第7話

『ハクオウ組の組長の隠し子である、ヒメ(20歳・女性)が、自宅アパートのベランダから姿を消した。数時間後心臓がもぎ取られた形で川に流されている所を発見される。

組関係の事件とみて、警察は動いている。

自宅アパートにはその時、同居人であるユキ(20歳・女性)がいたものの、何も見ていないという』


警察官から一応と渡された捜査書にはただそう書かれていた。

つまり、この事件は一周目では組長の隠し子であるヒメを殺すつもりで、無能なチンピラが背格好の似ているユキを、間違って連れ去って殺してしまったというものだった。死体が発見されていないだけで、もう逆行する時には既に死んでいたのだ。

二周目でその間違いは正された。その結果ヒメの出生から犯人の推察が容易になったわけだ。


警察官の後ろにはユキがいた。


「呪術師さん、お願いだからヒメを助けてよ!!

私の心臓なんかいくらでもあげるから!!」


ユキの叫び声は悲痛に響いた。


もう一度、やり直す。逆行する。馬鹿な俺はそう考えた。


アニマは運命という言葉を嫌う。科学的ではないと。

そんなアニマが、もはや偶然とは言えなくなった二回目の出来事に、運命を科学的に考えようとしていた。

誰かを生かせば、誰かが死ぬ。そういう運命なのかと。

対称性のやぶれ、アニマはそう言った。

どこかで釣り合いを保たなければ、という風に世界は動くらしい。

それならば、俺たちがもうこれ以上自分勝手に、変えるべきではない。


アニマは苦しい顔でそう結論づけた。


「俺が、もっと早くに、このことについて考えるべきだった…。俺の、時間逆行理論に対する考えが、甘かった…。

俺たちは、神様じゃない。命を選ぶ権利はない…んだ。

カラ、俺は君に二度も罪を背負わせた。

ごめん」


アニマは何度も謝った。そして、ディスプレイに何かを必死に書き込みながら、逆行理論の穴、対称性について考えているらしかった。

その必死な顔を見て、馬鹿な俺でも、どうしようもないということだけは分かった。

俺はヒメという、俺の中にいた人間が死んだという事実を理解して、初めて過去を変えることによる殺しについて考えることになった。


「飯もう食べらんないのか」





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