魔界

ザベルの案内を受けて、俺たちは荒野を進んでいった。ザベルは契約を結んだ後、ずっと嬉しそうな顔をしている。まるで新しい友達ができた子供のような無邪気さだ。


「ここだ!」


ザベルが嬉々として指差した場所を見ると、3つの大きな岩の間に階段が隠れるようにしてあった。


「いやらしい場所にあるな、見つけづらいわけだ」


俺は苦笑しながら、ザベルと共にその階段を下りていった。階段を下りきると、いつものようにセーフエリアに到着した。これで7階層に到達だな。少し疲れてきたのでセーフエリアで休憩を取ることにした。


「そろそろ昼飯にしようか」


俺はリュックからタッパーを取り出し、昼食を取ろうとする。そしてふと、俺はザベルに問いかけた。


「そういえばザベルって食事とか取るのか?」


ザベルは俺の言葉にすぐさま反応し、誇らしげに胸を張って答えた。


「もちろん食べるぞ!人間とは違って排泄はしないけどな!」


「へぇ、そりゃすげぇ」


悪魔にも食事の習慣があるのか、なんとなく魂とか貪ってるイメージがあったが、排泄しないというのはどういう仕組みだか知らんが凄いもんだ。

俺は少し面白く感じながら、タッパーからシャケのおにぎりを取り出しザベルに手渡した。


「じゃあこれ、食べてみろよ。人間の食べ物だ」


ザベルはそのおにぎりを受け取ると、目を輝かせて笑みを浮かべた。


「おお!人間の食い物か!」


そう言って、ザベルはシャケのおにぎりに勢いよくかぶりついた。しばらくモグモグと口を動かし、味わっていると、突然大きな声を上げた。


「う、うまい!!これ、すごく美味いな!」


ザベルは嬉しそうにおにぎりを食べ続け、すぐに一つを完食してしまった。その様子を見て、俺もおにぎりを取り出して自分で食べ始めた。シャケの風味が口の中に広がり、ほんのりとした塩味が疲れた体に心地よい。


「うん、美味い。やっぱり昼休憩にはおにぎりだな」


俺もザベルも食べ終わり、しばらくセーフエリアでゆっくりと休憩した。ザベルは満足げに腹をさすりながら、感慨深そうに口を開いた。


「美味しかったぁ… 人間の世界にはこんな食べ物がたくさんあるのか?」


「ああ、もっと美味しいものがいくらでもあるぞ。おにぎりなんかはシンプルな方だ」


俺がそう言うと、ザベルは目を輝かせて感動しているようだった。


「それだけでもこの世界に来た甲斐があったというものだな!」


ザベルの純粋な感動に俺は少し笑いながらも、ふとある疑問が頭に浮かんだ。


「そういえば、ザベルはどこから来たんだ?」


俺が尋ねると、ザベルは少し得意げに答えた。


「魔界からだ!俺たち悪魔の世界だな!」


「へぇ、魔界か」


悪魔たちの世界か、面白いな。単一型ダンジョンでもそんなとこがあると聞いたことがないし、完全に異世界なのだろうか?

しかし、わざわざこの世界に来る理由が気になる。


「何のためにこの世界に来たんだ?」


俺が続けて質問すると、ザベルは自信満々に答える。


「強くなるためだ!悪魔が強くなるには誰かの使い魔になるのが一番手っ取り早いって教わったからな!前までは人間とかが悪魔を召喚して使い魔にすることがよくあったんだけど、最近はまったく召喚されなくなってしまってな!」


「そうなのか」


「ああ、それで最近は逆に悪魔を送り込む方針にしたって言ってたぞ!それで俺もこの世界に送られてきたんだ!」


ザベルが楽しそうに笑いながらそう言った。それじゃあザベルの他にもここへ送られてるのがいるのか。


「悪魔も大変なんだな」


「まあな!」


そう言いながら、俺たちはセーフエリアでの休憩を満喫した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る