第18話

この部屋にはまだ俺もアニマもいない。

何もない部屋だ。

クローン場に大家だとという概念はなく、住みたいやつが勝手に住む場所を見つけて自分のものにして、好きな時に消えていくから、この時期たまたま開いていたんだろう。


俺は俺とアニマを探すために、部屋を出た。

赤ちゃんの泣き声を聞き逃さないように、神経を尖らせながら、クローン場を走り回る。

何か物音が聞こえれば、開いている窓は全て覗き、閉まっている扉は全て開けていく。


しばらく体にまかせて動いていたが、息をするために、止まった。

汗か涙か血か、とにかく額を流れた。

その時あることに気がついた。

馬鹿か。俺が逆行して、何かを起こせばそれが既成事実となり、逆行した俺と、その理論を理解しているアニマの記憶にだけ、一周目があり、二周目がそこに流れ込む。

そして逆行したことはないのに、俺は12月25日に発見された事実があり、そう言われてきた記憶しかないのだから、そもそも逆行する前から俺とアニマは、あの部屋に、うちに捨てられたんじゃないか。

俺はうちで待っていれば良かったんだ。


俺はうちに向かった。ひどく歪んだ廊下の先に人影が見えた。

その女性はうちの扉から出てきた。


俺は引き留めようかと手を伸ばし、やめた。

そして、ボロボロの扉を開ける。


今の女性は俺の母親?それともアニマの?

実際はなんでもないのかもしれない。


とにかくそこには、俺とアニマがいた。

薄い布に包まれて、置かれている。二人とも寝ている。


俺は二人を抱き上げて、町の中心の中心にある高層階級の建物群に向かった。


クローン場を出て、しばらくバラックの溢れた道を進んだ。

道が止められていた。


「通してくれ!!」


どっかの役所の人間が、スラムと中心地を繋ぐ道を塞いでいた。


「無理だ。今日が何の日か分かっているのか?」

「知らねぇよ!!通せよ」


俺は無理やり突っ込もうかと思ったが、二人を抱えながらは危険だ。


「スラムの連中は知らねぇか」


見下されるのは慣れてる。今はそんなことに付き合わされている場合じゃない。

俺は後ろを向き、迂回路を目指す。


「今日はクリスマスイブだぞ。ネズミ一匹すらスラムから出さない」


その声が後ろから響いた。

その宣言はどうやら本当だったらしい。どんな細い道にも、人が立っている。

ここも、ここも、ここも、ここも。

角を曲がるたびに期待を込めては、胸が張り裂けそうになる。

俺はぐるぐると追い込まれて、クローン場に戻ってきてしまった。


俺は、どうしたらいいんだ。


一つ、思いついた。

このままでは確実に何も変わらない。運命に抗えない。

大きな何かを変えなくちゃいけない。


傲慢か。そう笑いながら。


俺の人生で、一番大きな部分を占めているのは、間違いなくアニマだ。

アニマの人生で、一番大きな部分を占めているのは俺だと、思っていいだろうか。


俺は、俺をここに捨て、アニマをまた別の場所に連れて行く。

俺とアニマを、引きはがすことにした。



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