12話

「木橋君…!」


 僕を見つけた月見さんは、柔らかで穏やかな笑みを浮かべていた。まるで、”死にたい”と思っていた人間とは思えない表情だった。彼女が倒れる寸前、最後に見た弱々しい姿とはまるで別人だ。

 しかしその表情の裏には一体どんな闇が隠されているのかを考えると背筋が凍るような感覚がする─だが今はそんな事を考える余裕はないと思い直す事にした。

 それよりも大切な話があるからだ─そう思い直してから口を開くことにした。


僕の顔を見るなり慌てた様子で駆け寄ってくると抱き付いてきた彼女に対して僕は一瞬何が起きたのか分からず固まってしまっていたのだが、


「…体の調子はもう大丈夫なの?」


 そう返すと、彼女は慌てた表情をする。こんなに表情豊かな子だったっけな、いや。もしかしたら、今の姿が月見さんの本当の性格なのかもしれない。


「うん、何とか。もう少し入院して、リハビリしたらまた戻れるよ。」


「そっか、それは良かった。」


 そうして話し合う僕たちの様子の間に、三上さんが近づいてくる。


「あっ、三上さん!」


 僕が声をあげた瞬間だった。その一瞬、左脇腹に鈍い痛みが走った。何かで貫かれるような、鋭さを兼ね備えた痛み。

 恐る恐る腹部を見ると、其処にはサバイバルナイフが深く刺さっていた。ゆっくりと後ろを振り向くと、怯えた表情の月見さんがこちらの様子を伺っている。

もう一度前を向くと、鬼の様に恐ろしい表情に豹変した三上さんが僕を睨みつけていた。



「お前のせいだ、お前のせいで”死神”を逃した。計画は失敗だ。俺の計画が台無しだ。」



 今までの女性らしさは掻き消えて、男口調になって豹変した三上さんの方がまるで”死神”の様な恐ろしさを醸し出している。

 ぼたぼたと垂れてくる赤い鮮血と共に、眩む視界と本当にこのまま今から死ぬんだという恐怖が入り交ざってもう何を逝ったらいいんだろうか。

月見さんの悲痛な泣き声も聞こえてくる。ああ、このまま死ぬのかな。

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