学園長

リザードマンを倒し、地面に出現した階段を下りると俺たちは8階層のセーフエリアに到達した。

静かな空間が広がり、探索の疲れを癒すにはちょうどいい場所だが、今日はもう十分だな。


「そろそろ帰るか。ザベル、お前って姿を隠したりできないのか?」


俺がそう尋ねると、ザベルはニヤリと笑って答えた。


「できるぞ!その剣を依代にしたからな!」


そう言うと、ザベルは煙のように姿を変え、黒剣に吸い込まれていった。そして黒剣が一瞬薄暗い光を放つ。


(この状態だと、念話で話せるぞ!)


ザベルの声が突然、俺の頭の中に響いた。どうやら、黒剣の中にいる状態でも会話できるみたいだ。


「お前便利だなぁ」


俺はそう呟きながら、セーフエリアの中央にある魔法陣に乗り、ダンジョンの入口へと転移した。

ダンジョンから地上に戻ると、早速買取所へ向かうために歩き出した。



すると、突然目の前に人影が現れた。それは迷宮学園の学園長である夜咲剣だった。

誓って言う、俺は今前を向いて、目を開けていた。人なんかいなかった。まばたきをしていない、なのに目の前に突然学園長が現れた。まるで転移してきたかのように。


「ふむ…何か妙な気配がしたと思ったが」


学園長は俺をジッと見つめ、鋭い目つきで観察してくる。その視線に冷や汗がドッと滲み出てくる。


「黒木くんだったか。何か心当たりはあるかね?」


俺は一瞬考えたが、この相手に嘘をつくのは得策ではないと思い、素直に答えることにした。


「…あります」


学園長は深く頷き、少し考えた後に言った。


「着いてきなさい」


そう言って学園長は歩き出す。俺も慌ててその後に続くが、どうにも落ち着かない。


(おい、太陽、大丈夫なのか?この爺さん、どえらい強いぞ)


ザベルの声が頭の中に響く。しかし、今ここでザベルと話すわけにもいかないので、無視するしかない。

何も悪いことはしていないはずだが、なぜか説教される前のような不安感が襲ってくる。


しばらくして学園長室の前に到着した。学園長が扉を開け、中へ入るよう促してくる。


「入りなさい」


俺は少し緊張しながら中に入り、学園長が高級そうな椅子に腰掛ける。そして腕を組み、冷静な声で言った。


「それで、君の心当たりを話してもらおうか」


俺は大きく息を吸い込み、正直にすべてを話すことにした。

別に悪いことしたわけじゃないんだ、堂々としよう。


「えーっと…実はダンジョン内でレッサーデーモンと出会いまして…それがサソリの魔物に追われていたので助けたんですよ。

それで話の流れで、そのレッサーデーモンと契約することになりまして」


学園長は俺の話を聞きながら目を細め、興味深げに呟いた。


「契約…?ふむ、そのレッサーデーモンを出すことはできるのかね?」


「はい」


俺は黒剣を軽く叩いて、ザベルを呼び出す。


「おい、ザベル、出てこい」


黒剣から黒い煙がもくもくと現れ、やがてザベルが姿を表した。

彼は落ち着かない様子でビクビクしながら、学園長に挨拶した。


「ど、どーも〜…」


学園長はザベルを観察し、しばらくして静かに言葉を発した。


「ふむ、これはレッサーデーモンではないな…ザベルといったかな。君は人類に対して危害を加える気はあるかね?」


ザベルは慌てて手を振りながら答える。


「いやいや!俺は太陽の不利益になるような行動はしないよ!ホントに!マジで!もちろん襲われた場合は話は別だけどさ!」


学園長はしばらく考え込んだあと、落ち着いた声でさらに尋ねた。


「会話ができるほどの知能がある…異種族に近いか。君のような悪魔は他にもいるのかね?」


「いっぱいいるよ、人間と同じで。たぶんこの世界にも来てると思うんだけどなぁ…あ!もちろん悪魔にも性格の違いとかあるからね!

バカみたいに暴力的なやつとかやたら傲慢で人間を見下してるやつとかもいるよ!」


ザベルは慌てながら説明し、学園長はそれを静かに聞いていた。やがて学園長は小さく頷き、俺に向かってこう言った。


「そうか…今日のところは帰っていい。だが外に出るときは基本的に悪魔を出さないようにしろ、いいな?」


「分かりました」


ザベルは黒剣の中に戻り、俺はほっと息をつきながら学園長室を後にした。

廊下を歩きながら、ザベルが再び頭の中で話しかけてくる。


(怖かった〜!何なんだよあの爺さん)


「ほんとだな。まぁ、無事に済んで良かったよ…マジで」


俺たちはそんな会話を交わしながら、学園の外へと向かい、帰路についた。

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