第16話

「手術を予約したカラだ。アニマ、こいつを助けてくれ」


一昨日と同じ受付に俺はアニマを見せた。

受付は何か連絡をし、担架が来て、アニマを乗せて奥に行った。

俺はついていった。


「ちょっとあなた来ないでください」

「いやっ!!でもっ!!俺になんか出来ること…」

「ないです!!プロに任せてくださいっ!!」


俺は手術室の扉が閉められるのを、ただ見送った。


何時間も、病室で、待った。

白く綺麗な病院が、肌に合わないのか知らないが、吐き気が止まらなかった。

基盤店の彼女は、ずっと背中をさすってくれた。

何度か追い出されそうになったが、居座った。


夜が明けた。


奥から眼鏡をかけた白衣のおっさんが出てきた。


「アニマは!!アニマはどうなったんですか!!」


おっさんは首を振った。


「アニマさんの状態は酷く、人工臓器無しでは治療が厳しかったのです」

「人工臓器無しってどういうことだよ!?俺は人工臓器を買ったはずだ!!」


朝日が差し込んでくる。


「いや、そんなことはないはず」

「なんだって!?」


おっさんは近くに来た職員を呼び止めた。


「肺の人工臓器のストックはもうなかったよな」

「あーはい。もともと仮押さえ状態だったんですけど、昨日の10時からの手術中に患者さまの肺の傷つきがありまして、そこで患者さまの保護者さまが600万チェン払って買っていかれました」


昨日、手術、保護者、大金…。

『俺には12歳の娘がいる。そいつは病気で、治すためには金が要る。それは俺が稼いでやらなくちゃならない。明後日手術も決まっている』


俺が、過去を変えたから、サラが助かった。

俺が、過去を変えたから、アニマが死んだ。


人が死ぬなんて、それを変えるなんて、思っていなかったんだ。

もう最低限の改変しかしないと、心に決めていたのに。


「アニマさんの体を…」


何も聞こえない。聞きたくない。

俺がアニマを殺したんだ。


どうやって家に帰ってきたのかも分からない。

全てが冷たく、空っぽだった。

アニマがいない。

いないから。


―誰かを生かせば、誰かが死ぬ。そういう運命なのかと。

それならば、俺たちがもうこれ以上自分勝手に、変えるべきではない。


分かってる。分かってるんだ。

そんなことする権利はない。そんなこと許されない。


命を選んではいけない。


過去の改変は、最低限。


俺はアニマが操作していたディスプレイに向き合った。





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