第6話 ヒメ
警察の事情聴取は短く、すぐに帰ることが出来た。たぶんこれも呪術師とやらのおかげな気がする。
「怖かった」
「本当だね」
僕の腕の中で彼女は震えていた。
僕と彼女はまだ喋れもしない時に、孤児院に預けられた。
劣悪な環境で、生き方は見て学ぶしかなかった。
5歳の時だったか、ユキが大切に育てていたネコのミーちゃんが、院の夕食になっていたことがあった。
珍しく肉料理が出た後、台所から毛皮が見つかると、ユキは泣き喚いた。
先生たちはユキに向かって言った。
『自分で守れもしないものは大切なものなんかじゃないのよ』
僕は腹がたってしょうがなかった。
そして僕はユキに魔法をかけた。
『ミーちゃんは僕たちとずっと一緒にいるから大丈夫だよ』
その日から僕がユキを守ろうと決めた。ずっと一緒にいようと決めた。
ユキは僕の大切な人だから。
今回も謎の呪術師に救われたみたいで不甲斐ない。爆発の時にもっとちゃんと彼女をかばってやりたかった。
「ねぇミーちゃんはいる?」
「うん。いるよ」
僕はこの魔法を、ユキが不安な夜にかけ続けている。そのせいで少しそういうものを信じやすくなったとは思う。
でもいいんだ。ユキは僕の魔法があれば生きていけるから。
僕はユキがいれば生きていけるから。
「煙草吸ってくる」
「うん」
僕はボロアパートのベランダに出た。
月が綺麗だ。
タバコの煙が混じった夜の空気を吸い込む。そしてベランダから、ベッドに聞こえるように言おう。
「ユキ、愛してる」
「私も」
ただそう言いたくなった。
呪術師が本当だったのなら、僕は感謝しても仕切れないな。
「え…?」
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