第百二十五話 久しぶりの久守さん
基本的に、放課後はいつもひめとこうやって二人きりで過ごしているのだが。
今日は珍しく来客があった。
「あ! いたいた、どうもっす!」
ハキハキとした声を響かせながら教室に入ってきたのは、日焼けした肌が印象的な女子生徒。
後輩で、かつ新聞部の久守灰音さんだった。
「星宮先輩、大空先輩、失礼するっす!」
見た目に反して文化部の彼女だが、中学時代は陸上部に所属していたようで礼儀に関しては叩き込まれているらしい。体育会系の上下関係は厳しいと聞いたことがある。まぁ、俺は小学生のころからずっと帰宅部なので、そのあたりには疎いのだが。
「久守さんです。今日も元気いっぱいですね」
「はい! 星宮先輩こそ、今日もかわいくて素敵っすね」
「そうでしょうか。えへへ……陽平くん、ほめられちゃいました。今日はいっぱいほめられるのですごく幸せな日ですね」
なんだこの生き物は。かわいいなぁ。
久守さんに褒められてひめはご満悦である。ほっぺたがゆるゆるだ。それを見て、俺も久守さんもついニヤついてしまうくらいには可愛かった。
「うへへ。こ、これは大空先輩が手を出すのも理解できるかわいさっすね。ロリコン上等といったところっすか」
「ロリコンじゃないけどね」
ああ、思い出した。
そういえば久守さん、俺のことをロリコンと思ってるんだよなぁ。この前はひめと戯れているところを見られたので、すっかりそう思い込んでいるらしい。
俺のロリコン疑惑に関しては一段落したというか、最近は星宮姉妹も慣れたのかもしれない。あまり話題に出さなくなったし、今更掘り起こすのはやめておこう。この件に関してはスルーすることにしておいて。
「それで、久守さんは何しに来たの?」
彼女は後輩の一年生だ。二年生の教室に用事がなければ来るわけがない。
このままだとまた俺がロリコンだのどうのって話になりそうだったので、すかさず要件を問いただした。
「この前、大空先輩に星宮先輩に関することで色々とインタビューしたじゃないっすか。その新聞ができたんで、お見せしようかなって!」
そう言って、久守さんは抱えていたスクールバッグから校内新聞を取り出した。
A4サイズのクリアファイルに入れられているが、受け取って取り出してみると二つ折りになっていたようで、実際にはA3のサイズだった。
その一面全てに、ひめの情報が掲載されているようで……ところどころに、ひめの写真が掲載されていた。
パッと目につく見出しは、こんな感じである。
『激写!天才姫が美味しそうに食べていたお菓子とは!?』
『姉だけが知る「ひめちゃんのかわいいところべすとすり~!」』
『星宮姉妹の昼食の謎に迫る――!』
……なんだこのほのぼの新聞は。
内容はひめのかわいい部分にフォーカスされていた。誇大広告だったり、悪いうわさ話だったり、そういった記事は一切ない。
この新聞で分かることは、とにかくひめがかわいいという一点だけだった。
「……少し、恥ずかしいですね」
俺が持っている新聞を覗き込んで、ひめがちょっと顔を赤くしている。
自分のことがたくさん書かれていて照れているみたいだ。あまりにも愛らしいので、この表情だけでもう一本記事が書けそうな気がする。
「照れてる星宮先輩……うへへ。これでまた一本、記事が書けそうっす」
……奇しくも久守さんと同じ思考だった。反省しよう――。
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