恋人誘拐事件
第4話
ベッドの周辺には三つのディスプレイとキーボード。
操作する時はベッドを曲げて、もたれかかりながら座っている。
そして俺が逆行している時、ヘッドフォンをつけてこちらの声を聞いたり、映像を見たりしながら、考えて命令する。
洗濯物を、バルコニーで干していると、扉が叩かれた。
「朝早くからすまないなカラくん。
また事件の依頼だ」
いつもの警察官三人と、その後ろに俺と同い年ぐらいの人がいた。警察官ではなさそうだ。
「今回は誘拐事件だ」
先々週の出来事、旧式基盤強盗事件を思い出し、俺はアニマがなんと言うかと思った。
断った方が良いだろうか。そんなことはしたことがないので出来ないかもしれないが。
「頼む、助けてくれ。僕の、恋人が攫われたんだ」
後ろにいた人は前に出てきて、大きな声で言ってから土下座した。
「カラ、この事件を受けよう」
いつの間にか起きていたアニマが言った。
「顔を上げてください。えーっと…」
「僕はヒメだ。本当にありがとう」
俺が差し伸べた手を、ヒメは断り立ち上がった。
警察官は依頼書を渡して帰っていった。俺はヒメも帰るんだと思っていたのだが、ヒメは見守らせてほしいとついてきた。
「ヒメさん、俺はアニマ。そっちはカラと言います。
俺たちは独自の技術でこの事件を…解決することができます」
アニマは防ぐというのをやめて、解決すると言った。
「警察から君たちは何か特別な力があると聞いている」
怪しい呪術みたいに説明されるのはムカつくが仕方がない。俺だって全く理解していないしな。
「今からその、技術を使いますので、外に出てもらえると助かります」
時間逆行技術は重要秘密事項だ。なんでもかんでも変えようと仕事がひっきりなしに来たら困るから。
少ない報酬でもアニマが情にほだされたら請け負ってしまいそうで、たまったものじゃない。
「何か、何か僕にできることはないか?」
ヒメは焦っていた。
「…これは俺たちにしかできないことなんです。どうか信じてください」
アニマは申し訳なさそうに玄関の方を指さした。
俺はヒメを玄関に送った。意気消沈しているヒメが出て行き、俺が扉を閉めようとするのを、ヒメの手が止めた。
「あぶねーな!!」
「カラ。頼む。僕の心臓ならいくつ捧げても構わない。
だからお願いだ。彼女を救ってくれ」
そう言って、今にも折れそうな階段を下りて行った。
捧げても構わないって、呪術じゃないんだから。
しかしそうやって焦ってしまうのは、なんだか自分にも重ねられるような気がした。
「カラ。始めよう」
アニマは依頼書をぱたりと置いて、ベッドを立ててディスプレイとキーボードを準備し、ヘッドフォンをつけた。
「おう」
俺はヘッドフォンをつけた。
ヒメの恋人、ユキが攫われたのは北の市場、クローン場の人間が言うのもあれだが、治安は酷いものだ。
しかしその周辺で安く食べ物を売っている場所なんてそこしかないから行くしかなかったのだろう。
二人は一緒に買い物をしていた。
柑橘類の店を見ていた時、ヒメは値切ろうと店主と争っていた。
一歩離れたところでその様子を見ていたユキは、次の瞬間攫われた。
ヒメと店主は、ユキが目だし帽の男に、黒いバンに無理やり乗せられる所を目撃している。
俺は北の市場にやってきた。
もちろん場所の移動というのも理論所はできる。しかし数時間の移動でも莫大な計算量となるので、場所は自分で動くことにしているのだ。
「準備完了」
目の前には柑橘類の店がある。
『こっちも大丈夫だ。行くぞ』
逆行の景色は、何度見ても慣れない。
『今回攫われた時間は、市場に入ったのは昨日の19:40頃、それから15分ほど経っていたと思うというあやふやな時間だ。カラを19:30に送る』
「了解」
内臓をさらけ出したネガの人間たちはビュンビュンと通り過ぎていく。
店が一度たたまれて、深夜になり、また出てきて…
「しまった!!」
『どうした?』
「市場の店は固定されてるわけじゃない。日によって立ってる場所が違うんだ」
逆行が終わると、目の前には鶏肉屋があった。
残りおよそ25分。まず柑橘類の店を探さなきゃいけない。
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