決闘
翌朝、俺は少し疲れが残る体を引きずるようにして学園へと向かった。
教室の前の廊下にたどり着くと、Aクラスの教室の前で、何人かの生徒たちが揉めているようで、その周囲に人だかりができていた。その人だかりのせいで教室に入ることができない。
「まいったな」
混雑した廊下を見つめていると、ちょうどその場にいたクラスメイトのエルフ、ケイルを見かけた。ケイルは少し困った表情で状況を見守っている様子だったので、俺は近づいて話しかけた。
「おはよう、ケイル。何があったんだ?」
ケイルは俺の顔を見て軽く頷くと、状況を簡潔に説明してくれた。
「おはよう、太陽。ほら、竜人のセレスがいるだろ?そのセレスがCクラスの少し素行の悪い男子生徒たちにちょっかいをかけられたんだ。それでセレスがちょっとキツいことを言い返して、この状況になったらしい」
「キツいことって?」
「『劣等種の中でも選りすぐりのカスどもが』って言ったらしいんだ」
ケイルの言葉に、俺は思わず苦笑した。セレスは確かに強いが、竜人としてのプライドが強すぎるのか、しばしば他の種族を見下すような態度を取ることがある。今回もその強気な発言が原因でトラブルに発展したようだ。
「ふーん…それで?」
俺は興味を持って、さらにケイルに問いかけた。どうやら事態は収束するどころか、さらにエスカレートしているようだった。
「Cクラスの一人が、セレスに向かって『そこまで言うなら授業が終わった後に決闘しろよ』って言ったんだ。そしてセレスは、それに対して『ふん、劣等種のカスにもプライドがあるらしいな。良いだろう、逃げるなよ』って受けて立ったんだよ」
「なるほどねぇ」
俺は腕を組んで状況を頭の中で整理した。決闘ってなんだ?
「決闘ってなに?」
俺がケイルに尋ねると、彼は少し考え込んでから答えてくれた。
「単純に力比べみたいなものだよ。学園には熟練の神官がいくらでもいるから戦うことを許されてるんだ。もちろん決闘での勝敗によって学園生活に影響が出ることもあるけど、基本的には名誉やプライドを賭けた戦いだね」
「へぇ~、面白そうだな」
俺は軽い興奮を覚えながら、ケイルに向かって提案した。
「それなら放課後に一緒に見に行こうぜ。どうなるか楽しみじゃないか?」
ケイルは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んで同意してくれた。
「そうだね。セレスがどれほど強いのか興味はあるよ。放課後に一緒に見に行こうか」
こうして、俺たちは今日の放課後に行われる決闘を見学することに決めた。
授業が終わり、俺はケイルと、それとムサシも誘ってグラウンドに向かった。セレスとCクラスの男子生徒、名前はコウキと言ったか。
それらの決闘がちょうどそこで行われる予定だった。決闘が噂になっていたのか、グラウンドには既に多くの生徒が集まっており、その中には2年生や3年生も混じっている。
「随分と集まっているな…」
ムサシが腕を組みながら言う。俺たちは群衆の中を進んでいき、決闘が行われる中央付近に視線を向けた。そこには既にセレスとコウキが向かい合っており、審判役を務める別のCクラスの男子が、少し緊張した様子で二人の間に立っていた。
「セレスに勝てる算段でもあるのか?」
ケイルが不安げに呟く。竜人としての圧倒的な力を持つセレスに人間であるコウキが挑むのは無謀にも思える。だが彼の自信の表情は揺らがない。
審判役の男子が、少し震えた声で「始め!」と叫ぶと、コウキがすぐに動き出した。
彼は素早くセレスに接近し、武術の心得があるような見事な体捌きで攻撃を仕掛けていく。
拳と足技を駆使したその動きは、確かに一流の格闘家のものだった。
「おっ、意外とやるな」
俺は少し感心しながら、コウキの攻撃を見守った。彼の動きは無駄がなく、正確で鋭い。だがその攻撃をセレスは驚くほど簡単に受け流していた。まるで、子供のお遊びに付き合っているかのように、軽やかにコウキの攻撃をさばいている。
するとセレスが軽くコウキを殴ろうとした瞬間、コウキがその腕を掴み、投げ技を仕掛けようとした。
だがセレスの体は微動だにしない。まるで大樹のようにまったく動かないセレスにコウキの表情が一瞬、驚きに変わった。
「何をしているんだ?」
セレスは笑いながら問いかける。その言葉には余裕と嘲笑が混じっていた。
コウキはすぐに腕を離しセレスの顔に蹴りを放つ。だがその攻撃も片手で軽々と受け止められてしまう。
「竜の末裔か…」
ムサシが小さく呟いた。コウキは次々と攻撃を繰り出すが、そのすべてがセレスによって容易にさばかれていく。竜人の力はやはり凄まじい。だがその圧倒的な力を前に、次第にコウキの動きが鈍っていくのが見て取れた。
「これじゃあ勝ち目は薄いか」
俺がそう思った矢先、観客の中にいる一人の男子が、何やら怪しい動きを見せ始めた。よく見ると彼は魔法の準備をしているようだ。俺は何が起こるのか興味津々でその動きを見守った。
次の瞬間、その男子が魔力の弾をセレスに向かって放った。
俺は目を凝らしてその魔力の弾の行方を追ったが、それはセレスの尻尾によって軽々と弾かれてしまった。
コウキは驚いた表情を隠せず、その場で固まってしまった。セレスは不機嫌そうに鼻を鳴らし、鋭い目つきでコウキを睨みつけた。
「ふん、不意打ちとは…劣等種のカスがやりそうなことだな」
そう言うと、セレスはコウキの首根っこを掴み、一気に地面に叩きつけた。その力は凄まじく、振動がこちらまで伝わるほどだった。
コウキは苦しそうに呻き声を上げるが、セレスはそんなことお構いなしに無言で彼の顔面を何度も殴り続ける。
何度も、何度も。
「あーあ…」
俺は思わず声に出してしまった。横にいるムサシが腕を組み、冷静な目でその光景を見つめながら呟く。
「これは警告だな」
「警告?」
「そうだ、セレスはここにいる全員に『私に楯突くとこうなるぞ』という警告をしているんだ。彼女に逆らうことの意味を、力で示している」
俺はムサシの言葉に納得しつつも、コウキの苦しそうな姿に目をそらせなかった。
セレスは彼の顔面を無言で殴り続け、コウキは呻き声を上げるだけだった。審判役のCクラスの男子は腰が抜けたのか、怯えた表情で座り込んでしまっている。
「うわぁ…」
俺は思わずそんな声を漏らした。隣にいたケイルも可哀想な目でコウキを見ている。ムサシは冷静に状況を見守っているが、その目には警戒心が宿っている。
「これ、どうする?」
俺がそう尋ねると、ムサシはため息をついてから答えた。
「やめておけ、太陽。今止めに行ったら巻き込まれるぞ。セレスは本気で怒っている」
ケイルも同意見だった。
「うん、今は手を出さないほうがいい。セレスの怒りを買うと面倒だよ」
「ふーん…まぁ、そうだな。でもちょっと可哀想だし行ってくるわ」
そう言うと、俺は二人の制止を無視して、セレスの元へ歩いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます