共闘
草原をしばらく探索していると、前方に大きな影が見えた。
近づいてみると、それは立派な一角を持った大きいイノシシだった。
体毛は荒く、力強さが全身にみなぎっている。俺の姿に気づいた瞬間、イノシシは鼻息荒く突進してきた。
「はっや!」
咄嗟に剣を構え、俺はその突進を避けようと体を横に跳ねたが、イノシシは体を捻り、無理矢理こっちへ突っ込んできた。
避けきれなかった俺はかろうじて片足を踏み込み、剣を盾のように構えてイノシシの角を受け止め、どうにかイノシシの体を横に反らした。
「ははは!俺天才かよ!」
力が直接伝わってきて、手がしびれる。俺は体勢を整え、イノシシから距離を取る。
俺は突進してくる前に、氷のトゲを生み出してイノシシの足元に放った。
氷のトゲが足に突き刺さり、イノシシは一瞬動きを鈍らせた。その隙に俺は剣を高く掲げ、一気にイノシシの頭部に振り下ろした。
刃が深々と食い込み、イノシシは苦しそうに鳴き声を上げながらその場に崩れ落ちた。いつものように光の粒子に包まれ、イノシシは消えていく。
「ふぅ…焦った〜」
俺は肩で息をしながら、地面に残されたアイテムを確認する。そこには、イノシシの立派な角と、肉のブロックが落ちていた。魔法のリュックにアイテムをしまい、改めて辺りを見回した。
「角と肉か、いいね。なんなら肉は持って帰ろうかな」
こんな立派なアイテムが手に入るなら、今後の探索も期待できそうだ。
それから俺はさらに草原を歩き回り、ゴブリンや角イノシシを倒していった。角イノシシも奇襲で氷のトゲを当てれば結構楽に倒せた。
そして2度もレベルが上がった。
2度目のレベルアップの時、ふと頭の中に「火吹き」というスキルの名前と使い方が浮かんだ。どうやらジョブスキルを手に入れたみたいだ。
「火吹き…?」
俺は試しに口を開いてそのスキルを発動してみた。次の瞬間、炎が口から吹き出した。火の勢いは弱く、どこで使うのか分からないレベルだ。
どう見てもこれは芸の一環にしか見えない……そうか、芸か。道化師だもんな、この先もこんなのばっかだったら嫌なんだが。
まぁ使いどころは少ないかもしれないが、スキルはスキルだ。俺は再び気を取り直して、また探索を再開した。
ダンジョンマップを確認し、次の階層に向かうために歩いていると、目の前に広がる光景に足を止めた。
そこにはゴブリンの集落が広がっていた。大小のテントが建ち並び、ゴブリンたちがうろついている。
数にして20匹以上、しかもその中にはボブゴブリンも数匹混ざっていた。
「これは…さすがに厳しいか」
俺は慎重に周囲を見回しながら、どう対処すべきか考えた。一匹ずつ相手にするならともかく、これだけの数を相手にするのは無謀だ。
氷魔法を使って数を減らすこともできるが、全員に気づかれたら反撃されるのは目に見えている。
「どうすっかな…ん?」
悩んでいると、背後から重い足音が近づいてくるのに気づいた。振り返ると、クラスメイトの鬼人の男子が大太刀を肩に担いで、堂々とこちらに歩いてきていた。彼はにっこりと笑いながら話しかけてきた。
「お前、確か黒木と言ったか?こんなところで何をしている?」
「いや、あっち見てみ」
そう言うと彼はじっとゴブリンの集落を見つめ、静かに頷いた。
「なるほど、敵が多いな。しかし…お前、一人でやる気か?」
「正直、どうしようか悩んでたところ。えっと、名前なんだっけ?」
「ん、愛沢ムサシだ」
愛沢は少し考え込むと、再び俺に向き直り、鋭い眼差しで言った。
「よし、俺と共闘しないか?」
「お、まじで?くそ助かるわ」
「俺も1人じゃ厳しいだろうしな、win-winというやつだ」
その提案に、俺は心の中でガッツポーズをした。一人で挑むよりもずっと勝算が上がる。
俺はすぐに承諾し、ムサシと一緒に軽く作戦を練ることにした。まずは俺が遠距離から氷魔法でいくらか数を減らし、彼らがこちらに襲いかかってきたところをムサシと俺で迎え撃つ。
「そんじゃ始めるよ?」
「おう」
俺は手前にいるゴブリンに狙いを定めた。氷のトゲを生み出し、すぐさま集落に向けて放った。それを何度も行い、鋭い氷のトゲはゴブリンたちに次々と命中し、数匹がその場に倒れた。
「ほう、魔法も便利だな」
「ああ。1つは覚えて損はないんじゃないかな」
その直後、他のゴブリンたちが俺たちに気づき、一斉に怒り狂ったようにこちらに向かって走ってきた。ムサシはすぐに前に出て、顔を引き締めると大太刀を構えた。
「うおおおおおお!!」
ムサシが豪快に大太刀を振るうと、その一撃で2匹、3匹のゴブリンが切り伏せられた。そしてその調子で次々と倒していく。
「すっげ、俺も頑張んなきゃ」
俺も氷のトゲを放ち、少し離れているゴブリンを倒しながら剣で近くのゴブリンを倒していく。するとムサシの方へボブゴブリンがやってきたが、ムサシの大太刀の前ではただのゴブリンと変わらず、問題なく倒されていた。
二人で援護し合いながら、残ったゴブリンたちを手早く倒していく。すべてのゴブリンを倒し終えると、集落は静まり返り、その中央には不思議な光が現れた。
やがてその光が消えると、そこにはダンジョンの次の階層へ向かう階段が出現した。
「ふぅー、終わったか」
俺は肩の力を抜き、少し安堵の息を吐いた。集落に残された魔石を拾いながら、ムサシと雑談した。ムサシのジョブは侍らしく、刀系に補正が乗るらしい。鬼人と大太刀の組み合わせは強力だな。
魔石を拾い終えて、半々で分けた。そして階段を降りると、次の階層にたどり着いた。
また洞窟のようなセーフエリアが広がっている。ムサシはしばらくその場を見渡し、立ち止まった。
「俺はここで一旦帰るとする。お前は?」
「ああ、俺は少しこの階層の様子を見てから戻るよ。今日は助かった、また明日な」
「ああ、またな」
ムサシは軽く頷くと、中央の魔法陣に乗り帰っていった。
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