11話

そしてゆっくりと扉を開いた先に広がる景色は以前と変わらない殺風景なもので、屋上にはいつも通り椹木がいた。相変わらず煙草を吹かしており、傍から見ると不良にしか見えない姿だったが不思議と嫌悪感はなかった。

 それどころか親近感すら湧いてくる始末である。そんな彼に対して僕は意を決して声をかけることにしたのだった─すると彼はゆっくりとこちらを振り向くなり微笑んで見せたのだ─それはまるで別人のような優しい笑みだった為思わずドキリとしてしまう程だ。

 僕は一瞬言葉を失ったがすぐに我に帰るなり慌てて口を開く。しかし上手く言葉が出てこないまま口をパクパクさせているだけの僕に彼は再び微笑むと静かにその場を後にしたのだった─そして後に残されたのは静寂だけだった。



 その後、帰宅した僕を待っていたものは意外な人物であった。それは他でもない三上さんだったのだ。彼女は僕の姿を見るなり駆け寄ってくるといきなり抱き付いてきたのだ─その行動に驚いた僕は思わず固まってしまったが、すぐに我に帰るなり彼女を引き離したのである。すると彼女は少し残念そうな表情を浮かべた後で僕にこう告げたのだ。


 「月見ちゃんが目を覚ました」


と。それを聞いた瞬間、僕の心臓は大きく跳ね上がったのを感じた─しかしそれと同時に嫌な予感を覚えたのも事実であった。何故なら彼女が記憶喪失になる前の最後の記憶は”死神に命を狙われた”という恐ろしいものだったからだ。


 そう思うと居ても立っても居られなかったので急いで病院へ向かう事にしたのだが、道中でふと疑問を抱いた事があった。それは何故三上さんが僕の家に来たのかという事である。

 彼女の家は隣町にある為、わざわざここまで来る理由は無いのだ─それに彼女は月見さんの親友であり家族ぐるみの付き合いがあると言うが……それでもおかしいと思うのは当然だろう。そもそも二人は接点が無いはずであるし、友達なら直接会いに行けば良いだけの話だ─なのにわざわざ僕を呼びに来たということは何か理由があるはずだと思ったのである。しかしいくら考えても答えは出ず、結局そのまま病院へ向かうことにしたのだった。

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