呪い

目を覚ますと、俺は保健室のベッドで横になっていた。体の痛みがほとんどないことに気づき、体を見ると傷がすべて治っていた。


「…保健室か」


体を起こすと、ムサシとケイルがベッドの傍に立っていた。俺が意識を取り戻したことに気づいた二人は、ほっとしたように微笑んだ。


「運んでくれたのか?ありがとな」


俺が感謝の言葉を口にすると、ムサシは真面目な表情で頷いた。


「当然のことだ」


ケイルもその横で微笑みながら言った。


「それにしても、よく勝てたな」


俺は軽く笑って答えた。


「まぁ、俺はスキルをたくさん使ったし、レベル差もあっただろうしな。あいつ、多分レベル1だろ」


ケイルは真剣な表情で俺を見つめながら言った。


「それでも大したものだよ、竜人に勝つなんて。実質スキルいくつも持っているようなものだしね」


俺はその言葉を噛み締めながら、ぐっと伸びをしてベッドから降りた。


「それもそうだな」


ベッドから立ち上がり、保健室の先生に感謝の言葉を伝えた。


「先生、治療ありがとうございました」


先生はにこやかに微笑んで頷いた。


「どういたしまして、無茶をしないようにね」


俺は軽く手を振って保健室を出ようとしたが、扉を開けた瞬間、目の前にセレスが立っているのを見て驚いた。


「お…おぉセレスか、何してんだ?」


俺が戸惑いながら言うと、セレスは笑みを浮かべながら俺を見た。


「起きたのか、ちょうど良かった」


そう言うなり、セレスは俺に近づいてきて、強引に抱きしめた。彼女の方が身長が大幅に高いこともあり俺の体が浮き上がる。彼女の力は驚くほど強く、抵抗する間もなく、俺はそのまま彼女に唇を奪われた。


あまりに突然の出来事に頭が混乱し、突き放そうとしたが、セレスの腕の力は強く、まったく動かすことができない。

そしてついには舌を差し込まれ、口の中を蹂躙される。

キスが終わり、ようやく解放されたと思ったら、セレスは自分の唇を噛んで血を滲ませて俺の首元に顔を近づき、鋭い牙で噛みついてきた。


「ちょっ!何して…あっつ!!ホントに何してんだ!?」


セレスの牙が首に食い込むと、火に炙られるような激しい熱さが襲ってきた。俺は痛みに耐えながら何とか彼女を引き離そうとしたが、変わらずその力は強く、どうすることもできなかった。

少し経ってから、セレスは満足げな表情を浮かべながら、ゆっくりと噛むのを止めた。そして、俺の耳元で囁くように言った。


「強くなれよ」


そう言い残すと、セレスは踵を返し、何事もなかったかのようにその場を去っていった。


俺は呆然と立ち尽くし、首元に手を当てる。まだ火照るような感覚が残っていて、俺はムサシとケイルの方を振り返った。二人は困ったような表情で俺を見つめていた。


「これ、一体何なんだ?」


ムサシがため息をついて答えた。


「お前、本格的に気に入られたみたいだな。セレスに」


ケイルが少し申し訳なさそうに言葉を継いだ。


「あれは、竜人が気に入った相手にする特別な儀式みたいなものなんだ」


「気に入られた?儀式?どういうこと?」


俺はさらに混乱した。ムサシが俺の首元を指さしながら説明してくれた。


「噛まれたところを見てみろ」


俺は言われるままに、保健室の鏡の前に立って首元を確認した。そこには黒いタトゥーのような妙な模様が浮かび上がっていた。


「これ…なんだ?」


ムサシは肩をすくめながら説明を続けた。


「それは竜人が気に入った者に行うマーキングみたいなものだ。『これは私のものだ』という意味があるらしい」


「えぇ…」


すると、保健室の先生が楽しげな声で口を挟んできた。


「ちなみにね、それは世界でも随一の呪いでもあるのよ~」


「の、呪い?」


先生はにこやかに微笑みながら言った。


「そうよ~。竜人のマーキングは呪いとしても有名なの。そして呪いをかけた本人が死なないとまず消えることは無いわね〜」


「うそやろ」


俺の呟きに、ムサシとケイルは無言で肩をすくめるしかなかった。

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