14話
それから暫くして、この騒動に気づいた月見さんが、警察を呼んでくれた。
最後まで鬼のような形相をして支離滅裂な言葉を吐いていた三上さんは警察に逮捕された。
やがて、彼女は自分がやってきたことを全て自供し、そして月見さんの事も全て話してしまったそうだ。
その話を聞いた僕は驚きを隠せなかった。まさか彼女がそこまでしていたなんて─いや、そもそも何故そんな事をしたのかと疑問に思ったが、それはすぐに分かった。月見さん曰く、”死神”は彼女にとって憧れの存在であり目標であったのだそうだ。
しかしある日を境に姿を消してしまい、それっきり連絡が取れなくなってしまったのだという。そこで彼女は独自に調査を始め、ついにその正体を突き止めたのだがそれが”死神”─いや、月見さんの友達である三上さんだったのだ。
彼女は密かに憧れを抱き続け、いつか会いたいという気持ちと会えないという葛藤に苛まれていたのだと言う。そしてその感情が歪みに歪んであんな凶行に及んでしまったのだそうだ。
その話を聞いた僕は、何とも言えない気持ちになっていた。彼女にとっては憧れの存在だったものがいつしか恐怖の対象となり憎しみへと変わっていったのだろう。その経緯を聞いている内に僕は胸が締め付けられる思いだった。
「…死神が、友人か…恐ろしいものだな」
僕がもし、月見さんの立場だったらと考えたら酷くゾッとした。でも、その死神に会うために自分の命を投げ打とうとした月見さんにも恐怖を覚える。
人間とはひどく恐ろしく、時に惨い事を考える。僕は、これだから、この世界に対して生きていく自信というものを亡くしたのだという事を再確認させられた。
”死神”を装った男に、二度も助けられた。せめて、僕は裏社会の人間ではないからもう二度と関わることは無いかもしれないけれど僕は彼に感謝をしたい。
そう思っていた矢先、僕は彼が持っていたビニール袋を漁っていた。中には、見慣れた駄菓子と一緒に一枚のメモが入っていたのだった。酷く歪んだ文字で書き殴られた電話番号と住所。僕は、その文字の正体を察して微笑む。
またいつか時間が出来たら、月見さんと一緒にお礼に行こう。
そう思いながら、僕は部屋を出た。
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