スターシーカー
今日は土曜日。入学してから初めての休日だ。今日は迷宮学園ではなく、大宮にある階層型ダンジョンへ向かうことにしていた。
D級のダンジョンは程よい難易度で命を落とす危険も少なく、安定してお金が稼げるため、探索者たちに人気が高い。
大宮駅に到着し、駅から出て少し歩くと、ダンジョンに向かうのか、剣を腰に付けた人や、ローブをまとった魔法使いっぽい人たちが目に入ってきた。
探索者向けの街としてここは賑わっている。少し進むと配信者らしき人たちもちらほら見かけ、彼らのドローンが空を飛んでいるのが目に留まった。
しばらく歩いていると、探索者向けの店が増えてきて、街の雰囲気が一段と活気づいてきた。
通りには色とりどりの看板が並び、それぞれが武器や防具、ダンジョンのドロップ品などを取り扱っている。
だが、その中で一際目を引いたのは、やけに派手な服を取り扱っている店だった。
店の前に展示された衣装は、どれも色彩豊かでその辺の店とは一線を画している。スターシーカーという名前のお店だ。
「派手な服か」
ふと自分のジョブ特性を思い出した。派手な服装だとステータスが上昇するというあれだ。まったく活用していないのですっかり頭から抜け落ちていたが、もう1つの笑う方の効果を考えると、なかなか馬鹿にできない性能なのかもしれない。
足を止めて店を眺めていると、店の中から突然、かなりの大柄でピンクのスーツを着た男性が現れた。その人は一目で分かるほどの化粧が濃い、オカマだった。
「あら!あなた、私のお店に興味あるのかしら?ささ、入って入って!」
彼(彼女?)はそう言うと、俺をぐいっと腕を引っ張り、半ば強引に店の中に案内してくれた。
「お、おお…」
店に入ると、さらに驚いた。中は想像以上に広く、カラフルで派手な服や防具が壁一面にずらりと並んでいた。どれも独自のデザインが光っている。
そう思って見回していると、オカマの人がにこやかに微笑んでこちらに話しかけてきた。
「ねえ、あなたの名前は何て言うの?」
「黒木太陽です」
「黒木太陽…いい名前ね。私はこの店の店長、アリアよ。よろしくね!」
アリアはウィンクをしながら自己紹介してくれた。ここまでどストレートに名前を褒められたのは初めての経験だったので、少し照れながらも軽く会釈を返す。
「ここは探索者でもおしゃれができるように、ってコンセプトで作られたお店なのよ。あなたも探索者なんでしょ?この辺りを歩いてたってことは」
「そうですね」
俺がそう答えると、アリアは目を輝かせた。
「その若さでこの店に目をつけるなんて、将来有望ね!で、どんな服をお探しなのかしら?」
その質問に、俺は少し考えてから答えた。
「実は俺、特殊ジョブなんですよ。道化師っていうジョブで、派手な服装だとステータスが上がるんです。だからまぁ、派手で探索者向きの服があればいいなぁと思ってるんですけど」
俺が説明すると、アリアは目を見開いて驚いた。
「特殊ジョブだったのね!なるほどなるほど、派手な服装でステータス上昇なんて、ますます面白いわね」
すると、アリアはニヤリと笑いながら言った。
「それなら、まずは色々試着してみてどの程度で効果が適用されるのか試してみましょうよ!この店にはピッタリの服がたくさんあるわ!」
「え?いいんですか?」
俺が驚いて尋ねると、アリアは自信満々に頷き、またウィンクをしてきた。
「もちろんよ!あなたはこれからのお得意様になりそうな子だもの。しっかりと満足させてあげなきゃね!」
そう言ってアリアは店の奥へと向かい、いくつかの服を選び始めた。
それからアリアに協力してもらいながら、俺は様々な服を試着させてもらった。試着を繰り返すうちに、2色以上の明るく鮮やかな色が必要ということが分かった。
そうした条件に基づいて、アリアはさらに俺に似合う服を探してくれた。
「これなんてどうかしら」
アリアが満面の笑みで奥から持ってきたのは、上下真っ白なスーツにピンク色の革靴、シャツは鮮やかな赤色。そしてスーツの背中には大きく濃いピンクのハートが描かれていて、そのハートの中には、まるで子供の落書きのような顔がデザインされていた。
試しにそのスーツを着てみると体が軽く感じた。笑ったときと同じ感覚だ。
「どう?体を動かしてみて!」
アリアの言葉に従い、俺はその場で軽く足を踏み鳴らし、腕を振り回してみる。確かに体の動きが驚くほど滑らかで、体のどこにも重さや窮屈さを感じない。
「凄いっすね」
俺がそう言うと、アリアは嬉しそうに笑った。
「でしょ?しかもこれ、ただ派手なだけじゃないのよ。斬撃や魔法に対してもある程度の耐性があるわ。打撃系にはちょっと弱いから、そこは気をつけてね」
しかし、そこで俺はふと気づいた。これだけ高性能な服、きっと値段も相応に高いはずだ。
「そういえば…これ、いくらするんですか?」
俺が恐る恐る尋ねると、アリアは笑みを浮かべながら答えた。
「現金だと30万円。ポイントでなら28万ポイントね。だ・け・ど、出世払いでいいわよ」
「出世払い…って、いいんですか?」
思わず驚いた俺に対して、アリアはにこやかに頷いた。
「ええ、もちろんよ。あなたは特殊ジョブなんだから、これからどんどん強くなって有名になるわ。そうなればこの店も有名になる。お互いにちゃんとメリットがあるから気にしないでちょうだい!」
彼女はウィンクをしながら、俺にそう言った。
「ありがとうございます」
俺は感謝を込めて頭を下げ、アリアから手渡されたスーツとシャツを袋に詰めてもらった。
「どういたしまして。スーツとか破けちゃったりしたらこの店に立ち寄ってね!」
アリアは満面の笑みで手を振り、俺を見送ってくれた。
出かけてみるもんだなと思いながら、俺は帰路についた。
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