悪魔
授業が終わると俺は更衣室に向かい、アリアにもらった派手なスーツに着替えた。
道具貸出所には行かず、そのままダンジョンへ直行できるのは楽で良いもんだ
ダンジョン入口の魔法陣に立ち、6階層のセーフエリアへ転移する。今日はそろそろ6階層を完全に攻略して次の階層へ進みたい。
セーフエリアの洞窟を抜け、広がる荒野に足を踏み入れる。
浮遊を使って宙に浮かびながら、スケルトンを2体召喚し、「着いてこい」と命令する。
そして火吹きを使いながら進む。派手なスーツを着ていることによっていつもより奇人度が高まってしまっている、できることなら人にみつかりたくないもんだ。
しばらくサソリとの戦闘を避けながら階段を探していると、前方に二本の角と尻尾を生やした黒い肌の小さな悪魔、レッサーデーモンがサソリの魔物に追われていた。
「悪魔か…」
俺はサソリの方に氷のトゲを放った。鋭く飛んだ氷のトゲはサソリに突き刺さり、そのまま倒れて光の粒子に包まれて消えた。するとレッサーデーモンは俺の方に気づいたようで、笑みを浮かべてこちらへ駆け寄ってきた。
「助かったぞ人間!あいつ、なかなかしつこくてな!」
「ああ、怪我はないか?」
するとデーモンは誇らしげに胸を張った。
「大丈夫だ!怪我してもすぐに再生するからな!ところで、お前はこんなところで何やってるんだ?」
「ん、俺は次の階層に行くための階段を探してるんだ、なかなか見つからなくてな」
そう言うと、レッサーデーモンは興味を示したように目を輝かせた。
「おお!それならさっき逃げてる最中に見つけたぞ!場所もちゃんと覚えてる!」
「本当か?なら教えてくれないか?」
俺がそう言うと、レッサーデーモンはニヤニヤしながら近づいてきて、悪巧みが顔に浮かんでいるのがわかった。
「ん~、タダじゃあなぁ…」
「何が欲しいんだ?魔石とかか?」
俺がそう言うとレッサーデーモンは首を横に振り、さらに近づいてきて俺に指を向けた。
「お前だ!なかなか強そうだし、使い魔になってやるから俺と契約を結べ!」
「…契約?」
思わぬ提案に少し驚きながらも、契約の具体的な内容が気になった。使い魔として味方にできるなら、それはそれで悪くない話だ。
「具体的にどうやるんだ?」
「簡単だ!まず俺とお前との間に決まりごとを決める。それからお前が俺の名前を付けて、互いの血を飲み合えば契約成立だ!」
「なるほど…?」
俺は少し考え込んだが、味方が増えるのは悪くない。レッサーデーモンも成長すればかなり強力な悪魔になるとも聞く、悪くない話だろう。
「いいね、それじゃあ契約を決めよう」
レッサーデーモンは少し驚いた様子で、目を丸くしていた。
「本当にいいのか!?」
「何で言い出しっぺが驚いてんだよ。まあ、そうだな…契約内容はお互いに危害を加えないこと、お互いに害になるような行動をしない、これでどうだ?」
「それでいい!よし、次は名前だ!カッコいいやつにしてくれよ!」
悪魔らしい要求だなと思いつつ、俺はしばし考える。
「ザベルゲデウスってのはどうだ?特に意味は無いが悪魔っぽいだろ」
レッサーデーモンはその名前を気に入ったようで、ニヤリと笑って叫んだ。
「いいな!それにしよう!俺はザベルゲデウスだ!」
次の瞬間、レッサーデーモンが突然俺の首元に飛びついてきた。鋭い牙が俺の首に突き刺さり、血を吸い始めた。
「いたたた!なんかするなら先に言えよ!」
「これが一番手っ取り早いって教わったんだ!まあ我慢しろ!」
最近やたら噛まれるな、まったく。
首元の痛みに耐えていると、やがてレッサーデーモンは満足したのか、俺の血を吸うのを止めた。
「ぷはぁ~!美味しかった、次はお前の番だな!」
レッサーデーモンはそう言うと、さらに上に登り肩車の形になる。
「おい、口を開けろ!」
「わかったわかった」
俺が口を開けると、レッサーデーモンは自分の人差し指を噛み千切り、そこから流れ出た青黒い血を俺の口の中に注ぎ込んだ。苦く、熱を感じる不思議な味がする。
しばらく飲み続けると、レッサーデーモンは満足そうに笑った。
「こんなもんだな!あとは何か依代になるものがあるといいんだが。とりあえずこの剣でいいか」
レッサーデーモンは俺が持っていた黒剣に触れた。すると、黒剣が一瞬光る。
「これで契約完了だ!」
レッサーデーモン、いや、ザベルゲデウスとの契約が結ばれた。
「そんじゃザベル、階段の場所を教えてもらおうか」
「もちろんだ!ついて来い、人間!」
「俺の名前は太陽だ」
「よし!ついて来い!太陽!」
そうして俺はやたらテンションの高い悪魔と共に、次の階層に向けて歩き出した。
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