13話
______ 次に目を覚ました時、其処は病室だった。
ふと横を見ると、月見さんと三上さんがベットに突っ伏して寝ているのが視界に写った。その寝顔はとても安らかで綺麗だと思ったと同時にとても可愛らしくて見ていると頬が熱くなるのを感じた僕は慌てて布団を被ったのだがそれとほぼ同時くらいに部屋の扉が開かれた音がしたので反射的にそっちの方を向いてしまったのである。
そこにいたのは何と”死神”─いや、もう違うのか。彼は僕を見て酷く悲し気な顔をしていたのだった。手には、ビニール袋が握られている。
「…椹木、さん…?」
「無事か、渡。」
酷く不安げな表情で、彼は言う。今まで見てきた、あの恐ろしい雰囲気は掻き消えている。
「三上…いや、俺の標的が迷惑を掛けたな」
僕は驚いた。まさか、椹木さんがそんなことを言い出すとは思わなかったからだ。
「標的…?どういうこと…?」
「…ああ、この際だから言わせてもらう。俺はお前らの知ってる”死神”じゃない。本当の死神は、あいつ三上…三上美紀。本名、
声が出なかった。衝撃的過ぎて、頭が混乱し始める。
この人は何を言っているんだろう。いや、でも嘘を言ってる様子はなさそう……そもそも、どうしてそんな事が分かるんだろうか。
僕が唖然としている様子を見た彼は、続けた。
「俺が、あいつの提示する”死神”を演じる事で誘き寄せていた。まさか、すぐにあんな会えるとは思ってなかったがな」
数日前の出来事を思い出していくうちに合点がいった。確かに、普通に刑事だとしたら一般の人をすぐに”囮にしましょう”だなんていうもんか。
頼れる女性だと思って、僕もその内面を知らず知らずのうちに信じてしまっていたのだ。もし、この椹木さんの提示した話が事実なのだとしたら、
裏社会の情報網を使って月見さんの知り合いになりすまし情報を偽装することも簡単にできるはずだ。
「…じゃあ、貴方は本当に殺してはいないんですね…?」
「そうだ。そもそも俺は若い子供を殺す趣味はない。つったく、嫌な役やらされたもんだぜ。」
呆れたように椹木さんは、苦笑した。
しかし、これで一つだけ合点がいく。きっと、三上さんは僕が”死神の正体”に気付いたこの時点で口封じのために殺す時を待っていたのだろう。
そしてその罪を椹木さんに擦り付けるつもりでいたのだ。月見さんの為に─
そう思った瞬間だった。突然大きな音を立てて扉が開き、そこには息を荒くした三上さんが立っていたのである。
その表情は険しく、こちらを睨みつけているようだったが瞳の奥には恐怖の色が見えているように見えた。まるでこの空間にいることが怖いかのように、ガタガタと肩を震わせながら立っている彼女を見て僕は負けじと睨みつけた。
「お出ましか、御門。お前も腕が落ちたな」
「黙れ死神其処にいる奴から離れろ。ぶっ殺すぞ」
「おーおー、女のヒステリックは怖え。ま、お前のやってる罪に比べりゃヒス女になっても仕方ねえわな」
椹木さんは三上さんを恐れる様子もなくニヒルな笑みを浮かべる。その様子を見た、三上さんは更に苛立っているようだった。
これはまずい。そう思った僕は慌てて三上さんに近づこうとすると、それを制止するかのように彼女は叫んだのだ。
それは今までに見た事のないくらい恐ろしい形相だった。まるで別人のような─いや、これが彼女の本当の姿なのかもしれない。
そして次の瞬間には椹木さんの目の前にはナイフが突き刺さっていた。間一髪で避けたつもりだったようだが、頬に赤い線が走り血が垂れるのを見た。
その行動を見た三上さんは更に怒り狂った様子で僕に向かって突進してくる。しかし、それを翻すかのように椹木さんは慣れた手つきで彼女の手を掴んだ。
「…一般人には手を出さない、約束じゃねえのか。」
そう静かに言う彼の目は、まるで別人のように鋭いものだった。その迫力に押されたのか、三上さんの動きが止まる。そしてそのまま床にへたり込んでしまったのだ─が、それも束の間。すぐに立ち上がりまたナイフを振り回し始めたのだ。
しかしそれを全て避けると、今度は足払いを仕掛ける。バランスを崩した彼女はその場に倒れてしまったがそれでも尚立ち上がろうとする彼女に容赦なく拳骨を喰らわせると、ようやく大人しくなったのである。
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