第百四十六話 妹が可愛すぎる件について
……そういえば初めて、本性に近い部分を聖さんにさらけ出した気がする。
常に良い面を見せるように意識していた。嫌われないように、関係性を壊さないように、なるべく気を張っていた。
でも、そればっかりだと聖さんの誤解を生む可能性があるのだと、今回の会話で思ったからこそ……あえて、自分の醜い部分もしっかりと見せた。
大空陽平という人間は、普通に打算的で裏腹のある人間である、と。
根っからの優しい人間というわけじゃなくて、自分のために人に優しくしている利己的な性格である、と。
自分の口で、ハッキリと聖さんに伝えた。
それに対して彼女は何を思ったのだろうか。
「あーあ。見損なったなぁ」
……まぁ、そうなるか。
俺の責任だ。自分を偽っていたわけではないのだが、意図的に良い印象だけを持ってもらえるような言動をしていたからこそ、こうして幻滅されるのだろう。
と、俺は思っているのだが。
「――なんて言うほど、私だって素直でかわいい女の子じゃないんだけどね」
……幻想を抱いていたのは、あるいは俺の方だったのかもしれない。
聖さんは、笑っていた。
いつものように、ゆるくて気の抜けた笑顔である。
俺の話を聞いてなお、彼女は平然としている。そんなところが、得体の知れなさを醸し出している。
やっぱり、ひめの方が分かりやすい。
そして聖さんは、まったく読めない。
失望や幻滅されているのかと思っていたのに、意外とそうでもないようだ。
「なんか安心しちゃった。よーへーって、ちゃんと『人間』だったんだなって」
「……さすがに自分を人間らしくないとは思ってないけど」
「ん-、どうかなぁ。私はちょっとだけ、不思議だな~って思ってたよ?」
どうやら聖さん、俺について違和感を覚えていたらしい。
自分としては変なところなど見せたつもりはないが……いや、それが逆に不自然だったのか。
「男の子らしさがない男の子って、すっごく女の子にとって都合がいいなぁって思ってたの。見返りなんてあげてないのに、尽くしてばっかりなんてどう考えてもおかしいでしょ?」
「別に尽くしてたつもりはないよ」
「いいや、尽くしてるよ。私のような美少女がこんなに近くにいるんだよ? しかも結構、君に対して気をゆるしている。押せば受け入れてくれそうな距離感にいる。なのに何もしないなんて、尽くしてるってことにならない? 君が見返りを求めたら、ちゃんとお返しをしてあげられる程度には信頼しているよ……ほら、よーへーが望めば、手が届く位置にいるのになぁ」
そう言いながら、聖さんは俺に手を伸ばした。
『触りたかったら触れば?』
そう言っているように感じる。
でも、手を伸ばそうという気にはなれない。
なぜならそれは、あの子との関係を壊すリスクを伴っているから。
「でも、俺が求めているのはそれじゃない」
「じゃあ、何を求めているの?」
「……ひめの気持ち、かな」
「ふーん……つまり、よーへーがもらっていた報酬は、ひめちゃんの笑顔ってこと?」
違う。そんなに綺麗なものじゃない。
俺が欲している報酬は――
「ひめちゃんからの『好きの気持ち』とも言えるのかな?」
――それだ。
ひめの好感度。あるいは好意。それを得るために、俺は聖さんに対してそういう人間であることを振舞っている。
「ごめん。聖さんのためを思っているわけじゃない……やっぱり俺は、あの子に対して強い思いがあるから」
俺の行動原理は、全部ひめに収束する。
それほどまでに、俺はあの子に心を掴まれている。
……話していてやっと分かった。
俺はひめに対して、強い執着があることを。
だからこそ、聖さんに何も求めていないのだ。
そんな俺に対して、彼女は――やっぱり、笑っていた。
「……うふふ♪」
しかも先ほどよりも、嬉しそうに。
まるで、俺の答えに喜んでいるかのように。
「よーへーとは気が合いそうだよ」
「……今の話でそうなるの?」
おかしな人だ。本当に。
まさか、否定されることを肯定されるなんて。
「うん。だって、私よりひめちゃんが素敵だって分かってる……私もそう思ってるから、すごく気が合うなって思ったの」
いや、違うか。
聖さんは、自身が否定されることに対して何か思っているわけじゃない。
ひめが肯定されていることに、喜んでいるのだ。
「いいんじゃない? 打算的でおなかが真っ黒でも、よーへーが私にすごく親切なことには変わらないもん」
おなかが真っ黒……腹黒いと言いたいのかな?
さすがにそこまで腹に一物を抱えているわけじゃないけど。
「よーへーと一緒にいるとやっぱり居心地がいいなぁ。『価値観が合う』ってこんな感じ?」
「……まぁ、そうなのかな」
「うん。だから、私は全然気にしないよ~……気にせず、ひめちゃんのことを大切にしてあげてね」
……この人、俺が思っている以上にシスコンだぞ。
まさか、自分よりも妹の方が大切と言われて、喜ぶなんて。
どうやら聖さんは、妹のことを溺愛しすぎているみたいだ――。
//あとがき//
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