第3話 嘘つきアイドル

 翌日、わたしは整頓された服たちの中から、動きやすいカジュアルなものを選び玄関を出た。


 …車にはすでにあの男が。


「…今日は珍しく休みだったよな。どこに行くつもりだ?」


「…あなたのことですから、調べは付いてるんじゃないですか?」


 そう言うと、都内のゲームセンターにやって来たわたしとタツマ。


 実はわたしはゲーマーアイドルという一面も持っている。この店はいきつけで、業界でも公認されている。


「…ゲーセンねぇ」

「いきますよ?今日はコテンパンにのしてあげます!!」


 わたしはこれでもゲームには相当の自信があった。プロゲーマーとも対戦経験があり、勝率は7割。この男など敵にならない。…そう自負していたのだが…。


 太鼓の超人、えんまレベルフルコンボ。


 ダウンタウンファイターズ6、

三先パーフェクト二回、

スーパーアーツフィニッシュ四回。


 ダンスマニアIV、レベルマックス

12曲パーフェクト。


 …わたしの完敗だった。


 バケモンだわ、こいつ…世界大会でも優勝できるんじゃないの!?


「どうした?こんなもんか?」


「すげえ、あの駒込麗が完封だ!!」

「ねえねえ、あの人カッコよくない?」

「完璧だ…ゲームの神だ!!」


 くぅ…、私が自慢できる唯一の趣味なのに!!これじゃ逆効果じゃないの!!


「あーっと、忘れてました!!今日はボイトレがあったんだった。さー急がないとー」

「ん?そんな予定、聞いてないぞ?」


 そりゃそうだ。この場を離れる嘘ですよ。急いでスタジオ抑えなきゃ…。あーもう、せっかくの休みだったのに!!



 そして無理やり開けてもらったスタジオにわたしはやってきた。もちろん不本意だけど、あの男も当然着いてくる。



「先生、ごめんなさい無理言っちゃって」

「いいよ、君のやる気は美徳だ。始めようか、タツマ君も久しぶりだね」


「え?知ってるんですか、先生?」

「うん。業界内では有名人だからね、彼」

「へー…」


 癪に障るこんな男がねぇ…。世の中わかんないわ、ホント。


 そしてわたしは持ち歌を軽く2、3曲声出しした。


「うんうんいいねえ。やっぱりいい声してるよ」

「ありがとうございます、先生」



どうだ?わたしの事少しは見直したか?今頃、感動で泣き出して…。


「…お前、アイドル辞めた方がいいよ」


 …は?


平然としているそのタツマの言葉に、わたしに今までにない怒りがこみ上げた。


「なんですってェッーーーーーッ!?」


「いや、そうじゃなくてさ。歌いたくない歌を、歌うことは無いってことだ。無理すんな」


「…え?」


「なんていうかさ、本当に歌いたい歌があるんだろ?そっちの方が向いてるよ。アイドルソングよりさ」


「あ、アンタになにがわかんのよ…!!」


「…じゃあ、何で泣いてんだ?」


 あんな男に…見透かされた。でも、正解だ。私自身ですら半信半疑だった。なんで…なんでわかんのよ…。最低のくせに…!!


「お前、才能あるよ。正統派の歌手でも十分行けると思うぜ?」


「うっさいばかーッ!!」


 思わずわたしは手が出たが、護身術できれーに固められた。


「痛い痛い痛い痛い、ギブギブギブギブ、ちょっ…ちょーっ!!」


 不思議そうな顔をしているタツマ。何?みたいな。


「ばかかーーッ!?タップしてんじゃんよー!!」


「ん」


「だからギブギブギブ、なんで!?何なの、なんもしてないじゃん、わたし!!」


「ん」


「い~~~~ッ!!やめ、やめろぉォーーーッ!!」


こうして私はアイドルを辞めることを決心し、事務所にその旨を伝えることにした。


…痛い…。

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