第2話

考えても仕方がないことは考えない。俺は頭を使う係じゃないから。

でも俺がぼんやりしてると、アニマはこんな町で生きていけない。


俺はヘッドフォンをつけなおし、基盤店に向かった。

時刻は22:13。あと24分で強盗がやってくる。

もたついている時間はない、ガラス扉を開くと呼び鈴が鳴った。


「いらっしゃいませ…お客様?」


中央にいた女性、犠牲者の一人である店員が俺の姿を確認すると怪訝そうな顔をした。

なんだ?なんか文句でもあるのか?こっちはお前たちを助けてやろうってのに。


『カラ、ちなみに言っとくと君の格好は基盤店にはおよそ似合わないよ』


俺の格好というのは、たくさんのポケットがついたオーバーサイズのズボンに、これまたたくさんのポケットがついたオーバーサイズのジャンパー。そしてアニマと繋がるカメラとマイクとスピーカーのついたヘッドフォンだ。

確かに、高級店に似合う格好じゃないな。

それこそ今から基盤を盗みそうだ。警戒されても仕方がない。


「あーっと…とりあえず、俺は怪しい者じゃないです」


俺は手を挙げて敵意がないことを表しつつ、声を一段階大きくする。


「職員の皆さんよく聞いてください。今からにじゅう…22分後。ここに強盗が来ます」


店内に小さく息をのむ音が響く、と思っていたが、俺を見る目が冷たくなっただけだった。

信じてもらえていないな。どうすればいい?こうしている間にも時間は過ぎてく。どうする、どうすれば信じてもらえる?

―それこそ今から基盤を盗みそうだ。


「俺はその強盗団の下っ端だ!!」


そう叫んだ。


「俺はこの計画の全部を知ってる。参加するはずだったから…でも良心が咎めて…なんとか抜け出してここに来たんだ!!

頼む信じてくれ。俺はここを守りたいんだ」


女性店員は、先ほどの冷たい目を困惑させて、奥に引っ込んでしまった。

左右に一人づついた店員も同じように行ってしまった。警備のマニュアルのようなものはないのかとため息をついてしまう。殺された三人はこいつらだ。

1分後、奥から三人の店員と、良い服着たじじいが出てきた。


「確かに、チンピラみたいな小僧だ」


じじいは俺を見てそう呟くと。壁に設置してあるボタンのカバーを手で割り、力強く押した。


「おい、じじい。今のでなんか対策になんのか」

「口の利き方もチンピラだな」

『あはははは言われてやんの』


アニマまで煽ってきやがる。

俺はアニマの声は俺にしか聞こえていないことも関係なしに怒ろうとした。

その時、店の重いシャッターが一斉に降りた。


「チンピラの言葉を信じてみようじゃないか」


あと18分。これで旧式基盤強盗事件はなかったことになりそうだ。


あと3分。店員は今外に出るのも危険だろうということで、全員で店の奥にいた。

今までは、もう発生している事件の犯人を、ただぶん殴っていればよかった。それはそれでもちろん大変なのだが、今回みたいな緊張はない。

くっそ、冷や汗が止まんねぇよ。


あと2分。シャッターを叩く音がした。店員たちは耳を塞ぐ。強盗はまだなはずだ。

外に一台だけ設置された防犯カメラの映像を見ると、ただのおじさんだった。おじさんは悪態をつきながら帰っていった。


「たぶん、基盤を売りに来たんだろう。うちは買取もやってるから。

もしこれで強盗が来なかったらうちは損したことになるな」


あと1分。じじいはプルプル震えているくせに、そんな冗談を言った。


あとゼロ分。車のエンジン音がうるさく響く。強盗だ。


「シャッターは大丈夫なんだろうな?」

「あれが破られるならもう死んでも仕方がないな」


それはじじいだけだ。そう思いながらも、俺はじじいの言葉を信じてみることにした。

監視カメラはすぐに見つかり、壊された。この壊された時刻で強盗犯が来た時間は割り出せた。しかし映像が復元できずに事件は迷宮入りというわけだ。


どれほど経っただろうか。何時間もしたような気もするし、数秒だった気もする。

声を抑えて泣いている店員の背中をさすっていると、もう一度車のエンジン音がした。

音が大きくなったら、つっこんでくる。


音は小さくなっていった。

強盗は去っていった。


『やったー!!』


アニマは子供のように喜びの声を上げた。その後に酷い咳。


「あんまりはしゃぐな」


俺の言葉は普通、不思議に思われるところだが、じじいがはしゃいでいたため、それに向けた言葉だと思われた。


仕事は終わりだ。報酬はどうなることやら。







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