クリスマスイブ

第17話

神様。

そんなものに助けられたことはないし、そんなものを信じたことはない。だから、今更頼るのもおかしい。


俺は、馬鹿だ。

アニマの言葉の1割も理解出来ていない。そんなやつが科学を語るのもおかしい。


だから、俺は、俺なりに、全てに抗う。

運命なんて、壊してやる。

誰も、失わない、選択をする。


いつだ。

根本的に変える時点は、いつなんだ。


「12月24日」


19年前の、12月25日、俺たちが発見された日。

たぶんその一日前ぐらいには二人ぼっちで、泣いているはずだ。


そこに戻り、なんとか、高層階級の人間に預ける。そうすれば、先天的に肺が悪いことは変えられなくても、発症することはない。

壊せる、よな。運命を。


無理矢理教えられた時間逆行理論を、思い出す。聞こうとしなかった、聞きたくなかった話を思い出す。


血の匂いが鼻につんとくる。


キーボードの慣れない感触、ディスプレイの目が痛くなる光。

すぐに設定画面が簡略化されていることが分かった。アニマは、馬鹿な俺が、一人残されても仕事が出来るように、してくれていたのか。


逆行。

人間の体が服を雑に脱いだみたいに裏表がひっくり返ってて、それをネガフィルムで撮って、早送り逆再生。


この家の中の19年間は、そんな気持ち悪い景色でも、幸せなものだった。

一緒に折り紙を作って、アニマはきっちりと角までゆっくり折って、俺はアニマが一つ作る間に、三つ作った。

夏には少し奮発してスイカを買った。俺が皮まで食べてしまって、笑われた。

アニマが車椅子に座っている。あの頃は、階段を降りれなくなったことを嘆いていたっけ。

俺は料理を作っていた。この頃はまだアニマがご飯を口から食べれていたから、張り切って作っていた。台所はいつから物置になった?

バルコニーで、一緒に洗濯物を干している。アニマが自分の足で、立って、笑っている。


19年前に着いた。現在と変わらない、誰もいないバルコニーを見た。

何度、何度拭っても涙が溢れた。惨めな声が漏れた。

蹲って、もうずっと、ここにいようかと思った。


息を、吸い、吐く。

ヘッドフォンをかけなおす。


そこからは、アニマの声は聞こえない。

それでも、俺は立ちあがる。


「行くぞ、アニマ」




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