第2話:騎士団仲間

 王城に向かった俺は出来るだけバレないようにこっそりと所属する兵団の拠点に侵入した。いつもなら何の気なしに入れる場所だが、流石に三日も無断で休んだとなると話が変わる……というか集合時間を考えると四日ほど休んでることになるので普通に気まずかった。

 とりあえずまずは謝ることを第一に団長に会いに行こうとは決めたが、それまでに他の団員に会わないようにと息を潜めて団長室へと向かう。

 

「よし、今んとこ問題な――」


「あ、サボり魔先輩!」


 問題なし――そう言おうとした瞬間の事、明らかに俺を指しているだろう言葉がかけられた。思わずビクッと体が跳ねてそちらを見れば、そこには月白の髪をした銀の瞳の狼耳が生えた獣人の少女がいた。

 俺と似たようなの鎧を着たルナという名の彼女は、今の前世の記憶を取り戻した俺からすると一番会いたくない存在だ。


「げっ馬鹿犬後輩」


「会って早々馬鹿って言いました!?」


「お前もサボり魔言っただろ今」


「それは事実ですけど、私は馬鹿じゃないです」


「はっお前の中ではそうなんだろうな」


「仮にそうだとしても三日サボった先輩に言われたくありませんー」


 確かにそれはそう。だけど普段の彼女の態度を知っている俺からすると普通に癪だが……これに関しては連絡入れなかった俺が悪いので強引に話題を変える。


「……それより退いてくれルナ、俺は団長に用あるからさ」


「逸らそうとしても無駄です先輩。ですが私は寛大なので許してあげます。あ、あと団長に用があるのは私も同じなので向かいますよ」


「ん、了解。というかさあいつ怒ってなかったか?」


「団長がですか? んー特に怒ってたとかはない……ような?」

 

 首を傾げながらも団長の様子を思い出しながら話すルナ。

 そういう感覚はこいつが鋭いからそれを聞いて安心したが……それはそうと早く会わないと不味そうなので俺は彼女を連れて団長室へと向かった。

 とりあえず扉をノックし返事を待つ。

 

「ん……誰だ?」


 すると少しして凛とした女性の声が扉の向こうから聞こえてきた。


「ルナです団長、サボり魔先輩もいます!」

「そうか、入っていいぞ二人とも」


 それで伝わるのかよ……と心の中で愚痴りながらも俺は扉を開けて入室し書類仕事をしてるだろう団長の姿を見た。

 金の髪を後ろでまとめた彼女は一度作業の手を止めてこっちに声をかけてくる。


「三日ぶりだなアルマ――で、何故休んでたんだ?」


「あーディオナ団長、風邪引いてました」


「……ほう、お前が風邪など珍しいな。いつぶりだ?」


「え、先輩風邪引いてたんですか!? あの先輩が!?」


 俺の言葉を聞いて心底驚いた様な声をあげるルナ。

 人の事をなんだと思ってるんだよと聞きたくなるが、それはなんとか飲み込んだ。

 

「俺だって風邪ぐらいひくわ」


「だって先輩ですよ? 一年見てきましたけど一度も風邪とか引いてなかったじゃないですか!」


「そうか? 結構アルマは昔病弱だったぞ?」


「イメージ全然無いです……」


「まあ今のアルマはそうだな――そういえばルナは何を報告に来たんだ?」


「あ、そうでした。祭りの準備が進んだのでその報告です!」


 彼女に言われて思い出したのか、ルナの奴は一枚の紙を取り出して団長にそれを手渡した。気になってその紙を覗いてみれば、色々な屋台の配置がまとめられている。

 そういえば祭りがあるんだっけ? と記憶を辿ってみて、その祭りの存在を思い出し――それと同時に軽い鬱となった。


「よかった。それなら今年のアルス祭も問題無いだろう」


「団長、あとは観光客の方々のために周辺の魔物の討伐ですよね?」


「あぁ団員に迷惑をかけるが、成功させるためにもこの期間は頑張らなければ」


 その祭りというのは英雄アルスが龍を討伐し世界に平和をもたらした記念日を讃えて各国各大陸で行われてる物で、今までだったら楽しめたものだ。

 美味しい料理の屋台は出るし、何より人の笑顔が溢れるそれは今までだったらよかった――だが、前世を思いだしたせいなのだが、自分を讃える祭りなど最早処刑祭といっても過言ではない。


「絶対良い物にしたいですよね団長! なんたって英雄アルスのお祭りですから!」


「そうだな……ん、どうしたアルマ? 顔色が悪いが」


「いや、なんでも――あ、そうだ団長魔物の討伐なら俺行ってきます」


「病み上がりだと思うが良いのか? ありがたいが、本調子で無ければ危険だろう?」


「いや、回復したんで――それに団長の次の次……の次くらいに強いの俺ですから、沢山動いた方がいいでしょう」


 本音を言えばアルスが讃えられる話が今の俺的に地雷だから離れたいだけなのだが……それを悟られるわけにはいかないのでなんとかこういう理由で誤魔化すことにした。


「そうか? それなら近場の森の調査を頼む」


「了解です――じゃあ早速向かいますね」


「無理はするなよアルマ」


 そうやって、俺はなんとかこの場を切り抜けて近くにある魔物が住んでいる森の調査に行く事になった。

 割と適当に言ったことだが、アルスの力を試す必要もあったし丁度いいだろう。

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