第百六十話 ぷく顔ひめちゃん
聖さん、テスト期間で体重が増えたようだ。
「ドッグトレーニング作戦、勉強のモチベーションを向上させることに効果はあったのですが……」
俺の隣に座るひめは、紙コップに入ったオレンジジュースをストローで飲みながら、聖さんをジトっとした目で見つめている。
その視線に耐えきれないのか、聖さんはひめから目をそらしていた。
「だって、勉強のためだから仕方ないでしょっ。頭を使ったら糖分を使うし?」
「お勉強中は良いのです。でも、お勉強が終わってもずっと食べていたのがダメなのです。お姉ちゃんは『待て』ができないのですか?」
「……い、犬扱いしないでっ。うぅ、ひめちゃんが厳しいよぉ」
ひめの言葉は反論の余地がない正論である。
聖さんは半泣きになりながらフライドポテトを食べていた。いや、叱られている時くらい、食べるのは控えた方がいいかと。
というか、体重が増えたのならポテトをあげたのはまずかったかもしれない。
「聖さん、ポテト二つは食べすぎな気が……」
「え? なに?」
「いや、これ以上食べたら……」
「聞こえないなぁ。よーへーからもらったポテト、美味しいよっ。ありがとー!」
なるほど。返す気はないのだろう。聞こえないふりをして、ポテトを美味しそうに頬張っていた。
……うーむ。
正直なところ、たくさん食べる人は嫌いじゃなかったりする。気持ちの良い食べっぷりは見ていてなんか爽快だ。テレビでも、たまに大食い系の番組をやってたら見ちゃうんだよなぁ。
なので、聖さんに対して強く出られない。
それに今日は、聖さんが赤点を取らなかったお祝いでもあるのだ。厳しくするのはためらってしまう。
そしてたぶん、ひめも同じような気持ちを抱いているのだろう。
「……お姉ちゃんへのお小言はこれくらいにしておきます。陽平くん、そういうことなので次からは気を付けてください」
あるいは、食欲に溺れた聖さんに呆れているのか。
これ以上は何も言わないことに決めたようで、俺の方に注意を促してきた。
「分かった。気を付けるよ」
「陽平くんは優しいので、お姉ちゃんを甘やかしてしまいますからね。時には厳しくしないとダメですよ」
今度はなぜか俺が叱られていた。怒りの矛先が変わっている。
……こういう時に、こんなことを思うのは良くないと思うんだけど。
叱っている時のひめが結構かわいい。
いつもよりちょっとほっぺたが膨らんでいて、なんだか愛らしいのだ。
そのせいでついつい、頬が緩んだ。
「むぅ。陽平くん、真剣に聞いていますか? お姉ちゃんがこのままだとぷくぷくになっちゃいますよ?」
俺の表情が緩んでいたからだろう。
そのせいですっかり、ひめはご機嫌斜めだった。
「ごめんごめん。そうだよね、体重は気を付けないとね」
「はい。今はまだ若いおかげで代謝も高いのですが、年を重ねると脂肪がつきやすくなってきます。その時に食欲を制御する理性がないと、後々にたいへんなことになっちゃいますからね」
慌てて謝ったが、まだ機嫌は直りそうにない。
ぷくーっとほっぺたを膨らませたままだった。
(いちいち、かわいいなぁ)
笑った顔はもちろん、普段の無表情も、それから怒った顔も……ひめは全部が愛らしい。
「うふふ。ひめちゃん、フグみたいになってるよ~」
聖さんも、ひめの怒っている顔が嫌いではないのかもしれない。
もしかしてこの人、ひめがのぷくーっとした顔が見たくてわざと怒られているのだろうか。
「誰のせいでこうなっていると思いますか?」
「え? よーへーのせいでしょ?」
「違います。元々はお姉ちゃんのせいです……決めました。今年の夏休みは、ダイエットしましょう。わたしも手伝うので、元の体重に戻してください」
「えー!? ひ、ひどいっ。ダイエットやだぁ~!」
……いや、単純に聖さんがだらしないだけか――。
//あとがき//
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