第5話 好きだったよ

登場人物


山西やまにし太希たいき

性別:男

年齢:24

身長:172


四条しじょう七海ななみ

性別:女

年齢:24

身長:156




夜の病院はとても静かで誰も居ない。

そんな病院の椅子で太希たいき七海ななみは並んで座っていた。


「・・・前に水樹みずきに聞かれたことがあったんだ。」


「なにを?」


そう七海は優しい声で聞き返す。


「オレ達の関係はいつまでも続くと思うかって。」


「なんて答えたの?」


「・・・続かないと思う…って。」


「そう。」


「そしたらあいつ…そんな未来、寂しくないのかって聞いてきたんだ。」


「今度はなんて答えたの?」


「・・・その時になってみないと分からない…って」


「・・・寂しい?」


そう七海が聞くと太希はポロポロと涙を流す。


「・・・寂しいなんてもんじゃ…ないな。もう…自分の感情が分かんねぇよ。

こんな未来…予想してなかったんだ。

もっと…幸せに終わると思ってた。

どっちかに恋人ができて…それを祝って…終わるって…そんな未来を…オレは…想像してたんだよ。違う…違う…よ。こんな…未来…違う…よ。」


そう太希の止まらない哀しみは次第に太希の心を黒く締めつけて吐きへと変える。


その吐き気にえられなくなった太希は急いでトイレに駆け込む。


太希は便器に自分の心を黒く締めつけるものを吐き出す。


「おぇ。おぇ。おぇぇぇぇ。」


黒いものを吐き出すたびに太希の頭と感情は白く染められていく。


🧹


太希がトイレから出てくるのを七海は待っていた。


「待ってたのか。」


そう太希が七海に話しかける。


「今のあんたを1人にすると水樹の後を追ってきそうだったから。」


そう七海が答える。


「・・・なるほど。その考えはなかったな。」


そう太希は崩れた微笑みを見せる。


「そんな事したら、天国あっちで水樹にどやされるわよ。」


「はは。もう1度会えるなら殴られるのも悪くないなぁ。」


そう太希が言葉を返すと七海は鋭い目を太希に向ける。


「それ、本気で言ってる?」


そう冷たい口調で聞かれると太希は歩き出す。


「冗談に決まってんだろ。」


そう太希は七海の方を振り返らずに答える。


「ねぇ。山西やまにし君。」


そう名前を呼ばれて太希は足を止めると振り返る。


「山西君は水樹の事、好きだったの?」


そう質問する七海の目は真剣なものだった。


その問いに太希は正直に答える。


「好きだったよ。」


🧹


自分の家に帰った太希はベッドに倒れ込む。そんな太希はズボンのポケットに違和感を感じる。


その違和感の正体をポケットから取り出す。


太希の手には水樹の家の合いかぎが握られていた。


「・・・あぁ。水樹の親父さんに返すの忘れてたな。」


そう太希は合い鍵を見つめながら呟く。


そんな太希の頭には病院での親父さんとの会話がよみがえる。


🧹


「水樹から聞いてたよ。1年ほど前から部屋の片付けに来てくれてたんだって?」


そう親父さんが太希に話しかける。


「えぇ。」


そう太希は静かな声で返事をする。


「あいつが実家うちに住んでる時は私があいつの部屋をよく片付けたものだ。」


「…それは大変でしたね。」


「でも、それが嬉しかったんだ。

女の子は父親に部屋に入られるのを嫌がるものだと思ってから。

でもあいつは違った。毎回、私が部屋を片付けた後に嬉しそうに微笑んで“ありがとう。お父さん”って言ってくれるんだ。

それが嬉しくてねぇ。」


その親父さんの話を聞いて太希はいつものあの優しい微笑みを思い出す。


「・・・オレも同じです。

最後、見送る時のあの微笑みを見るために毎週、片付けに行ってたんです。

どんなに片付けが大変で嫌になっても、あいつの最後のあの微笑みを見たら全部忘れるんです。そして…来週も来ようって思うんです。・・・そうか…1年以上もそんな日々…続けてたんだな…オレ。」


そう太希は声をふるわせる。


🧹


合い鍵を強く握ると太希は自分の家を出る。


太希が向かったのは水樹の家だった。

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