回したが、階段が出現している様子は無かった。
「んー…ボスじゃなかったか」
少しがっかりしながら呟くが、こればかりは仕方がない。
「まぁのんびり探すかね」
ザベルが魔石を食べ終えたのを確認し、俺は再び森の中を歩き出す。
「よし、行くぞ」
「おー!」
「あ、ザベルは黒剣の中な」
「おー…」
少し盛り下がった声を出しながらも黒剣に入るザベルに少し笑いながら、また探索を始めた。
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