2話
「おーい!渡!」
「あ……うん! 今行くよー!」
僕は遠い過去の記憶から現実へと引き戻された。目の前にはクラスメイトの春風美姫がいる。彼女は僕がこの世界において最も親しくしている人物だ。見た目もそこそこ巨乳で愛嬌のある顔をしていて、男子人気も高い。そんな彼女と何故仲良くなれたのか自分でも謎だが僕は感謝したい。
「はいよ、学級日誌」
僕は学級日誌を担任の鈴木先生へ提出する為に職員室へと向かっていた。すると突然美姫が着いてきている。あーいい香りだな。心地よい、いい香りだ…なんてことをぼんやり考えていると、突然美姫が口を開いた。
「ねえ渡……最近なんかあった?」
「え? いや別に何も……」
「その……なんていうか、思いつめてる感じがしてさ」
「大丈夫、大丈夫だよ美姫。僕は全然平気だから」
不安そうな表情をしている美姫を前に、僕は明るく振る舞った。心配をかけるわけにはいかないからだ。っていうか、僕の一時の迷いで死のうとした事実を知られたら僕が恥ずかしくて消えてしまいそうだからっていうのもあった。
「うん……わかった!じゃあね!」
「また後でね」
美姫は教室へ戻って行ったのだった。そうして職員室へ着いた僕は、日誌を副担任の先生へ渡すと、いつも通り自分の下駄箱へと向かっていた。しかし僕の足はそこで止まったのだった。
「木橋、ちょっと来い」
何故か、下駄箱の前で待ち構えていたのは担任の鈴木先生だった。僕は言われるがままに着いて行く事にした。呼び止められている以上、行くしかない。しかし何をしたのか見当もつかない。
「あの……僕何かしました?」
「ああ、したな。お前、春風に何を言ったんだ」
「え……?」
先生は怒りを露わにしながら僕を睨みつけてきたのだ。その迫力に気圧されながらも、必死に言葉を探す。まって、なんか言ったっけ?上手く思い出せずしどろもどろになってしまう。
「いや……別に何も言ってないですよ? どうしてですか?」
「とぼけるな! 春風が泣きながら俺の部室に来たんだぞ? 渡から…傷つけられたって!」
「違うんです先生、本当に僕は何も……!」
先生が手を上げる。殴られる─そう思った瞬間、僕の身体は震えていた。しかし先生は僕に背を向けると、そのままどこかへ行ってしまった。どっと肩を下してため息を着く。そりゃそうだ。美姫みたいなやつが、僕みたいなやつと絡んでる方がおかしかったんだ。自信無くしそう。あー…辛いなぁ。
「何なんだ一体……」
一人残された僕はただ呆然と立ち尽くしていると、後ろから肩を叩かれた。振り向くとそこに立っていたのはクラスメイトの女子だった。名前は確か─そうだ、月見さん。眼鏡を掛けた黒髪ボブの幼気な少女。しかし、クラスでは一切言葉を発さず本を読んでいるだけでミステリアス的要素を兼ね備えている子だ。そんな彼女に声を掛けられるなんて想定外で、思わず僕は驚く。
「大丈夫? 渡君」
心配そうにこちらを見つめてくる月見さんに、僕は思わずドキッとした。彼女はクラスの中でもトップクラスの美少女だ。美姫も負けず劣らずだが、また彼女とは違った良さがあるわけで。そんな子に心配されれば誰だってそうなるはずだ。
「あ……うん大丈夫だよ。心配かけてごめんね?」
僕が慌てて答えると、彼女も安心したのか笑顔になる。それから少し間をあけてから口を開いた。
「ねえ渡君、放課後時間ある?」
「…え? …あ、うん」
突然の誘いに驚きながらも何とか返事をすることができた。
「よかった、ちょっと話があるから屋上に来てくれる?」
月見さんはそう言うと自分の教室へと戻って行ってしまったのだった。一体何の話だろうと思いながら。
そうして僕は僕は言われた通り屋上へと向かう事にした。階段を上っている間ずっと心臓の鼓動が早くなるのがわかる。
(もしかして……告白とか?)
そんな淡い期待を胸に秘めながら扉を開けるとそこにはすでに先客の姿があった。それはなんと美姫だった。彼女は僕の顔を見るなり驚いたような表情を見せる。
「え!? なんで渡がここにいんの!?」
「いや……その、月見さんにここに来るように言われたからさ……」
僕がそう言うと美姫はどこか納得したような表情を浮かべる。そして二人で並んで座ると沈黙が流れ始めたのだった。
(気まずい……)
何か話さなくてはと思い話題を探しているうちに一つの疑問が浮かんだので聞いてみる事にする。
「ねぇ美姫」
「ん?なに?」
「僕のこと嫌いになったの?」
そう聞くと彼女は顔を真っ赤に染め上げてしまった。僕は慌てて謝る。
「ごっごめん!別に答えたくなかったらいいから!」
すると彼女は小さな声で話し始めた。
「だって……渡、最近なんか様子がおかしかったじゃん?だから心配になってさ…
先生に、言ってもらったら治るかなって」
「そっか…」
僕が礼を言うと美姫は照れくさそうに笑ったのだった。いやにしても荒療治過ぎるだろ。思わず疑っちゃったじゃないか。でもやっぱいい子だ、こんな僕にも優しくしてくれてるんだから当たり前か…。
そして暫くしてから月見さんが屋上へやって来た。
「ごめんね二人とも待たせちゃって」
「いいよ、大丈夫!」
「そうだよ、待ってる時間渡と話してたしね」
月見さんはそう言うと僕たちの前に座った。それから少し間をおいてから話し始める。その内容は衝撃的なものだった。
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