第15話
ケースの中には120万チェンが入っていた。
人工臓器、貯めていたお金と合わせれば手術を受けられるだろう。
「明後日、肺の取り換え手術をやってください」
受付で、明らかに浮いているのも気にせずにはっきりと伝えた。
「明後日といきなり言われましても…」
「あいつは明後日が限界なんです。もう死ぬかもしんないんです」
「ですからお客様、人工臓器は貴重なもので」
「金ならある」
120万チェンをどんと机に置く。
「120万チェンだ。350万チェン残り家にある。足りるだろ」
「…。分かりました。一応予約は入れておきますが、本当に貴重なものでストックが一個しかないということを肝に銘じておいてくださいね」
受付の人は俺の圧に負けたようにそう言った。俺はしっかりと各所に連絡を入れるのを見届けて、病院を出た。
車はもう帰っており、夕焼けはもう暗闇に浸食されていた。
現在に帰って、アニマを、担いででもここに連れてこよう。
これはエゴかもしれない、俺の幻想なのかもしれない。
だけど俺にはアニマが死にたいとは思えないんだ。
「アニマ」
『…』
ヘッドフォンから声が聞こえてこない。
「アニマ…?」
『…』
呼びかけに応答がない。
「アニマ!!」
『…』
鐘がなった。鐘の下の時計には18:30と表示されている。
それを確認した瞬間に、順行が始まった。
ということは操作をしているということだから、アニマは生きているのか?
なぁアニマ、ただの嫌がらせだよな。
そうだと言ってくれ。
クローン場の奥の奥、うちに帰った。
『おかえりカラ』
その声がない。
「アニマ!!」
アニマはベッドを立てた状態のまま、胸を抑えて、悶えていた。
「アニマ!!」
ヘッドフォンはずり落ちている。
「い…ゃだ…あだ、やだ」
そう言うと、アニマは意識を失った。
アニマの周辺の白いシーツは全て赤く染まっている。
俺はアニマを担いで、外に飛び出した。
まだ息はある、脈はある、鼓動は自分のものかなんなのか分からない。
救急車というやつが中心地の方では走っているらしいが、こんなところには来てくれたためしがない。
路面電車に飛び乗ろうとしたが、人を担ぎながらは出来なかった。
中心地を目指して、綺麗になっていく道を汚いままの俺が走っている。
後ろからクラクションの音が聞こえた。
「乗って!!」
基盤店の、あの泣いていた女性だった。
俺は後部座席に乗り込んだ。
「中央病院です」
「分かった」
複雑に、運命が絡まっていることを、ひしひしと感じる。
アニマの死は、運命なのか。
女性店員は車がバラバラにならないギリギリにまでスピードを上げていた。
「アニマ、アニマ、アニマ、アニマ…」
俺は声をかけ、手を握り続けた。
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